スマートフォン版へ

レース名の個性

  • 2019年04月02日(火) 18時00分

地域に根ざしたレース名は歓迎されるべきこと


 地方競馬は4月からが新年度。すでに全主催者で開催日程や重賞予定が発表されているが、発表される時期は主催者によってさまざま。もっとも早いのが南関東で、近年では11月ごろには発表されている。一方で、3月になってもなかなか発表されない(できない)主催者もある。

 地方競馬ファンとしては、日程変更や、重賞の新設もしくは廃止などで一喜一憂することになるのだが、今回、キターッ!と思ったのが、金沢の『徽軫賞』(6月11日)。さて、なんと読むのでしょう。

 正解は、「ことじ・しょう」だそうです。

 金沢競馬では、2004年までアラブの重賞として『ことじ賞』が行われていたが、それが漢字になって復活した(条件は3歳以上牝馬)。ちなみに「徽軫(ことじ)」とは、兼六園にある「徽軫灯籠(ことじとうろう)」からとったらしい。兼六園の霞ヶ池にある有名な灯籠で、写真を見れば「ああ、あれか」と思う人も多いのではないか。

 ところで、中央でも地方でも世紀が変わった2001年あたりに、やたらカタカナの重賞名が増えた時期があった。

 2001年といえば、年齢表記が旧式の数え年から世界標準に切り替わった年だったというタイミングもあったのだろう、たとえば中央では、それまでの『朝日杯3歳S』が『朝日杯フューチュリティS』に、『阪神3歳牝馬S』が『阪神ジュベナイルフィリーズ』に変わった。年齢表記の変更で混乱を避けるという意図はあったのかもしれないが、このカタカナ表記は字面として冗長な感じが今でも否めない。たしかにアメリカのブリーダーズCではレース名に「ジュベナイル」という単語が使われているが、日本ではあまり一般的な言葉ではないし、その発音もなかなか馴染めない。

 時代の流れだったのだろう。地方競馬でも同じような時期に、各地でカタカナの重賞レース名が流行ったような記憶がある。

 しかしながら地方競馬こそ、その土地土地の地名や歴史的建造物などを重賞のレース名として歴史を重ねていくべきではないかという思いはずっとある。

 すでに廃止されてしまった競馬場の重賞レース名でも、たとえば、上山(山形県)の『樹氷賞』、福山(広島県)の『鞆の浦賞』、益田(島根県)の『日本海特別』などは、いかにも地方競馬らしいレース名だった。

 金沢で現在も行われている『百万石賞』などは、いかにもその土地の歴史を感じさせるもの。また門別で行われている『赤レンガ記念』の「赤レンガ」は、観光スポットとしても有名な北海道庁旧本庁舎のこと。『赤レンガ記念』は、ホッカイドウ競馬が門別単独開催となる以前、まれに札幌以外の競馬場で実施されたこともあったが、ほぼ札幌(道営)での開催に固定されていたのは、札幌市内にある建物ゆえのこだわりがあったようだ。

 そしてまた近年では、それぞれの土地にゆかりのあるレース名に回帰するような流れが全国的にあるのはいい傾向だ。

 たとえば高知。2012年に福山で新設された『大高坂賞(おおたかさしょう)』は、福山廃止後に高知で引き継ぎ実施されている。「大高坂」は、南北朝時代の武将の氏(姓)であり、築城した城(高知城の前身)の名前でもある。また2013年に新設されたのが『御厨人窟賞(みくろどしょう)』。「御厨人窟」は、弘法大師(空海)が修行していた洞窟とのことで、室戸岬に現存している。

 ちなみに、冒頭の金沢の「徽軫」や、高知の「御厨人窟」などは、知らないと読むことはほとんど困難で、そういう難しいレース名あるというだけでも話題になりそうだ。

 ここから後は文字数の関係もあり、その意味については省略するが、ほかにも近年、レース名の変更や新設された重賞には以下のようなものがある。

 岩手の重賞では2004年、それまで単なる『日高賞』だったのが『留守杯日高賞』となり、『みちのく大賞典』が『一條記念みちのく大賞典』となった。それぞれ岩手の歴史に根ざしたもの。

 また笠松では昨年、『ぎふ清流カップ』が新設され、次いで今年は『飛山濃水杯』という重賞が新設されている。

 重賞の新設/廃止はあまり安易に行うべきではないが、レース体系をきっちりと整備するのであれば、こうした地域に根ざしたレース名は歓迎されるべきものと思う。

 さて、来年はいよいよ東京オリンピックイヤーだが、大井競馬場で現在行われている『東京記念』は、前回東京でオリンピックが行われた1964(昭和39)年に『東京オリンピック記念』競走として新設されたという経緯がある。第14回まではそのレース名で実施されたが、その後に現在のレース名となって今に至る。

 いよいよ迎える2020年。第57回の『東京記念』は、その1年だけでも『東京オリンピック記念』とレース名を変えて実施してはどうだろう。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング