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【地方競馬ネット会議室(7)】NARに刺さった意見は? 川崎理事が読者アイデアに回答!/前編

  • 2019年05月05日(日) 18時02分
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▲最終回は川崎泰彦理事が再登場し、矢野アナとともに読者アイデアを検討!


全4回に渡りお届けするNAR×netkeiba.comの共同企画『地方競馬ネット会議室』。最終回となる今回は川崎泰彦理事(※正しくはたつさき)が再登場! 読者の皆様からお寄せ頂いたアイデアに感謝を述べつつ、ご意見や改善案を矢野吉彦アナと検討していきます。番組・公正確保・仰天アイデアなど…、ご意見が多岐に渡るなかNAR理事に刺さった意見とは一体?(取材:矢野吉彦)

読者から多く寄せられた“オリジナリティ”を求む声


矢野 早速ですが、今回、ファンのみなさんからいただいたご意見の中で、どんなものが川崎理事の印象に残っていますか?

川崎 大まかになりますが、一つ目は、NARの中でも長年にわたって議論されてきたような課題が多かったということ。二つ目は、地方競馬の将来方向とかJRAとの新たな連携といったことより、“身の回り”や“身近な”事柄に意見が集中していたという印象です。特に番組や競走、イベントなどへのご意見が7割くらいを占め、皆さんにとっての関心事項が「そこなんだ」ということも改めて感じた次第です。

矢野 どうしても中央競馬と比べがちになってしまうことはやむを得ないかもしれないんですけど、地方競馬独特の部分をもうちょっと改善していったらいいのではないか、というご意見が多かったですよね。

川崎 そうですね。文脈から、ふだんは中央競馬を楽しんでいらっしゃるお客様からお寄せいただいたご意見が非常に多かった、ということでしょうか。もちろん、「地方競馬が好きでたまらない」というお客様からのご意見も伺えましたが、その数は少なかったようにも感じました。それに、地方競馬を支持していただいている方々は、「地方競馬って恐らくこういうものだよな」と、妙な納得感があるのかもしれませんね。つまり、「中央と地方の違いはよく分かっている、地方に中央と同じようなことを望んでもなかなか無理だろう」と。

 ただ、中には中央との比較ではなく、地方ならではの“オリジナリティ”に対する叱咤激励の意味を込めた意見も多かったように感じました。例えば、独特なクラス分けや新たな馬券発売、それに「ばんえい競馬」に対する意見なども寄せられていましたね。

中央との差を埋めることに手立ては必要か


矢野 ここからは具体的な話になりますが、「交流重賞で中央の馬が出て来ると、中央の馬だけで馬券が収まってしまうことが多い中で、地方だけの馬券を売れないか(HN:タンハーさんほか)」という趣旨のご意見がありました。純粋な地方ファンとしては、地方最先着馬にこだわりたいという部分があるんですね。自分の身近なところで走っている地方の馬を応援したいという意図の現れだと思うのですが。

川崎 おそらく中央と地方が同じ競技レベルであれば、多分、発想として出てこないご意見ですよね。力勝負ですから着順通りの勝馬投票でいいのでしょうけれど、現実にはなかなか地方馬が大きなレースで勝てていない。レースでは勝てないんだけど応援はしたい、ということでしょうか。

 NARでは、一昨年からダートグレード競走において地方最先着馬に対する褒賞金制度を取り入れたんですが、導入当初は、「投資に見合う効果はあるのか」など、正直なところ半信半疑でした。そもそも競馬は勝たなければ意味がない、それなのに、2着以下、場合によったら1〜5着は中央勢が占めて地方馬は掲示板にも載らないような馬にでも、最先着していたら褒賞金を出すことになるわけで、そこは本当に慎重にならざるを得ませんでした。

 ただ、「馬主にお願いしてもっと血統の良い馬をドンドン入れて貰おう」とか、「主催者に言って、賞金を沢山出して強い馬に出走してもらえれば」と、はた目から言うことは簡単ですが、実際問題、これがそう簡単にはいきません。それに手をこまねいていても地方馬が自然に強くなるわけでもないので、NARのこうした新しい取り組みを知った厩舎関係者が意気に感じて励みと捉え、出走を検討してくれるかもしれない。「だったら、1回やってみようじゃないか」ということでやってみたら、これがだんだんと効果が出て来た。さらに上を目指して、5着から4着、4着から3着へと、地方馬が少しずつ上位の着順を獲得するようになってきたわけです。

