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JRA賞授賞式で大竹師、木村師と

  • 2019年01月31日(木) 12時00分
 2018年度のJRA賞授賞式が、1月28日、都内のホテルで行われた。

 既報のように、年度代表馬アーモンドアイを所有するシルクレーシングの米本昌史代表は、同馬の次走はドバイターフになることを発表した。

「このチームですごい経験ができて、幸せでした。ひとつひとつのレースが驚きでしたが、ジャパンカップのゴール後、場内が静まり返ってザワザワしたときのことが忘れられません」

 管理する国枝栄調教師は、いつもどおりやわらかな笑みを浮かべていた。

「フィジカル面、メンタル面、すべてにおいて、我々が思っている以上のものを秘めているのではないでしょうか。どこがリミットかわからない。ファンのみなさんと一緒に(興奮や楽しみを)味わっていきたいですね」

 アーモンドアイの主戦で、勝ち鞍・勝率・賞金の三冠でトップとなる騎手大賞に輝いたクリストフ・ルメールはこう話した。

「特別な馬です。頭がいいし、力もあります。大坂なおみ選手に似ている。全部の力がある。どこまで強いかまだわからない。凱旋門賞に出たら、いいレースをしたいです」

 調教パートナーをつとめる佐藤勝美調教助手も誇らしげだった。

「成長するごとにおとなしくなり、手のかからない馬です。苦労したことはありません。ただ、すぐ近くにいるのに、活躍すればするほど離れていくようにも感じています」

 担当の根岸雅彦調教助手はこう話した。

「牝馬三冠ではプレッシャーもありましたが、ルメールさんが上手く乗ってくれました。普段はおとなしいのですが、厩のなかでは気の強い部分を見せることもあります」

 生産者の吉田勝己ノーザンファーム代表も笑顔だった。

「すごい馬です。びっくりしています。負けないで、ずっと行ってほしいですね」

 現時点で明らかになっているローテーションは3月30日のドバイターフのみ。10月6日の凱旋門賞に出るとしたら、間に6月23日の宝塚記念や8月18日の札幌記念などを使うと、輸送や検疫、異なる環境に適応するための時間などが国内で走るよりずっとかかるので、この馬にとっては詰まりすぎかもしれない。また、これまでの使われ方からして帰国初戦がジャパンカップになることはなさそうだし、ひと月後の有馬記念もどうか。ということは、年内はドバイターフと凱旋門賞だけという、アーモンドアイならではの超プレミアムなローテーションになる可能性もあるわけだ。

 最優秀3歳牡馬の座についたのは有馬記念を勝ったブラストワンピースだった。記者投票は、同馬が114票、ダービー馬ワグネリアンが88票、ダートチャンピオンとなったルヴァンスレーヴが69票、皐月賞馬エポカドーロが3票、マイルチャンピオンシップを勝ったステルヴィオが1票、該当馬なしが1票という結果だった。

 管理する大竹正博調教師は、新聞記者と話すたびに「どの馬に入れたんですか」と訊いているのだという。

「ぼく自身は、3歳馬は早い時期から結果を出すことも大切なポイントとして評価されるべきだと思っているんです。ですから、選ばれるのワグネリアンかな、とも思っていました」

 私は、大竹調教師に有馬記念の翌週「週刊競馬ブック」のインタビューをし、このJRA賞授賞式の前週、茨城の牛久で行われた大竹厩舎の祝勝会にもお邪魔させてもらった。実は、20年ほど前から、大手広告代理店に勤務するW君や、相馬氏34代目当主の相馬行胤氏らを通じて、大竹師と私にはびっくりするような縁があるのだが、それは話すと長くなるので今回は省略する。

 年末に取材したとき、大竹師は、「ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションをする馬と、言葉以外の部分でもわかり合える『人馬一体』も素晴らしいと思う」と話していた。

 私は、大竹師が馬を評するときの言葉の使い方が好きなので、あまり非言語のほうばかりを極められると困ってしまうのだが、競馬のバーバルな部分で物語を紡ごうとする私とは、逆方向の対極を目指しているわけだ。その2人がこうして一緒に馬の話をしているのだから面白い。

 大竹師が言った。

「この前、中京競馬場に馬を使いに行ったとき、電車のなかで『ダービーパラドックス』を読んでいたら、駅を乗り過ごしちゃったんです。まだ最後まで行ってないですけど、すごく面白いです」

 申し訳ないと思いながら、嬉しかった。

 その大竹師から、マイルチャンピオンシップ優勝のお祝いに大きな花を贈られ、有馬記念のあと巨大な胡蝶蘭を贈った木村哲也調教師とも話ができた。木村師は、21.5%という驚異的な数字で、2018年度の最高勝率調教師と優秀技術調教師のタイトルを獲得した。

 6年前、私がインタビューしたときは、競馬が終わると毎週北海道に飛び、牧場巡りをしていた。

「そういうのをやめました。あと、もちろん朝は全部の管理馬を見ますが、それ以外はなるべく厩舎に行かないようにしています。うちの厩舎スタッフは世界一ですから。調教師は何もわかっていません。馬の話は彼らに聞いてください」

 そう言って笑った。なるほど、普通ではない結果を出すには、普通のことをしていてはダメなのか。

 大竹厩舎の祝勝会に祝辞を寄せた橋口弘次郎元調教師は、NHK大河ドラマ「西郷どん」を見るたびに大竹師を思い出していたという。

 私は、サッカー日本代表の森保一監督を見るたびに木村師を思い出す。

 何かを成し遂げた人は、やはり違う。

 ――さあ、おれも何かを成し遂げよう。

 そのためのパートナーである出版社の文庫編集長らとJRA賞授賞式の翌日、銀座で食事をし、帰る段になってSuicaを落としたことに気がついた。

 財布に金が入っていたから帰宅できたが、これが競馬場の帰りなら危なかった。

 さあ、気を取り直して、「成し遂げた」と言えるものを書き上げよう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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