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ハデなタイプではないが、丈夫でタフな成長株/スプリングS

  • 2019年03月18日(月) 18時00分

騎手にとっても自厩舎馬での価値ある勝利


 ここまでの路線重賞とは一転、除外馬も出たフルゲート16頭立てで行われたトライアルを制したのは、10番人気の伏兵エメラルファイト(父クロフネ)だった。

 落馬の下腿骨骨折のため、ともに約半年しか騎乗できなかった17年も18年も、それまでよりずっと少ない20勝にとどまった石川裕紀人騎手(23)にとって、初めて所属する自厩舎の馬でのこの重賞勝ちは、相沢郁調教師=石川裕紀人騎手コンビでのクラシック挑戦を実現させる価値ある1勝だった。

 札幌2歳S少差4着。朝日杯FS6着。1勝馬として果敢に関西遠征をつづけ、前回の京都で2勝目。ハデなタイプではないが、今回も再三併せ馬で追って馬体重増。丈夫でタフな成長株なのだろう。

 過去10年間では、このスプリングS経由の皐月賞馬が、共同通信杯から直行の4頭と並んで、計4頭「09年アンライバルド(1着)、11年オルフェーヴル(1着)、13年ロゴタイプ(1着)、18年エポカドーロ(2着)」もいる。直前のトライアル回避組のレベルが高いのはたしかだが、勢いに乗っての快走に期待したい。

 4代母ファンフルルーシュ(父ノーザンダンサー)は北米で21戦11勝。1970年のカナダ年度代表馬。近親に近年の日本関係の著名馬のいるファミリーではないが、祖母サマーヴォヤージュのいとこになる外国産馬ビッグバイキング(父シアトリカル)は、1999年5月の京都4歳特別の勝ち馬だった。その直後、相沢調教師が開業初年度から手がけていたウメノファイバー(父サクラユタカオー)が伏兵として、武豊騎手の1番人気馬トゥザヴィクトリーを封じて第60回オークスを勝っている。相沢調教師にとってはどうやら巡り合わせのいい新星になるだろう。

重賞レース回顧

皐月賞トライアルのスプリングSを制したのは10番人気の伏兵エメラルファイト(撮影:下野雄規)


 この開催は4週目になっても全体に時計が速かった。土曜日の3歳牝馬「フラワーC」は、独走になったコントラチェック(父ディープインパクト)が中山コースでのレースレコードとなる1分47秒4「前半60秒5-後半46秒9-34秒9」だった。

 それと比較すると、スプリングSの1分47秒8「前半60秒0-後半47秒8-35秒7」は、馬場差がなく、かつ最初の1Fを別にしたマイル戦にすると《47秒4-47秒8》だった。もっとも時計が速くなって不思議ないイーブンペースなので、スローバランスにも近いコントラチェックの1800mの内容には全然かなわなかったことになるが、キャリアの浅い同士、息の入れにくい流れだったことはある。

 2着に突っ込んだファンタジスト(父ロードカナロア)は、1200m→1400m→1600m→を意識した武豊騎手の巧みなレース運び(位置取り)が大きかった。陣営も距離延長が最大のポイントとしていたが、あえて先行せず、後半スパートに賭けた作戦が見事に成功。上がり34秒6はNO.1だった。

 1番人気を譲らなかったようにデキの良さも光っていた。近年の重賞勝ち馬とすると、母も、祖母も、輸入馬の3代母も未勝利馬というファミリーは珍しいが、3代母ディアーミミ(父ロベルト)から広がる牝系には北米のダート9F級の活躍馬が何頭も並んでいる。たしかに体型から与える印象はマイラーだが、母方に配されてきた種牡馬はディープインパクト、デインヒル、ロベルト、プリンスジョン…。これにすでに名種牡馬の位置を揺るぎなくするロードカナロアの良さが加われば、たとえプラスはなくとも2000m級はこなして不思議ない。陣営は皐月賞出走に前向きになった。

 3着ディキシーナイト(父ダイワメジャー)は早め早めに進出し、一旦は先頭に立っての同タイム惜敗。全兄ダローネガの平地4勝が1800m以下だったので、理想は今回の1800m級かもしれないが、こなしたい距離延長の幅をマイナス要素に考えることはない。みんなが父や母や一族と似たタイプにすぎず、かつ、父や母を上回れないとなったら、サラブレッドは次の代につながる発展がないことになってしまう。

 クリノガウディー(父スクリーンヒーロー)は、機先を制して主導権を奪ったが、前半1000m通過60秒0のペース以上に厳しい展開だったか、6着に沈んでしまった。休み明けだけに本番をにらんでの積極策は悪くなかったが、前日の若葉Sで2頭、スプリングSでも賞金額下位だった2頭が出走権を確保したため、今週の毎日杯を加えると、皐月賞の賞金ボーダーラインを下回る危険が生じた。

 ロジャーバローズ(父ディープインパクト)は、初の中山遠征を気にしたか、パドック後半からいらつき気味。好馬体もまだ実が入っていないように映った。追って伸びを欠いたが、実は上がり35秒4は自身の最速上がり。出直すことになるが、正攻法の好位差し戦法は合わないかもしれない。思い切った戦法もありだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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