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【無料】今年度開催のフィナーレ、第51回ばんえい記念

  • 2019年03月27日(水) 18時00分

馬券売り上げは244億2919万円と単独開催以降最高額に


 3月24日(日)、帯広競馬場で「第51回ばんえい記念」が行なわれた。今年度(2018年度)の開催最終日とあって、開場前から帯広競馬場には数多くのファンが詰めかけ、レースが始まると馬の進む流れについてゴール方向へ移動しながら観戦する熱心なファンの姿が見られた。毎年、欠かさずこの日だけは帯広に遠征してくるという友人知人にも大勢遭遇した。最終的にはこの日6500人を超えるファンが入場し、大賑わいであった。

生産地便り

多くの観客で賑わう帯広競馬場


 メインのばんえい記念は第9レース。午後5時15分発走。今年は精鋭8頭がエントリーしてきた。人気の中心は昨年と一昨年、このレースを制しているオレノココロ(1.5倍)。オレノココロの三連覇なるかどうか、それにばんえい記念初挑戦のセンゴクエースがどう絡むか、そしてこのレースで引退が決まっているフジダイビクトリーが有終の美を飾れるか。事前の予想では、概ねこのような感じであった。

 帯広競馬場は終日北風が吹き、気温が低く寒かった。午後になると時折小雪が舞い、レースの合間には外で過ごすのが辛くなるような気温で、そのため場内は寒さをしのぐファンでどこも混雑していた。これだけの入場人員になると、スタンド内部のファン滞在エリアだけでは圧倒的に席が足りない。とにかく「居場所」を確保するのが大変であった。

 日が西に大きく傾いた午後4時半。整理本部に集合し撮影場所へと移動する。雲の間から西日が差してくるものの、いつまで太陽光線があるかどうか何とも判断できない。

 8レースが終わり、いよいよばんえい記念出走の各馬がパドックに姿を現した。コウシュハウンカイ(藤本匠)、オレノココロ(鈴木恵介)、ドルフィン(松田道明)、フジダイビクトリー(菊池一樹)、センゴクエース(工藤篤)、ソウクンボーイ(村上章)、カンシャノココロ(西謙一)、シンザンボーイ(阿部武臣)の8頭である。どの出走馬もタテガミを編み込み、綺麗に花などで飾り付けされているが、中でもひときわ目についたのはフジダイビクトリーであった。引退レースに賭ける陣営の意気込みが伝わってきた。

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フジダイビクトリーの派手な飾り付け


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コウシュハウンカイの飾り付け


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ドルフィンの飾り付け


 各社ゴール前1人ずつという制約の下、撮影場所に移動する。ばんえい競馬の場合、勝ち馬の真正面から撮影すると、大型の馬体に騎手が隠れてしまう恐れがあるので、最近は外側に寄って撮ることにしている。今回は8頭立てなので、これだと馬体に騎手が隠れる心配はない。

 定刻通りにゲートが開いた。スタンドは寒さの中ぎっしりと人垣で埋まっている。ゴール前でカメラを構えていると、途中経過が全く見えないのだが、それでも第一障害を上がった各馬が、第二障害の手前まで進んできたのが分かった。

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第二障害を先頭で降りてくるフジダイビクトリー


 そこで息を整え、いよいよ第二障害に取り掛かる。最初に動き出したのはフジダイビクトリーのようであった。オレノココロ、コウシュハウンカイも遅れずに動き出す。その直後、センゴクエースも第二障害を上り始めた。1トンを曳く各馬が第二障害を越えようともがくように全身の力を振り絞るのがファインダーから確認できる。最も盛り上がるのがこの瞬間である。

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コウシュハウンカイ(写真左)とオレノココロ(写真右)


 やがて、フジダイビクトリーが一早く第二障害を乗り越えて、坂を下り始めた。しかし、その直後、続いてセンゴクエースも第二障害を上り切り、怒涛の勢いで坂を下りてくるのが見えた。センゴクエースは第二障害で一度膝をつくアクシデントがあったものの、すぐに立て直し、その後は一気に坂を越えて力強い脚色でどんどん1トンの橇を曳きながらフジダイビクトリーに迫る。そして並ぶ間もなく交わすと、そのままペースを落とすことなくゴール板まで進んでくる。恐るべき強さであった。

 オレノココロもこれら両馬に遅れることなく第二障害を越えたが、最後はセンゴクエースの勢いの前についに2秒4及ばずの2着に敗退した。3着には意地を見せたフジダイビクトリーが入り、今年のばんえい記念はこれら人気上位3頭で決まった。なおセンゴクエースの勝ちタイムは3分35秒0。馬場水分1.2%という条件を考えればこれはかなり速いタイムである。

 勝ったセンゴクエースは父ウンカイ母サダエリコ(その父カゲイサム)、牡7歳鹿毛。槻舘重人厩舎の管理馬で、工藤篤騎手が手綱をとった。馬主は千石貞子氏、生産は芝桜高橋牧場(紋別郡滝上町)。

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センゴクエース、怒涛の追い込み


 センゴクエースはばんえい記念初挑戦で見事に栄冠を手にした。これで通算成績は82戦38勝2着15回、獲得賞金は3029万9000円となった。

 なおこの日をもって今年度の帯広ばんえい競馬は全日程を終了し、好調なネット発売の追い風もあって151日間で244億2919万円を売り上げた。前年比111.08%となり、帯広市単独開催となった2007年以降最高額に達した。

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センゴクエースのパドック時


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工藤篤騎手騎乗、センゴクエースのパドック


 ばんえい記念の1着賞金にもばんえい競馬の台所事情が見て取れ、今思えば2013年にわずか300万円にまで下落した頃が最も厳しい時代であった。この年(2012年4月-2013年3月)は153日間開催でわずか104億円台の売り上げにとどまり、1日平均でも7000万円に届かなかった。

 それから6年で売り上げは飛躍的に上昇し1日平均でも1億6178万円まで回復してきている。とはいえ、スタンドを始め、施設は総じて老朽化が目につくし、依然として低い水準のままの賞金や出走手当などの増額も喫緊の課題である。軽種馬と異なりばんえい競馬は橇を曳く特異な形態の競馬ゆえに、人馬レベルでの他競馬場との交流はあり得ず、生産から育成、競走そして引退後の繁殖入りと全てのサイクルをばんえい競馬だけで支えて行かねばならないのが辛いところだ。

 それには、まず魅力ある賞金体系であることが前提で、数多くの素質ある馬が入厩してこそ迫力あるレースが生まれる。今後のばんえい競馬の発展を考えると、まだまだ難問山積だが、できることからひとつずつ問題を解決して行って欲しいと思う。

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ばんえい記念の口取り写真

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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