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クラシック戦線をにぎわす、驚嘆の切れ味を備えた新星登場/共同通信杯

  • 2019年02月12日(火) 18時00分

血統背景から見ても皐月賞の最有力候補


 ダノンキングリー(父ディープインパクト)が、超高速の切れ味を爆発させて重賞初制覇。無敗の3勝馬となり、皐月賞の有力候補に加わった。

 7頭立てとあって予測された通り前半はスロー。1000m通過は「61秒5」。4コーナー手前では先頭から最後方まで5〜6馬身の中に固まる展開になった。1800mを3等分した3ハロンごとのバランスは、尻上がりに「37秒1-36秒4-33秒3」=1分46秒8。勝負は直線「11秒2-11秒0-11秒1」の高速ラップに対応できるかとなった。

 先手を主張する馬がいれば、今後のこともあり好位で控える作戦もあったと思えるアドマイヤマーズ(父ダイワメジャー)は、この組み合わせでは「自分でレースを作るしかない」と覚悟してハナを切った。折り合って、引きつけて1000m通過61秒5のペースを作り、自身の上がりは「11秒2-11秒0-11秒3」=33秒5。坂上で並ばれて盛んに尾を振る仕草はみせたが、あれはバテたわけではない。「1分47秒0」の走破時計は、仮に勝っていたとすると、今年を含めて史上3位の勝ちタイムに相当する。

 実際、自分で各馬の目標になるペースを作り、この時期の東京1800mの共同通信杯を1分47秒0で乗り切った馬はほかには存在しない。完敗したので評価が下がるのはやむを得ないが、それは爆発力勝負になったときのダノンキングリーに対してだろう。

 近年、春のクラシックロードのなかで共同通信杯の占める位置はきわめて重要なのは知られる通りで、大きく重要度が再上昇した最近7年に限ると、共同通信杯の「1-2着馬」は、皐月賞で【4-1-1-4】(不出4頭)であり、皐月賞「1-2着馬」の出走した路線重賞のなかでは直近の弥生賞の「4頭連対」、スプリングSの「3頭連対」を上回る。

 すでに5戦したアドマイヤマーズは、皐月賞に直行すると思われる。さらに1ハロン延びる皐月賞2000mが、今回のようなスローになることはまずありえない。皐月賞は好位に控える公算大だが、距離はこなせるだろうか。ダイワメジャー産駒はすっかりマイラーとしての認識が定着し、1800m以上のGI-GIIを勝ったのはカレンブラックヒルの毎日王冠だけという怖い記録がある。

 体型は必ずしもマイラーとも思えない。父ダイワメジャーは、同じM.デムーロが乗り10番人気の皐月賞を1分58秒6で快勝している。母ヴィアメディチ(愛)の仏4勝は1600-1800m。タフな産駒を送ることで著名なマキャヴェリアン産駒の母の父メディチアンは、10FのGI英エクリプスSを制し、母の父としては昨年のプリンシパルS2着のブレステイキング、仏GIパリ大賞2400mを勝ったシャキールを送っている。アドマイヤマーズの評価はさらに難しくなったが、まだ上昇の可能性はある。

 完勝したダノンキングリーの爆発力は、いかにスローとはいえ、「ひょっとしてこの新星は……」、驚嘆のバネがあった。アドマイヤマーズをマークして進み、4コーナーで万全を期してひと息入れ、上がりは32秒9。推定「11秒1-10秒9-10秒9」に限りなく近い猛ラップで、並んでいたのは3完歩くらいだった。スローの直線勝負なので切れ味が強調された印象はあるが、中山の「ひいらぎ賞1600m」では大外の15番枠から出て、前半1000m通過57秒6のハイペースを中団でなだめて追走し、自身は「58秒2-35秒5」=1分33秒7。追い込んで3馬身半差の快時計などめったにあるものではない。2歳のコースレコードと0秒3差だった。どこからでもスパートできる自在性がある。

 ダノンキングリーにももちろん初距離2000mに対する心配はあるが、それは昨年から人気種牡馬となった半兄ダノンレジェンド(父マッチョウノ)のダート14勝が、1200m1分09秒1のクラスターCを中心に1400m以下に集中したことからくるイメージが強いため。全兄の現4歳ミッキーマインドの1勝は芝1600m、全姉ミッキーグッドネスは芝1800mで勝っている。また現7歳の半兄ダノングッド(父イルーシヴクオリティ)はダート6勝中の3勝を1800-1900mで記録している。

重賞レース回顧

切れ味を爆発させて差し切ったダノンキングリー(撮影:下野雄規)


 ストームキャット牝馬にディープインパクトの組み合わせは、牝系の色彩が異なるとはいえ、キズナや、ラキシス、サトノアラジン姉弟、エイシンヒカリ、仏ダービーのサンディオブマンで大成功の配合であり、長丁場はともかく中距離に不安は少ない。ダノンキングリーは、サートゥルナーリアなどと並ぶ皐月賞の最有力候補としていい。

 しぶとく伸びて3着のクラージュゲリエ(父キングカメハメハ)以下は、差のつきにくいスローで4馬身以上も離されては、みんな存分に能力の発揮できる7頭立てだっただけに厳しい結果だった。好馬体の2番人気フォッサマグナは、昨18年、いきなり166頭も交配された輸入種牡馬ザファクターと同じウォーフロント(父ダンチヒ)産駒だけに注目のマトだったが、まだ2戦目とあってレース前から気負いすぎ。まして1400mのあとだけに厳しかった。2015年に1戦1勝のリアルスティール(父ディープインパクト)が勝っているが、あれは史上初の快挙で、ほかの勝ち馬はこのレースを勝ったのは少なくとも3戦目以降だった。また、7頭立てとはいえ、ちょっと相手が悪かったかもしれない。

 5着ゲバラ(父ディープインパクト)も、これから今回の経験を生かしたい。力強いフットワークに高い将来性をうかがわせた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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