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タフなレース経験がもたらした逆転勝利/NHKマイルC

  • 2019年05月06日(月) 18時00分

外枠を生かし、馬の強さを引き出したデムーロ


 日米のビッグレースで1番人気馬が降着のペナルティを受けて着外に沈む激しい1日だった。ケンタッキーダービーの降着は映像だけなのでなんともいえないが、日本産馬として初挑戦だったマスターフェンサー(父ジャスタウェイ)の快走は、とても追い込みなど効く馬場状態ではないだけに、すごい価値がある。泥だらけになりながら、猛然と突っ込んで約2馬身差。届かないとは分かっていても声が出てしまった。

 浦河の三嶋牧場は、ダノンキングリー(日本ダービー出走予定)、今週のヴィクトリアマイルのカンタービレ、ミッキーチャーム、メイショウオワラの生産牧場であり、JRAのGIは未勝利だが(惜敗は多い)、145回の歴史を持つケンタッキーダービー6着は大変な誇りとなるだろう。ベルモントSに挑戦の可能性もあると伝えられる。3代母の半兄には長距離型サンジョヴィート(Kジョージ6世&クイーンES、愛ダービー)、ジャパンCにきたセーラムドライブ(USA)などのいるファミリー。スタミナを秘める可能性がある。

 NHKマイルCは、共同通信杯1800m→皐月賞2000mときびしいレースを経験したアドマイヤマーズ(父ダイワメジャー)の逆転勝利だった。きつい日程になったが、すぐ回復して絶好調キープ。馬体も減っていなかった。朝日杯FSで下している牝馬グランアレグリアが圧倒的な支持を受ける形になったため、陣営の、とくにGIレース勝ちから遠ざかっていたM.デムーロの闘争心むき出しの、それでいながら冷静な騎乗が光った。

 M.デムーロは外枠を気にしていたが、東京の1600mは、とくに揉まれるのを歓迎しない3歳馬にはマイナスはまったくない。スタート一歩だったが、外で他の有力馬の位置を(向こう正面でインに入ったグランアレグリアを前方に)確認できたから、今回はむしろプラス大だった。

「33秒9−45秒8−57秒8→」のきつい流れを察知したM.デムーロはあせって道中の順位を上げなかった。外々を回ったのも、加速しながらも4コーナーで一気にスパートしなかった仕掛けのタイミングもベスト。最後の1ハロンで道中のタメが全開した。

重賞レース回顧

2度目の戴冠のアドマイヤマーズ マイルでは敵なしだ(撮影:下野雄規)


 これでGIの2勝を含み1600m【5-0-0-0】。「春はこれでお休み」(友道調教師)。秋はマイル中心に古馬に挑戦することになる。

 レース終了後、降着で騎乗停止(日本ダービーまで開催6日間)となったC.ルメールに代わって、M.デムーロがサートゥルナーリアに戻るのではないか…との観測もあったが、一度降りた(ほぼ降ろされた)形の最有力馬とのコンビは簡単に戻るものではない。互いの複雑な事情もある。サートゥルナーリアには、豪州の若手の成長株D.レーンの騎乗が伝えられた。M.デムーロの闘志にまた新たな火がつくことだろう。

 断然の1番人気だったグランアレグリア(父ディープインパクト)は5着(4位入線からの降着)に終わった。評価は少しも落ちないが、斜行は別に、小さな敗因がいくつも重なった結果だろう。若い3歳馬のマイル戦での激走の負担は大きいことで知られる(とくにNHKマイルCは)。

 グランアレグリアは桜花賞レコードの1分32秒7で独走し、今回は初めて中3週。さらに良くなっているという見方もあったが、当日の彼女は牡馬の中でパドックの最後方を歩いたこともあるが、落ち着いてライバルとは一線を画すようなムードさえ漂わせた桜花賞と違って、目立たなかった。気配が落ちたというほどではないが、前回すでに、きびしいNHKマイルCを激走したかのように見えた。

 スローな流れを好位からすんなり抜け出したレースが大半だった牝馬に、もまれるハイペースもかわいそうだった。出足一歩は許容範囲。だが、多頭数のうちの7番は少しも好枠ではない。外に回る余裕はなく、Hペースを読んで少し下げると、次つぎに外から他馬が来てしまった。

 直線、内に入るか、外か、瞬時のC.ルメールは、脚があるので外目に進路を取ろうとしたが、そこは隣にダノンチェイサー(父ディープインパクト)、その外にアドマイヤマーズ。進路が空くはずもないもっともきびしい場所だった。さすがのC.ルメールも慌てた。さらにそのあともまた斜行しかかっているから、残念だが降着はやむを得ない。

「あの不利がなければ被害馬は、加害馬に…うんぬん」の説明マニュアルは、もうさすがに実際の事象に即し、丁寧で、道理の通った説明に書き換えた方がいい(あれがクビ差ではなく半馬身だったら、グランアレグリアは騎手への制裁だけで降着はないという乱暴な判断になったことになる。たまたまケンタッキーダービーのあとだった。JRAはなにかあると世界基準に則してなどというが、あれはマキシマムセキュリティの斜行(?)がなければ17着馬が勝ち馬に先着したと認める、などという天外な降着理由ではないはずである)。

 2着に突っ込んだケイデンスコール(父ロードカナロア)は見事。外枠から落ち着いて持ち味をフルに爆発させた石橋脩騎手の騎乗もあざやかだったが、これが種牡馬ロードカナロア産駒の真価だろう。マイル向きの底力兼備のスピード型がさらに続いて出現する。

 カテドラル(父ハーツクライ)は、いかにも惜しいハナ差3着。476キロの馬体が500キロ級にも見えるほど充実していた。巧みにスペースを見つけてインから突っ込んだB.アヴドゥラ騎手の騎乗も光った。このマイル路線への転換は大正解だったが、できればもう一回、マイルのそれもきびしいペースを経験しておきたかった。残念。

 ダノンチェイサーは、直線に向くまでほぼ完ぺきなレースだった。ただ、スピードもあれば、速い脚も長続きするが、懸念された通り瞬間の爆発力がなかった。これは母の父ロックオブジブラルタル(デインヒル系)の泣きどころとされるが、並んだ瞬間に相手を交わす鋭さがない。大きな不利を被ったのは事実だが、外のアドマイヤマーズや、寄ってきたグランアレグリアを逆に弾き飛ばすくらいの迫力の鋭さがなかった。今後はアドマイヤマーズと同じように外から早めに加速しながらスパートする作戦がベストだろう。

 D.レーンの10着グルーヴィット(父ロードカナロア)は、道中揉まれる苦しい位置になったうえ、グランアレグリアの斜行接触の真後ろにいたのが不運。スペースを探して追うことがまったくできなかった。着順よりずっと中身はいい。大きく成長するだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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