 実は、こうした“強い馬づくり”への取組は塚田理事長の発案と強力なリーダーシップの下で進められており、地方競馬の悲願でもあるんです。

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▲いまやDG競走でも人気の一角に支持される船橋所属のキタサンミカヅキ(撮影:高橋正和)


矢野 その中には地方馬が勝ったレースもありましたね。でも、褒賞金はいいとして、そういう馬券を売るとなると話が違ってきます。法律や規則を変えなきゃいけません。それは難しいでしょう。だったら例えば、「地方最先着馬はどの馬?」というクイズをやるなど、企画ものでフォローしていく工夫がもっとあってもいいかなと。

川崎 そうですね。馬券とは別の形で参加していただくというのも当然あるんだろうと思います。地方競馬場で開催する交流競走は、本来は地元勢が有利ですよね。遠征(アウェイ)ではなくて、“在厩競走”(ホームゲーム)で輸送負担も少なく、コースにも慣れていて、それを熟知した騎手もいるわけですから。そういう意味で、地方競馬場で行う交流戦というのは、地方が有利であることに間違いがない。なのに力の差が歴然とあって負けてしまう。だったら、地方馬に限ればどの馬が一番健闘したのかが、地方競馬ファンの関心事になるのかなと思うわけです。

 そこで、お話にもありましたように法改正の手続きを取って新種馬券で構えるのではなく、「地方最先着馬当てクイズ」と言う形で応援していただくことも有りかなと思います。そもそも何とか地方馬に勝ってもらいたいとの気持ちが、ご意見に表れているものと感じました。

矢野 地方馬にもっと馬券の対象になってもらうために、「交流重賞もハンデ戦にしたらどうか(HN:特命係長さん ほか)」というご意見もあります。交流重賞だけでなく、ふだんの番組の中にもハンデ戦を増やしてほしいというファンもいらっしゃいます。これは、地方独特のクラス分けの問題にもつながってくるんですが、現状のように非常に細かいクラス分けをしていると、大きくクラスが離れた馬を集めて走らせるレースって、なかなかないわけですよね。そうすると、似たようなところの馬同士でハンデ戦をやってもハンデが付かない。

 先日、石崎騎手引退の日に船橋でハンデ戦があったんですけど、十何頭出ていて、斤量が57圓55圓靴なかったんですよ。これのどこがハンデ戦なんだろうって。そういうことにもなっちゃう。逆に交流重賞をハンデ戦にすると、中央の強い馬が極端に重い斤量になってしまうかもしれない。これも難しい問題ですね。

川崎 そうなんですよ。おっしゃったように、交流競走の場合ですと、現状では力の差があり過ぎてしまって、中央馬は60kgを軽く超えて、計算上63kg、65kgにまでなってしまいますし、一方、地方馬も50kgを下回って、48kgとか49kgとかの軽重量になってしまいます。

 地方の騎手の場合、大体55kg以下で免許試験に合格、レースでは51kgから52kgでウエイトコントロールしていきます。鞍などの装具が約1kgありますので、仮に53kg未満のレースとなると、騎乗できる騎手が限られてしまいます。

 もちろん体重が軽い騎手はいることはいるんですけれども、ダートグレート競走などの重賞競走に乗るような有力騎手で53kg未満の騎手がそんなにいるかと言うと、なかなか多くはいません。実際問題、騎乗依頼自体に支障を来すことになってしまいます。それに、重いハンデを背負って出走する中央馬の故障発生リスクというものが高まってきますので、それも大変心配になります。

矢野 確かに。そうすると、この部分での解決策、解消策というのは、どんなものがあるとお考えですか?

川崎 そうですね、ハンデ戦に関しては確かにお客様の声がありますので、ダートグレート競走では、現在4つのJpnIIIで実施しています(※かきつばた記念/名古屋、サマーチャンピオン/佐賀、クイーン賞/船橋、兵庫ゴールドトロフィー/園田)。NARにも、専属ではありませんがハンデキャッパーがいて、交流競走の時はJRAと協力しながら斤量を決めています。また、条件交流とかオープン競走のハンデ戦を実施する場合、純粋にハンデを決めると先ほどのような問題が出てきますので、「グレード別定」という考え方を導入しています。

 これは、通常であれば基準の負担重量に対して、例えば4歳以上牡馬の場合、GI/JpnIを勝つと3kg上乗せし、JpnIIであれば2kg上乗せするなど、グレードレースの勝利によって負担重量を重くしていくやり方です。まだまだ工夫の余地はありますが、これなら、ハンデキャップの要素をかなり採り入れた形になりますので、引き続きこうした方法で力を入れていければと思っています(※平成31年4月1日現在、地方実施ダートグレード競走40競走中、定量16競走・グレード別定19競走・賞金別定1競走・ハンデ戦4競走)。

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▲クイーン賞などで導入するハンデ戦のほか、「グレード別定」にも注力(撮影:高橋正和)


必ず話題に挙がる“クラス分け問題”


矢野 賞金でやっていくとどんどん差が付いちゃう。勝ち鞍数ではなくて、どのレベルのレースを勝ったかということだけで決める。

川崎 そうです。そうすると、中央も地方も同じ考え方のもと、また、地方にあっては南関東だろうが、他地区だろうが、どのグレードで勝ったかによって、次のレースでの負担重量に差が付いてきますのでハンデの合理性は高まります。

 それから少し話は逸れますが、この度のご意見の中で、「競馬場によって異なるポイントを付けて、それを目安にして斤量を決めてはどうか(HN:チルトサンドさんほか)」というのがありましたよね。

矢野 レーティングのようなもの、ですね。

川崎 そうですね。確かに考え方として、それも1つの方策かもしれませんが、その理屈でいくと、競馬場ごとにランク付けが出来てしまって、本来は馬の能力で推し量らなければいけないものが、競馬場のランク付けでもって全体の能力を推し量ってしまうことになります。そうすると、競馬場で序列が出来てしまい、競走能力の尺度ではなく所属するだけで有利不利の扱いを受けますし、例えそれが一時的であっても下位に評価された主催者や厩舎関係者は到底納得できないのではないかと思いますね。

 それと、先ほど矢野さんから船橋のハンデ戦の話があったんですけど、南関東では、いわゆる「クラス混合戦」という番組編成があって、B3とC1の2クラス混合戦、あるいはC2まで広げた3クラス混合戦などを組んで、1クラスごとに2kgの差を付けていくというようなことを以前からかなり採り入れています。

矢野 クラス別、クラス混合戦というのは、結構あちこちでやっているみたいですね。これはクラスが分かれているからこその取り組みですが、それが逆に分かりにくさにつながっているということもありますよね。

川崎 そうですね。みなさんのご意見の中にも、クラス分けが難しい、分からないとかという声が結構多かったですね。

矢野 この企画の第2回でも、川崎理事にご説明をいただいた一番のポイントでした。この話題から次のようなご意見もありましたね。「この前の習志野きらっとスプリントの他地区で格下のメンバーが出走したせいで、南関の有力馬が出れなかったのはおかしい(HN:毎日ヨーグルトさんほか)」

川崎 この例は複雑なクラスに関する話題の典型ですね。そもそも広域的に馬の交流が行えるようにと、私たちの基本的な姿勢として他地区との交流を積極的に広げていこうという戦略があり、交流レースにおいて頭数を決めるにあたり、最初から他地区枠というのを設けているんです。例えば14頭立てであれば4頭は他地区から優先的に確保して参戦を促すとか。主催者の立場からいえば、自場の馬だけでやりたいところでしょうし、他地区の強い馬が勝って賞金をほかに持っていかれるのは面白くないでしょう。

 でも、こうして他流試合を重ねることで切磋琢磨して競走馬の質を上げ、また他地区の地方競馬ファンの方にも広く知っていただくことで、地方競馬のすそ野を広げていきたいとの思いがあるんです。本音では、知らない馬がやって来て戦うよりも、なじみのある馬同士でやった方が、ファンも分かり易く馬券も買いやすいし、応援もしやすいんでしょうけれど。

 これは地方競馬だからこそ取りうる番組形態であって、馬の交流と騎手の流動化をセットで打ち出すことで、全国規模レベルでの市場展開という相乗効果を目指しているところです。

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▲地区交流を促進する上では様々な弊害も


矢野 分かりにくさを今のままにしておくのも良くないけれども、なかなかそれを一概にすぐ直せと言っても難しい。一覧表みたいなものがNARのサイトに載っていれば比較ができると思いますが、今のところそういうものがないですね。

川崎 個々の競馬場ではクラス分けの基準を公表しておりますが、それらを一つにして関係性を見せていくというやり方は、残念ながら用意していません。それは、クラス分け自体が競馬場ごとに賞金額や馬の登録頭数などで決まっていて、随時変わるものだからです。

