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オジュウチョウサンの大切な話と、重要ではないかもしれない話

  • 2019年03月07日(木) 12時00分
 オジュウチョウサンが、今週土曜日、3月9日の阪神スプリングジャンプで障害戦に復帰する。昨年、平地に再挑戦して注目されたが、春の中山グランドジャンプを勝っており、しっかり最優秀障害馬のタイトルを獲得した。

 今年も障害と平地の「二刀流」で行くようだ。この馬のジャンパーとしての素質を見いだした、石神深一騎手とのコンビをまた見られるのも嬉しい。

 私は、オジュウチョウサンについて話しているときの石神騎手の表情や、そのとき発する言葉が好きだ。この馬の背にいることの誇りと喜びが伝わってきて、「自分を成長させてくれる相棒」を得ることの大切さを再認識させられる。

 石神騎手に話を聞くと、自然と田中剛調教師の言葉が思い出される。かつて障害の名手だった師は、管理馬に関してこう言った。

「障害を飛ばすことによって、人と馬とのつながりができるんです。例えば、馬が障害を飛ぼうとしないとき、怖がっているのか、それともズルくて嫌がっているのかを人間が察し、扶助に対する反応を探りながら馬の気持ちを理解してやるといい。馬が障害を楽しみながら飛んでいるのが伝わってくることもありますよ」

 その「つながり」を得ることによって、相棒の力が自分の力になり、同時に、自分の力が相棒の力になる。すなわち、コンビの力が倍になる。いや、場合によっては5倍にも10倍にもなる。

 騎手と馬もそうだし、作家と編集者もそうだ。自分ひとりでできることなど、たかが知れている。ということに気づくまで、どんな職種でも何年もかかるものだが、そこに気づかぬまま犯したミスや、気づかずにいたがゆえの停滞を挽回してくれるのもまた、誰かの力を我が物とした自分にほかならない。

 話をオジュウチョウサンに戻したい。

 この馬の血統表を眺めていて、あまり重要ではないかもしれないことに、ふと気づいた。

 それは、父ステイゴールド(1994年生まれ)より、母の父シンボリクリスエス(1999年生まれ)のほうが若い、ということだ。

 普通、父より母の父のほうがひと世代かふた世代上であることのほうが多いのだが、ステイゴールドのように高齢まで種付けをつづけた種牡馬には、たまに起こり得るようだ。

 オジュウチョウサンは、ステイゴールドが17歳になった2011年に生まれた仔だ。

 ほかのステイゴールド産駒はどうか。母の父がメジロマックイーン(1987年生まれ)のドリームジャーニーとオルフェーヴルのきょうだいや、ゴールドシップのほか、平地GIを勝った産駒は、みな父のほうが若い。

 逆に、オジュウ同様、母の父のほうが若いステイゴールド産駒にどんな活躍馬がいるかというと、だ。

 獲得賞金が上から20番目までのなかでは、母の父アドマイヤコジーン(1996年生まれ)のウインブライト、母の父タニノギムレット(1999年生まれ)のパフォーマプロミスの2頭。あと、母の父ボストンハーバー(1994年生まれ)のクロコスミアは、父と同い年だ。3頭とも現役である。

 何のことはない。最近の活躍馬は、母も若いケースが多いので、母の父も比較的新しい種牡馬であることが多い、というだけのことか。ちなみに、ここに挙げた、オジュウチョウサン、ウインブライト、パフォーマプロミス、クロコスミアの母は、4頭とも2005年生まれである。

 さて――。昨日、4月20日に上梓する競馬ミステリー第2弾の初校ゲラを編集部に戻した。出版のタイミングからすると「平成最後の競馬ミステリー」になるかもしれないということに、今気づいた。

 それは紙に赤入れして宅急便で戻したのだが、雑誌のゲラは、だいたいPDFファイルとしてメールで送られてくる。来週月曜発売の「週刊競馬ブック」の連載「競馬はじめて物語」に、日本初の民間洋式牧場である青森の廣澤牧場について書いたゲラも、今届いた。

 廣澤牧場に関しては、「日本競馬の父」安田伊左衛門とともに競馬法制定に向けて動いた廣澤弁二のエピソードなど、私も初めて知る内容が多かった。

 いつもながら、とりとめのない話になってしまった。

 今年は花粉症の症状がきつい。少しの間、花粉のないエリアに避難しようと思う。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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