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最先端の育成施設で懐かしい再会

  • 2019年04月25日(木) 12時00分
 先日、福島のノーザンファーム天栄と、北海道のノースヒルズ清畠を訪ねた。

 どちらも、ずっと行きたいと思っていた施設である。

 ノーザンファーム天栄には、前夜、新白河のホテルに泊まってから向かった。朝、ホテルからの道沿いでも、ノーザンファーム天栄に着いてからも、思いがけず満開のソメイヨシノに迎えられた。東京ではとっくに葉桜になっており、満開の時期も、天気が悪かったり、全体に生育が今ひとつだったりと、満足な花見ができていなかった。それだけに余計に嬉しかった。

 木實谷雄太場長に話を聞いたあと、周回コースと坂路コースを案内してもらった。クッションの効いたチップとポリトラックを歩いてヒーヒー言いながら、馬って偉いな、とあらためて思った。

 同行したスポーツ誌のカメラマンが「すごく面白くて、撮りすぎたぐらいです!」と喜んでいた。ファインダーを覗いているときはどう感じているのかわかりにくいタイプなので、意外に思いつつ、彼の笑顔を見て、来てよかったという気持ちが強くなった。

 ノースヒルズ清畠には、実家から単身、車で向かった。約束の時間より早く着いてしまったのでどうしようかと思っていたら、福田洋志ゼネラルマネージャーから電話が来て、新冠の本場から移動中で、もうすぐ着くという。助かった。

 2年前の秋に新設されたここは、ノースヒルズの生産馬と、前田幸治代表をはじめとするチームノースヒルズが所有する馬たちの中期育成、すなわちイヤリングの施設である。

 海沿いの国道から少し上ったところにあるので、放牧地から海が見える。

 ノーザンファーム天栄に行ったときにも感じたのだが、ここに立っていると気持ちがいい。馬もきっと同じように感じているのだろう。そう考えながら放牧地を見渡した。1歳馬たちはちょうど朝ガイを食べる時間だったので、みな馬房に入っていた。が、放牧地に1頭ずつ、大人の馬がいた。うち1頭、黒くてカッコいい馬が牧柵の上から整った顔をこちらに向けていた。

「ファリダットです。覚えてます?」と福田さん。

 贔屓のスマイルジャックと同い年(14歳)で、何度も一緒に走ったイケメン同士だ。

 今はここでリードホースとして若駒たちの先生役をしているのだという。

 1歳上のフサイチホウオーがノーザンファームイヤリングでリードホースをしていることはつとに知られているが、同じようにセン馬となって、新たな役割を与えられているのだ。

 繁殖生活を引退した馬や、繁殖馬になれなかった馬たちの第2、第3の馬生の選択肢に、イヤリングのリードホースが入ってきた、ということか。

 ちょうどいいタイミングだったので、新著の『キリングファーム』を木實谷さんと福田さんにもらわせてしまった。福田さんは、当サイトのニュースを見て、この本が出たばかりであることを知っていた。感想を聞くのが怖くもあり、楽しみでもある。

 さて、今週は、平成最後の天皇賞が行われる。「平成の盾男」と呼ばれる武豊騎手が香港に遠征するため騎乗しないのは寂しい気もするが、その代わり、別の騎手によって、ひとつの大記録が樹立されるかもしれない。

 フィエールマンで参戦予定のクリストフ・ルメール騎手が勝てば、保田隆芳元騎手と武騎手につづく、史上3人目の「八大競走完全制覇」となるのだ。

 保田氏は、1968年にマーチスで皐月賞を制してコンプリートを達成した。そのとき48歳。引退する2年前のことだった。

 武騎手は1998年にスペシャルウィークでダービーを制して達成。29歳だった。

 最初に保田氏が達成してから武騎手まで30年。もしルメール騎手が達成したら、武騎手から21年。半世紀でわずかに3人なのだから、歴史的偉業と言っていい出現率だ。ちなみにルメール騎手は39歳。5月20日が誕生日なので、40歳を前に快挙を達成するか、注目したい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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