 しかも相対(あいたい)するランクを公表することで、先ほどお話ししたように競馬場ごとの序列をNARが公認することにも受け取られかねない。つまり、ある地区のC1と他地区のB1が能力的に同等であるというようなことを公表した場合、“他地区のB1のレベルが相対的に低い”となりますが、これは馬本位ではなく競馬場本位からくる発想でして、外形上、競馬場ごとの経営力を競い合うことにつながります。それでは却って不要な誤解を与えかねません。

 ただ、お客さま側からすれば、競馬場ごとのクラス分けの相関性を一覧で押さえておきたいという思いがあるのでしょうから、NARとして現実的にどのような対応が可能か勉強したいと思います。

矢野 在級馬、転入馬のクラス分けの基準についての広報はNARができることですね。

川崎 主催者が本来有している情報をどのように集約、公表していくのか、そのやり方も含め、引き続き追求していきたいと思っています。

ファンファーレ好きの方に朗報!


矢野 地方のオリジナリティみたいなことで言うと、ファンファーレやチャイムとか、本馬場入場の音楽などに、結構こだわりを持っている方も地方ファンには多いようで、それについてのご意見がありました(HN:大谷場藤右衛門ほか)

川崎 いや、正直感心しました! よくここまで調べて頂いているものだと思いましたし、とても歴史を感じるのもありました。まずファンファーレですが、JBCが来年でちょうど20回大会なんですね。その20回記念用のファンファーレをつくるか、あるいはJBC限定のファンファーレを作ったらどうだろう、これなら持ち回りでもずっと使えるという意見もありまして、検討してみたいなと思いました。

矢野 ファンファーレとか本馬場入場の音楽というのは、先のホームページと違って、全部統一しちゃっていいのかというと、そうでもなくて。各競馬場がオリジナルでやっていた方が、「あ、ここの競馬場のこの音楽だ」というのが伝わってきていいと思うので。JRAのファンファーレがスマホや携帯の着信音に使われていますし、著作権の問題が生じますが、地方もああいうふうに使ってもらえるといいですね。「おっ! あのスマホの人、きっと園田のファンに違いない」とか。勝手に競馬場の存在を宣伝してくれちゃうわけですから。

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▲「地方のファンファーレも着信音で使ってもらえるといいですね」


厳しい意見が相次ぐ公正確保の問題


矢野 それはさておき、今度は一番厳しい部分に踏み込んで、公正確保について伺います。まず、無気力レースに関して、厳しい目で見ている方が多い。ここにご意見を寄せられた方というのは、大勢の中の代表だと思うんですよ。これに関してはどういうふうに?

川崎 現在は、ホームページで24時間、レース映像を流していて、世界中どこからでもアクセスできます。むしろ、決勝審判委員や、裁決委員よりもお客さまのほうが同じレースを何回もご覧になっていらっしゃる場合もあり、その方々から「この騎手は普段の騎乗と違うね」とか、「ゴール前、おや、どうしたんだろう」というご意見もNARに寄せられています。

 われわれもそれぞれのレースが終わる度にチェックしていて、裁決委員が疑問に思った場合、レース後直ちに騎手を呼んで事情聴取を行い、「理由が認められない」「合理性に欠ける」というものについては、指導したり処分を行うなどしております。

 ご存知のとおり、“騎乗馬の全能力を発揮させる”というのが騎手に課せられた本分です。加えて、調教師は“完調な馬を出走させる”という、この2つの鉄則があって初めてレースが成立します。それに対して、「脚元が不安だった」とか、あるいは「馬の癖があって上手く追えなかった」など、いろいろな理由を騎手は言うんですけども、ビデオ映像と照らし合わせてつじつまが合わないような弁明に対しては、調教師も含め厳しく対処しています。

 特に騎手に対しては機会を得て、訓示と研修を繰り返し繰り返し行っています。また、ルールを変更した場合には、その都度、講習会や研修をやっており、「お客さまに疑念を抱かれることがないように、常に100%全力で行くように」と徹底させております。

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▲レースにおける公正確保について、現状のルールと対処を説明


矢野 なかなか裁決の中身をすべてさらけ出すことは難しいかもしれないんですけど、ファンが何回も繰り返し映像を見られるような状況の中で、そういう事象があった時に、裁決と騎手とのやり取りで“こういうことがありました”というのは、ある種、今の時代の求められている説明責任のようなものだと思うんですよね。

 そこをどこまで情報開示するか。それを開示しないままでいると、かえって疑念を招いてしまうことがあるので、なるべくファンに分かりやすいよう、そのやりとりを伝えていくことが必要なんじゃないかと思うんですが、いかがでしょう?

