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【無料】町内一体となり行われたインティの祝勝会

  • 2019年02月20日(水) 18時00分

生産牧場がG1を制すれば、人々の出入りが絶えず大忙し


 今年初めてのG1フェブラリーステークスが、2月17日東京競馬場で行われ、1番人気のインティが直線ゴールドドリームの追撃をクビ差で退けて、見事優勝した。2戦目の未勝利戦からこれで土つかずの7連勝で、ついに待望のG1タイトルを手中に収めた。

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2戦目の未勝利戦から7連勝でGIフェブラリーステークスを制したインティ(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 浦河町野深の山下恭茂牧場では、 以前このコラムで触れたように当主の恭茂氏が入院加療中のため、今回は由吏子夫人が代理で東京競馬場に駆けつけ、現地で応援した。留守を預かったのは山下家から5キロ離れた町内姉茶(あねちゃ)で牧場を営む義兄の桑田博氏(67歳)である。

 今回、このレースに優勝したら、おそらく前回の東海ステークスの時とは比較にならないほどのお祝いの品々や祝い客が訪れるだろうと予想されたので、桑田氏は前もって野深地区の生活館を借用するべく準備を進めていた。

 山下家は夫婦2人で営む小規模牧場であり、加えてその2人とも不在ということになれば、住宅で来客を迎え、おもてなしをするのは難しいと考えたためである。結果的にこれは正しい判断であった。

 生産牧場がG1レースを制するとどのようなことになるか。それぞれ牧場によって違いはあるが、だいたい1.祝酒、祝花、ご祝儀(最近は商品券が多い)が大量に届けられる。2.地元町の町長、町会議員、農協組合長などの“お偉方”たちが駆けつける。3.近隣の牧場仲間が続々と集まってくる。4.地元新聞社などが取材にやってくる。

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祝酒とお祝いの生花


 これらの訪問客を出迎え、即席の宴会を催すために、自宅であれば座敷を開放して二間続きのスペースを作り、座卓と座布団を並べ、まずは酒やビール、簡単なおつまみなどを用意して出す。だいたいお偉方が顔を揃えた頃を見計らって、床の間などを背景にしての「万歳写真」を撮る。これは翌日か翌々日の地元紙に記事とともに掲載されることになる。今回はこれを生産牧場の自宅ではなく、近くの生活館で行なったのであった。

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祝勝会での万歳集合写真


 こういう時にお手伝いに駆けつけるのは、近隣の女性軍だ。近隣でなくとも、親しい友人になると、夫婦揃って訪問する。人手はかなり必要になる。次々に届けられる祝酒や祝花を玄関で受け取り、それを所定の位置まで運んできて並べ、写真に撮り、ノートに芳名を記入して行く。今回の場合、これらお祝いの品々がおおよそ70〜80件にも達した。

 午後4時半頃から徐々に訪問客が来訪し始め、時間の経過とともにどんどんその数が増えて行った。前述の「万歳写真」になったのは、午後5時半頃のこと。これが済んでから、全員が席につき、浦河町の池田拓町長の音頭で乾杯が行われ、宴会が始まった。

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浦河町の池田拓町長


 宴会のメインディッシュはだいたいお寿司とオードブルのことが多い。町内の寿司屋は、そのために前もって毎週の重賞レースを丹念にチェックしており、地元産馬が優勝した時のために仕込みをしておく、という。今回も、インティがゴールした瞬間にまずお寿司とオードブルを注文したのは桑田博氏であった。

 そのお寿司とオードブルが届いたのは午後6時過ぎのこと。この頃になって仕事を終えた牧場関係者が新たにやって来たり、また早々に引き上げる人もいたりして、絶えず人々の出入りがある。動きが慌ただしい中、この時間でも次々にお祝いの品々が配達されてくる。来る客と帰る客が錯綜し、駐車場でも混乱が続いた。何度となく「○○番の白の○○(車種)で来られた方、車の移動を願います」などという声が聞こえてきた。祝勝会は、9時頃まで続いた。

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宴会はとても盛り上がりました


 さて、生産者の山下恭茂氏は、苫小牧市内の入院先で、2人の姉、弟とともに兄弟全員揃ってロビーの大型テレビで応援したらしい。看護師が手作りしてくれたというインティの小旗を左手に握り、一心に画面を見続け、優勝した瞬間は涙を流して喜んでいたという。

 インティの活躍が彼の病状回復に少しでも力になってくれることを今は切に願うだけである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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