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秘めたる素質を開花させての快勝/高松宮記念

  • 2019年03月25日(月) 18時00分

明暗を分けたのは枠順だけでなくコース適性


 大波乱の難しいスプリントGIだった。新中京コースになって今年が8回目になるが、ここまでの経緯からそれでなくとも推測しにくい芝コンディションが、6日間開催の最終週のこの週だけBコースに移動する。

 今年は前日土曜の3歳未勝利の芝1200mが「1分08秒6」。また、直前の10Rに古馬1000万の芝1200mが組まれて「1分08秒2」だった。ここ2年以上の速い決着は予測できたが、多頭数の短距離戦になるとこれほどインを死守した馬有利に展開する馬場とは判断しにくかったところもある。

 もちろん、勝った4歳の外国産馬ミスターメロディ(父スキャットダディ)は枠順が味方した勝利ではない。初の芝1200mを1分07秒3(自身33秒7-33秒6)は、秘める素質開花の実力勝ちであり、時計、着差以上の快勝だった。

 2歳秋の東京ダート1300mの新馬を1分17秒4の2歳レコードで8馬身差独走を決め、初芝の3歳春のGIIIファルコンS1400mも、当時1番人気で7着ダノンスマッシュ(父ロードカナロア)、9番人気で5着モズスーパーフレア(父スペイツタウン)を封じて快勝している注目馬だった。

 前3戦がもう一歩だったこと。また、初の1200mとあって3番人気にとどまったが、これで中京芝は【2-0-0-0】。重賞2勝。ファインニードル、レッドファルクスなどが引退し、スプリント路線は混戦とされていたが、このGI制覇により確実に一歩抜け出したことになる。

 父スキャットダディ(15年12月に11歳で急死)は、その父ヨハネスブルグも日本に輸入され、さらにその父ヘネシー(父ストームキャット)も2001年に単年日本で供用されている。ともに活躍馬を送って成功しているが、早熟なダートの短距離型が多く日本では期待ほどの大物は送っていないため、スキャットダディ(豪、チリでも供用)の輸入産駒も必ずしも評価は高くなく、JRAの重賞勝ち馬はミスターメロディだけにとどまる。

 だが、北米での評価は高く、2018年の無敗の米3冠馬ジャスティファイ(2015年生まれ)を出現させるなど、一段と評価が上がったところでの急死だった。ミスターメロディの母の父はデピュティミニスター。3冠馬ジャスティファイの母の父はデピュテイミニスターの孫のゴーストザッパーであり、やがて種牡馬となるはずのミスターメロディに対する期待は生産界でも注目されることになった。

 ミスターメロディの3代母クールアライヴァルは輸入されている。芦毛の種牡馬だったクーリンガーのほか、3月9日の中京トリトンSを勝ってオープン馬となった5歳グランドボヌール(父エンパイアメーカー)など、ファミリーには現役馬も数多く存在する。

重賞レース回顧

2強の様相を呈したレースを制したのはミスターメロディ


 明暗を分けたのは枠順だけでなく、中京芝への高いコース適性も重要なレースだった。17年の稍重の高松宮記念を勝った6歳セイウンコウセイ(父アドマイヤムーン)は、その直後、あまりの高速馬場だった17年の函館スプリントS(勝ちタイム1分06秒8)で4着に沈み評価を下げたが、昨年は1分07秒6で勝ったように1分07秒台中盤なら対応できるタイプ。また、この時期から調子を上げることが多く、コースだけでなく季節も合っていたのだろう。好スタートから無理に先行争いに加わらなかった幸騎手の巧みな騎乗も大きかった。

 3着ショウナンアンセム(父ジャングルポケット)は、単勝358.9倍の17番人気。前回モズスーパーフレアに1秒0も負けているだけに苦戦と思われた。1200mは2歳未勝利戦の1勝だけだが、母の半弟マジカルポケット(父ジャングルポケット)は10年の函館2歳S勝ち馬。また母の半姉コウユーキズナ(父ティンバーカントリー)の全5勝も1400m以下なので、隠れたスプリント能力があったのだろう。そこに終始インを通った藤岡康太騎手の好騎乗が重なっての激走だった。

 4コーナーでは勝つのは人気のダノンスマッシュかと見えたが、前半「33秒5」も、走破時計の「1分07秒5」も数字の上では自己最高の記録。トップクラスと厳しいレースをした経験がない弱みが出た面がある。それでもゴール寸前、もう一回伸びている。期待通りの素晴らしい馬体に成長している。GI6勝の父ロードカナロアの初GI制覇は4歳秋のスプリンターズSであり、本当に強くなるのはこれからだろう。今回の敗戦で少しも評価は下がらない。

 モズスーパーフレアは、どこかで先頭に立ってレースを進めたい馬だけに外枠15番枠は心配された以上にきつかった。前半「33秒2」であそこまで失速は、勝つか負けるか極端な馬【6-1-1-7】だけにありえる結果だが、好走例のない中2週で快時計の追い切りも裏目に出たか。「動きに硬さがあった…」(武豊騎手)のコメントにもあるように、快速牝馬のもろさが出てしまった。だが、こちらもまだ4歳。ダノンスマッシュと同じように、完成されるのはこれからだろう。

 人気薄の6歳馬が2着、3着し、3回目の9歳馬ティーハーフ(父ストーミングホーム)、4回目の7歳牝馬レッツゴードンキ(父キングカメハメハ)があと一歩のところまで突っ込んでいる。定説通りスプリントGIは苦しいレースの経験がモノをいうレースであり、南半球産とはいえ、キンシャサノキセキが連勝したのは7歳、8歳時だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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