川崎 ご指摘の通りです。情報公開、アカウンタビリティとか、説明責任とかが求められているのは事実だと思います。まして、騎手にとって騎乗停止や戒告などは不利益処分ですので、まずは騎手に対して、処分理由を伝えることは必要ですし、また馬券を買って下さっているお客さまに対しても、ご納得いただけるような説明をきちんと果たしていくことが大事なことだと思います。情報公開の点から申せば、例えば競馬場で公開したパトロールビデオについては、裁決レポートを付けてNARのHPで公開しているところです。

矢野 目に見えてない部分をどういうふうにしっかりフォローしておくか。予めあるべきことをやっておくかということが公正確保には重要なんですね。でもファンの目が厳しくなっているということは、主催者だけじゃなくて現場の人達が一番気づいてもらわないといけないことなんですよね。

川崎 そうですよね。公正確保に関わらず厳しい意見というのは、本当はありがたい意見なんです。これは私の経験ですけど、「こんな競馬場なんか二度と来るもんか!」って言って怒って帰られるお客さまのほとんどは、次の日になるとまた来られていました。

 逆に、離れるお客さまは文句の一つも言わず黙ってお帰りになるんですね。文句は言わない、クレームを付けられないんですよ。つまり「クレームを付けるに値しない競馬場」というレッテルを貼られたのだろうと思います。ですから、厳しいご意見を言ってくださるのは、やっぱり改善の余地を期待して言って下さっていると思って、売上を伸ばすヒントになるというふうに捉えていくのも一つの考え方だろうと前向きに捉えています。もちろん、厳しいご意見に対して誠意をもって対応することは言わずもがなです。

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▲「厳しいご意見こそ、改善のヒント。誠意をもって対応することは言わずもがなです」


地方競馬全体で推し進める“見せる安全”


矢野 次は、ファンがもうちょっと競馬場に参加しやすいような、そういう環境づくりについてです。先日、園田で相撲部屋を呼び込んだというような、あれはものすごく画期的で素晴らしいことだと思うんですけど。そういうような、競馬場にファンを呼び込む企画が必要かなと。

川崎 実はそれも歴史的に見て公正確保と深く関係してくる話なんですが、先の競馬法改正の審議過程では、お客さまが普段見れない業務エリアや馬場走路を間近で見ていただけるような企画を、というお話もいただいております。こうした内容の話について15〜16年前に時計の針を戻すと、「そもそも業務エリアや馬場にお客さんを入れるなんてとんでもない」という声が強かったんですが、今では競馬資源をどのようにして有効活用を図っていくのか、大きなポイントになっているのだと思います。それに、競馬場にファンを呼び込む企画は、やるからには時代にマッチングした形で大胆に変えていく必要があると思いますね。

矢野 昔は馬場に釘をまかれた事件がありましたからね。

川崎 そうですね、今では皆でチームを組んで馬場を何周か回る「ダートラン」というイベントを、船橋や川崎、名古屋でやっていますけれども、あれをやった後に靴紐とか、何かしらの金属、腕時計とかを落としたなんていうことになるとこれは大変ですから、競馬場を管理する側では絶対許可しなかったんです。

 でも今では“馬場を走りたい”というニーズの高まりを受けて限定的ですが走路を開放し、「ダートラン」後の馬場を何度も手入れしてレースに支障を来さないよう努めておりまして−実際、これには人手や経費は掛かりますが、ファンや地域の支えがあっての競馬場ですから、私たちとしては可能な限りお客様のご要望にお応えしていきたいと思っています。

 また、装あん所や下見所ですね、こうした場所についても、以前は「そんな業務の舞台裏へファンを招き入れるなんて何を考えてるんだ!」ということで、「見せない」「入れない」「触れさせない」という、“ないない尽くし”がセキュリティを担保する唯一の手段だったわけです。今は情報を提供しながら、その中で公正確保をどう守るかというバランスを取りながら進めていかなければならないと思っている次第です。

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▲現場も時代の変化とともに“見せない安全”から“見せる安全”へ


川崎 お客様のニーズがあり、それに可能な限りお応えするのが競馬の生き残り策ですし、今では、バックヤードツアーを実施していない方が珍しくなりました。ご意見の中にもありましたが、能力試験の公開もそうなんですけれども、できるだけお客様にも競馬をトータルで見ていただこうというところは、やはり時代の流れなのかなと感じています。

