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明暗の分かれたフィエールマンとエタリオウ/天皇賞(春)

  • 2019年04月30日(火) 18時00分

流れを読み切ったルメールの見事な位置取り


 3歳秋の菊花賞を史上最少キャリア4戦目【3-1-0-0】で制したフィエールマン(父ディープインパクト)が、今度は天皇賞(春)を史上最少6戦目で快勝し、通算【4-2-0-0】となった。近年、従来にはないスケジュールでのGI制覇が連続するが、6戦目で3200mのビッグレース勝利は、遠く1947年の4歳馬オーライト(父は初代3冠馬セントライト)の天皇賞制覇(この年の名称は平和賞)の9戦目を大きく塗り替える大変な記録になる。間隔を詰めて出走できないタイプなのでスケジュールは難しいが、凱旋門賞挑戦に踏み切る可能性はある。

重賞レース回顧

キャリアわずか6戦で春の盾を勝ち取ったフィエールマンと鞍上のルメール


 勝ち時計は、高速レースの多い最近ではごく標準タイム。前後半の1600m「1分38秒3-1分36秒7」=3分15秒0も、長距離戦らしいスローに近いペースの結果だった。ただ、最近では珍しく(各馬が相手の出方をうかがう最初の1ハロンは別に)、道中でハロン13秒台のラップが2回も連続する「中間超スロー」の流れだった。

 3200mを4等分した800mごとのバランスは「47秒6」-「50秒7」-「50秒5」-「46秒2」=3分15秒0となるが、まだキャリアの浅いフィエールマンを絶妙にアシストしたのはビッグレースを勝ち続けるC.ルメール。

 超スローになった2017年のレイデオロの日本ダービーで、ガクンとペースが落ちた向こう正面でスルスルと先団に接近したときとまったく同じ。向こう正面に入るまでの平均ペースがいきなり「13秒8-13秒3」と緩んだ地点で、ごく自然にスルスル進出。先行集団から差のない位置に押し上げている。

 このとき、位置取り(戦法)に注文をつけていたM.デムーロのエタリオウ(父ステイゴールド)は、まだ動かなかった。少し離れた最後方追走で、フィエールマンとの差はどうみても10馬身以上あった。エタリオウがスパート態勢に入って中団の外にとりついた地点から、残る800mは「11秒7-11秒6-11秒0-11秒9」=46秒2-34秒5となり、レースは一気にペースアップしている。

 ハロンラップは異なるが、最後にフィエールマンとエタリオウがしのぎ合った菊花賞3000mの後半800mが「46秒4-34秒2」なので、高速の上がり勝負になった点はほぼ同じ。菊花賞はエタリオウとフィエールマンは最初から中団のほとんど似たような位置にいて、エタリオウの方が早めに動いて一旦先頭だった。

 これと同じ形にしたくなかったか。M.デムーロのエタリオウは、位置取りとスパートのタイミングに注文をつけた作戦だったと思えるが、メイショウテッコン(父マンハッタンカフェ)も、ロードヴァンドール(父ダイワメジャー)も、先手を主張したヴォージュ(父ナカヤマフェスタ)もいたのに、デムーロの読みとはまったく違って、だれかが動きを見せるはずのレース中盤が「13秒台」のハロンが2回も出現する超スローになってしまった。

 エタリオウが、11秒台が連続することになる後半800mより2ハロン前の2000m過ぎから中位に押し上げた区間のレースラップは「12秒5-2秒3」。フィエールマンやグローリーヴェイズ(父ディープインパクト)が坂の下りからの高速上がりに備えているのに対し、早くも11秒台の脚を連続させて追いつかなければならなかった。

 これでフィエールマンなどと同じ上がりの切れを発揮するのはムリ。3コーナーで10馬身近くあったフィエールマンとの差は、一旦はなくなったが、あれだけロングスパートになっては最後に失速して約6馬身差も当然。注文をつけた追い込み作戦がまったく逆の流れになったのだから、長距離3200mではありえる結末といえるが、13秒台が連続した地点で少し差を詰めておきたかった。ミルコはこれで天皇賞(春)は【0-0-0-5】。どうも巡り合わせが良くない。

 パフォーマプロミスは、7歳にして初の天皇賞(春)挑戦。離された3着とはいえさすがステイゴールド産駒。バテることなく懸命に能力を出し切った。

 状態絶好と映った4歳ユーキャンスマイル(父キングカメハメハ)は、勝ち馬を射程に入れる位置にはいたが、菊花賞で0秒2差だったフィエールマンとの差が今回は1秒5。ダイヤモンドS3400mを水準以上のタイムで快勝の内容と、ステイヤーらしい体型からすると案外の内容だった。もう少し正攻法で動ける自在型に成長したい。長丁場での追い込み策は至難。

 メイショウテッコンはスパートのタイミングを逸し、11着。極端な成績【5-0-1-6】が示すように、自分の形にならないと極端にもろい。ロードヴァンドールもすんなり単騎で行けないとGIでは苦しい力関係だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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