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手応え以上の勝負強さと猛然と伸びる決定力/中山記念

  • 2019年02月25日(月) 18時00分

従来のイメージを一新


 種牡馬ステイゴールド産駒のJRA重賞勝利が通算「100勝」に達し、区切りの100勝目を記録した5歳ウインブライト(父ステイゴールド)は中山記念2連覇となった。

 2回中山は前開催とは一変の高速コンディションに変わり、下級条件の芝1800mでも1分47秒台が続出。スピード型とはいえない成績を残してきたウインブライト向きの芝ではないため、時間とともに支持率は下がったが、1分45秒5の勝ち時計はレース史上3位の快時計。2004年の勝ち馬サクラプレジデントのコースレコードと0秒6差だった。

重賞レース回顧

松岡正海騎手とのコンビで中山記念を連覇したウインブライト(撮影:下野雄規)


 小倉大賞典から連闘で挑戦したマルターズアポジー(父ゴスホークケン)の作った前半1000m通過は「58秒2」のハイペース。これに引っ張られた時計は事実だが、自身の1800mの最高タイムを大幅に短縮し、5頭のGIホースを封じてみせた。また、上がり33秒7(自身2度目の33秒台)で伸びた内容は、これまでのウインブライトのイメージを一新させる内容だった。

 3コーナー過ぎから前を行くマルターズアポジー、ラッキーライラック(父オルフェーヴル)などを追撃態勢に入ったウインブライトの手応えは楽には映らなかった。4コーナーを回っても先にスパートしたラッキーライラックとの差はなかなか詰まらず、外から伸びてきたステルヴィオ(父ロードカナロア)にも交わされそうに見えたが、手応え以上に勝負強く、ゴール寸前で猛然と伸びる決定力を発揮した内容はすごい。父ステイゴールドのドバイシーマクラシック、香港ヴァーズのゴール前に通じるところがあった。

 コンビの松岡正海騎手とこれで【7-2-0-7】。いつか良くなると信じてきたが、「こちらの期待を上回るくらい、怖いくらいに良くなってきた」のコメントは、少しも大げさではないだろう。まだGIは未勝利でも、父ステイゴールドはGI【0-4-2-13】のあと、7歳暮れにGI香港ヴァーズを勝って引退している。距離は2000m級ならまったく平気だろう。オーナーサイドは、大阪杯2000mや、4月の香港(クイーンエリザベスII世C2000m)ヘの挑戦を表明している。

重賞レース回顧

これからの活躍も大いに期待できる内容だった(撮影:下野雄規)


 実に惜しかったのは、クビ差2着のラッキーライラック。アーモンドアイに3連敗した牝馬3冠は、やむをえない相手との対戦でもあった、と新たな古馬路線の挑戦者に立ち返って、入念に立て直してきた。素晴らしい仕上がりだった。53キロの利があったとはいえ、初の古馬のトップクラス相手に、初コース、1800mも初めて。

 ハイペースで飛ばすマルターズアポジーを果敢につぶしに出て1分45秒5は、勝ったに等しい素晴らしい内容である。結果は早く動き過ぎたかもしれないが、弱気なレースでは挑戦者ではない。アエロリット、ミッキーアイル、ダイヤモンドビコーなどが並ぶステラマドリッド一族で、輸入牝馬の母ライラックスアンドレースも米のGI馬。今春の展望は大きく広がった。

 楽な54キロ。どの角度からみても最有力だった5歳牝馬ディアドラ(父ハービンジャー)は、さらなる成長が期待されたが、馬体はできたものの直前になってもあまり気配が変わってこなかったように思える。勝ったウインブライトに12月〜3月は【5-2-0-0】のシーズン適性があるのとは逆に、3歳夏から秋にかけての3連勝で本物になったディアドラは、4歳の昨年も夏から秋に2連勝したチャンピオン牝馬である。しかし、冬シーズンに相当する11月〜3月はこれで10戦して0勝であり、この時期は好調にはなりにくい体質なのかもしれない。決してドバイ遠征前の1戦だから…などという仕上げではなかったが、どことなく元気がないように映った。

 3着ステルヴィオ(父ロードカナロア)は、490キロに成長した馬体に迫力が加わっていた。坂を上がってから前のラッキーライラック、並んだウインブライトと同じ脚いろになりかけたが、G寸前また伸びている。スパート開始はウインブライトが動いたのと同じ3コーナーあたり。マルターズアポジーとは2秒近く離れていたから、推定60秒前後の1000m通過か。しかし、あそこから追って動くとゴールまで約800m。スローならともかく、トップクラスでも最後まで持たないケースが生じるのが中山コースの一番の難しさである。3コーナーからスパートせざるを得ない苦しい形になりながら、上位馬では上がり最速の33秒5で「クビ、アタマ」差の3着は、実際には中身十分だった。

 エポカドーロ(父オルフェーヴル)は、皐月賞馬なので条件が合っているように考えられたが、先行馬がずっと11秒台のラップを続ける息の入れにくい高速の1800mは不向き。バテたように映るが、そうではなく、上がり34秒2は自身の最速タイだった。

 スワーヴリチャード(父ハーツクライ)は底力で4着に押し上げたが、この馬もコーナーの多い中山1800mというタイプではなかったろう。勝負どころを見いだせなかった。

 伝統の中山記念は「スペシャリストの舞台」と形容されることがある。実際、2000年以降だけでも2回勝った馬が4頭もいる。しかし、現在は「ドバイ、GIになった大阪杯、香港(クイーンエリザベスII世C)」などを展望するトップグループの春の始動戦にもなっている。総合力で勝ち負けするGI馬が存在すると同時に、どうして中山記念なのか、を考えなければならない実力馬も含まれるレースに変化している。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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