 ただ、どの競馬場もギリギリの人数で運営しているというのが実態で、また、競馬場によっても抱えている案件や事情が異なります。お客様対応ができていない競馬場があると、NARへ「未だこういうところが見られない」「やっていない」という声がダイレクトに届きます。

矢野 これは旅行会社さんなどとタイアップしながら、いろいろ考えてスムーズに行くようしていただきたいですね。

川崎 競馬を開催していない時は、ファン感謝祭のようなイベントをオープンにしてるんですが、しかし、さすがに開催中となると、警備面を含め公正確保を図らなければいけませんので、そこはある程度の規制を設けて線を引きながら、「お目にかけられるところはご覧いただく」という基本姿勢で主催者にも伝えたいと思っています。

老朽化が進む関係者エリアの施設改善も急務


矢野 バックヤードツアーでいろいろなところを見てもらうということで言えば、厩舎施設などもご覧いただけるような状態にしておかなければいけません。これは施設改善にもつながるもので、昔はとても見せられないというようなところもあったように思われます。

川崎 ありましたよね。これまで売上が厳しい時には、何とか売上を伸ばそうと最初に手を付けたのが勝馬投票券の発売環境の整備でした。電算システムの開発から始まって運用、それからスタンドの改修など、申し上げるまでもなく安全安心という視点では耐震補強を優先に施したわけですが。そして、施策の優先順位から止む無く下位になってしまったのが業務関係のハード整備です。例えば、下見所や装あん所、騎手控室、検量所など、ここは直接お客さまの目に触れませんから、後回しという扱いになりました。

 そして、もうひとつ大きく対策が遅れているのが厩舎です。どの競馬場もなかなか手を付けられなかったんです。これについては、平成30年度から5ヵ年の計画で、全ての競馬場を対象にNAR独自の資金で整備を支援していこうということになり、今回、帯広や大井の小林分場の厩舎地区を先行して取り組んでいます。川崎の小向厩舎も空調設備工事を行い、猛暑対策として馬の健康管理という視点で整備を支援しています。

 このほか名古屋の弥富トレセンや水沢など、これらの厩舎も今後、それぞれ計画を作って改善していこうという動きが本格化してくるのではないかと思います。

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▲お客様エリアの整備も一段落、厩舎エリアの改修へ続々始動


矢野 大人が子どもを連れてバックヤードツアーに参加してくれたら、子どもにとっては職場体験みたいなものにもなるはず。施設が良ければ、ここで働いてみよう、という気持ちになるかもしれません。それが、「えっ?こんなところで?」って思われちゃうと、ねぇ。

川崎 馬主さんが自分の愛馬を入厩するにいたって、「えっ?うちの馬がこんなところで生活するの?」って、老朽化著しい厩舎ではやっぱり良い印象を持たれない。だから、厩務員の就業環境の改善を図るとともに、馬にとってもキレイで快適な環境でということになります。

 小学校で総合学習って学びの時間がありますけれども、地元の子どもたちや保育園児が競馬場や厩舎を訪ねて誘導馬とかポニーとかに触ったりして親しんでもらい、また、ホースセラピーという言葉があるように、医療や介護、あるいは福祉の分野でも障害をお持ちの方へ活用を図ったりするなど、地元の方たちへの貢献例を数多く聞いているところです。

矢野 あと競馬場の施設改善ということで言うと、スタンドの一番上、一番いいところに主催者の部屋があって、お客さんがそこにいない。そこから見下ろす景色が一番いいんだから、そこにお客さんを入ってもらえる構造にならないものですかね。公正確保のための裁決と着順の判定はそこにあってもいいけれども。

川崎  お客様には有料の特観席という形で開放しており、そこではフリードリンクにするとか、競馬新聞を差し上げるとか、快適な環境作りをしている例があります。お話にあるような主催者が押さえている最上階の部屋は、すべての競馬場にあるわけではありませんが、表彰式のプレゼンターの控室として使ったり、協賛レースのご招待席として、あるいはトークショーなどでスタッフとの打合せや進行を部屋からチェックしたりと多様な使い方をしているようです。

 部屋の広さに限りがありますので、今後、例えば何人かのお客様に抽選でモニター観戦していただいて、競馬場へのご意見を聴くスペースとして利用することがあっても良いかもしれませんね。

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▲来場者のニーズに合わせ、お客様エリアも試行錯誤が続く


(⇒後編に続く)

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