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BTC研修生OBの講話会

  • 2019年03月07日(木) 18時00分
生産地便り

講話会風景


育成現場に巣立つ前に貴重な現場での経験談聞く


 3月6日(水)の夕刻、BTC研修所において、先輩である研修生OB2人を招き、貴重な「現場の話」を聞く機会があった。もちろん、対象は現在研修中の第36期生で、残り1ヶ月となった研修が終わるのを前に、もうすぐ育成の現場で働き始める彼らに先輩として疑問や質問に答え、さらにアドバイスをして頂くのが目的である。

 2人の先輩は、いずれも近郊の民間育成牧場(山崎ステーブル)に勤務する騎乗者で33期生の小竹将貴君と、34期生の東森悠平君。それぞれ育成現場で働き出してほぼ3年と2年というキャリアになる。

 どちらもまだ20歳を少し超えたくらいの年齢で、ひじょうに若くフレッシュだ。期はひとつ違うが、2人ともこのBTC研修を修了後に、アイルランドに渡り3ヶ月間の騎乗実習を経験してきた。

 「やはり、行けるのならば行った方が絶対に良いです。どっちにしようかと迷っているのなら、行くべきです。行かずに後悔するよりも行った方が良いと思います」と口を揃える。

 小竹君は「僕の同期の研修生の中には、ここを出てすぐに働き始めたら、給料をもらえる、でもアイルランドに行くと給料どころか逆に研修費用を払って勉強させてもらうことになり、経済的なことを考えたら行けない、と消極的に考える人もいたのは事実です。

 しかし、行けば必ず得るものがあるし、実際に向こうで経験してみなければ分からないことがたくさんあります。“人がハッピーでなければ馬もハッピーにならない”ということも現地で直に教えられましたし、横に現役の騎手が併せ馬で騎乗していて、その人のスタイルを見て教わる、とか、学ぶことはいっぱいありましたね」と海外研修を振り返った。

 東森君も同様に「実際に働き始めたらなかなか自力での海外研修は難しくなります。費用の面でもBTCからの補助などもあってとても割安に行くことができたし、もし自分で行こうとすればもっともっとお金がかかることになり、せっかくの機会なのだから、ぜひ行けるうちに行っておいた方が良いと思います」と語った。

生産地便り

左が小竹さん、右が東森さん


 また、研修生時代の思い出について、小竹君は「今思えばとてもここは恵まれた環境だったなぁと痛感します。例えば、乗馬シミュレーターもあるし、鏡もあちこちにある。ここでは絶えず自分の騎乗フォームをチェックできるんです。

 それに、ビデオを撮っていて、後で自分の映像を見て欠点を指摘してもらえます。育成の現場ではそうしたことをなかなかしてもらえないので、騎乗フォームなんかは太陽光線でできた自分の影を見て判断する、というようなことしかできなくなります」と話した。

 東森君は「よほどの大手牧場ならいざ知らず、小さな牧場に何も知らないままいきなり就職すると、仕事を覚えて行くのが大変で、苦労することになりますけど、ここは1年間きちんと騎乗の基本を教えてくれて、至れり尽くせりのとても恵まれた環境だと思います。

 皆さん、就職してもまだできないことだらけで気分が落ち込むこともあると思いますが、今はできなくても後々できるようになれば良いというくらいの余裕を持って仕事をしてほしいと思います」と後輩にエールを送った。

 小竹君も「せっかく良い環境にいるのだから、シミュレーターやバランスポールなどを毎日使って、自分のバランス感覚を磨いて欲しいと思います。僕は研修生時代のバランスポールでの特訓が今の騎乗にとても生きていると感じています」と自身の経験を語っていた。

 2人の講話はひじょうに有意義で、内容の濃いものであったが、残り1ヶ月となった36期生たちにどこまで伝わっただろうか。

 昨春22名が入講し研修をスタートさせた36期生は、その後、それぞれの事情から6名が退所し、現在16名が在籍している。すでに全員が就職先を決めており、今春からはいよいよ(一部のアイルランド研修に向かう研修生を除いて)育成現場に就労することになる。

 今期16名のうち、地元浦河内の育成牧場に就職が決まっているのは5名。昨春研修を終えた35期生がひとりも地元に残らなかったことを思えば、上出来である。

 また修了式を取材させて頂く時に触れるつもりでいるが、現実問題として、せっかく育成の現場に就労しても、早々に退職または転職してしまうケースが少なからずあり、日本人騎乗者の人材不足の原因のひとつが、若者の定着率の低さにある。

 18歳人口が年々減少し続けている事情もあり、この先、とりわけ生産地における人材確保が益々難しくなっていくだろうことが予想される。いかにして前途ある若者をこの業界に振り向かせられるか。よりいっそう、業界を挙げて取り組まねばならない時期にきている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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