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カツゲキキトキトとコンビ復活、木之前葵騎手の苦難と成長

  • 2019年05月07日(火) 18時00分
馬ニアックな世界

名古屋の元気印!木之前葵騎手


 名古屋の雄・カツゲキキトキトと木之前葵騎手のコンビが久しぶりに復活しそうです。白山大賞典2着のほか、ダートグレードレースで3着3回を数えるカツゲキキトキトは木之前騎手と3歳時にたびたびコンビを組んでいました。ジャパンダートダービー(JpnI)にも挑戦し6着と健闘したコンビですが、3歳秋以降、ますますパワーが溢れてきたカツゲキキトキトの背に木之前騎手が跨ることはありませんでした。

 ところが今春、JRAでスタートした女性騎手永年2kg減のルールが名古屋競馬でも導入の方向で議論され始めると、錦見勇夫調教師は「2kg減がきくなら、平場のオープン特別で(木之前)葵くんを乗せようかな」と検討。先日、オグリキャップ記念を勝利した時にnetkeibaニュースにも出ましたが、来週の名古屋開催でのコンビ復活が濃厚と見られています。

 久しぶりの木之前騎手の起用。そこには女性騎手減量特典だけでなく、彼女自身の成長もあるようです。



「馬に乗る場所の感覚が0になる時が…」


 ハートの勝負服がトレードマークの木之前騎手。デビュー7年目で通算337勝、重賞5勝(5月6日時点)を挙げます。彼女が初めて重賞タイトルを手にしたのは2016年春。年明けに開催予定だった新春ペガサスカップが雪で中止となり、名古屋大賞典当日の3月17日に再編成された時でした。単勝1.4倍の圧倒的1番人気で好位につけると、直線で抜け出し完勝しました。

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新春ペガサスカップ出走時


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カツゲキキトキトとのコンビで重賞初制覇


 その後もカツゲキキトキトとのコンビで重賞3勝。2017年には同馬主のカツゲキマドンナと園田に遠征し、ゴール前で赤岡修次騎手との叩き合いを制して遠征での重賞初制覇も遂げました。
しかし、この頃すでにカツゲキキトキトは、「わんぱくで、気に入らないことがあるとクルっと回ったりする」(錦見師)ようにパワーがすごく、調教もレースも兄弟子の大畑雅章騎手が通して乗るようになっていました。

 またこの頃、錦見師は木之前騎手の落馬回数の多さを指摘していました。一概には言えないものの、騎乗姿勢や扶助の仕方、体幹の強さなども落馬の一因にあったかもしれません。カツゲキキトキトではないものの、重賞のスタートで馬が躓いて落馬することもあったのです。

 そして木之前騎手自身も2017年秋頃、「馬に乗る場所(重心)の感覚が全くの0になってしまうことがある」と悩んでいました。

「以前は馬にハマって追えている感覚があったんですけど、その感覚がふと0になってしまう時があって…。追っても追えていないというか。何なんだろう…」

 と冴えない表情。その表情に比例するように勝ち星も伸び悩んでいました。

 しかし、「いろいろやってみたんですけど、長くしていた鐙をまた短く戻してみたら、『あ!これだ!』って思えたんです」

 と約1年かけて再び馬上でのバランスを取り戻しました。すると、直後に行われた地方競馬の女性騎手レース「レディスヴィクトリーラウンド」では佐賀ラウンドで1勝、最終戦・名古屋ラウンドで2連勝を挙げて合優勝を果たしました。

「最近は騎乗姿勢もしっかりしてきた」と師匠


 地方競馬の騎手は深夜から午前中まで10〜25頭の調教に跨るのが平均的。昼間開催であれば、調教を終えて数時間後には1レースが発走し、夕方の最終レースまでレースに乗ったり、場合によっては先輩の鞍を拭いたりして過ごします。

 木之前騎手もそのパターン。

「自厩舎をメインに平均して20頭超の調教に乗って、終われば急いでレースに行くんですが、調教で1日の体力の半分を使っちゃうんじゃないかって感じでした」

 他の騎手もその生活とはいえ、タフな毎日に以前はヘトヘトになっていたそうですが、「今はなんだかやれているんです」と目を輝かせます。

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笑顔で問いかけに応える葵騎手


「実は週1回、パーソナルトレーニングに通いはじめたんですが、それがすごく良くて。筋トレを頑張っている成果が出ているんですかね。それに毎週トレーニングで追い込んでいるので、『これだけやっているんだから、できないはずがない!』って自信にもなっていい傾向にあります。トレーニングで体の可動域が広くなって、馬にフィットできるようになった気がします。あとは、私は成績に波があるので、悪い時にどう体力でカバーするかというのを今は考えてやっています」

 そんな彼女のことを見守る師匠の錦見師の目つきも最近は少し温かくなったような気がします。

「前は怖くて(木之前)葵くんのレースは見てられなかったけど(苦笑)、最近はいくらか見られるようになったからね。騎乗姿勢なんかもだいぶしっかりして安定してきたんじゃないかな」

 時を同じくして、愛知県競馬組合ではJRAで女性騎手減量制度が導入されるにあたって基準をJRAに合わせることが検討され始めたのでした。これは端的に言うと、1kg減で騎乗していた木之前騎手が2kg減で乗れるようになる、ということです。

(一時期、名古屋も女性騎手は永年2kg減でしたが、平成30年度は免許取得後5年以上または通算51勝以上は1kg減。それを免許取得後5年以上または通算101勝以上は2kg減にしようということです)

「2kg減で乗れるんだったら、平場のレースでカツゲキキトキトに葵くんを乗せようと思うんだ。今の葵くんだったら」

 カツゲキキトキトは年明けの調教中に脚元を傷めてしまい、予定していた2月14日の重賞・梅見月杯を見送っていましたが、4月25日の重賞・オグリキャップ記念(笠松)で復帰。久々の分もあってか「勝負どころではちょっと手応えが怪しかった」と鞍上の大畑騎手は言いますが、それでも「2着馬が来れば来る分だけ伸びてくれました」とのこと。グレイトパール(佐賀)やメイショウオオゼキ(兵庫)など強豪相手に勝利を収めたのでした。

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休み明けも何のその。オグリキャップ記念で重賞19勝目を飾ったカツゲキキトキト


「オグリキャップ記念の時は、まずは無事に走ってきてほしいという思いでしたが、勝ってくれてさらに良かったです。レース後も変わりなく順調にきていますよ」と大畑騎手。

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引きあげてきたカツゲキキトキトと兄弟子の大畑騎手


 レース後、木之前騎手は改めて師匠から「次は葵くんだぞ」と騎乗予定であることを聞いたといいます。

「かなり久しぶりなので、感覚とか乗れば思い出すのかな?とドキドキです。少し前から『もしかしたら』と周りの方から聞いてはいて、その時からずっと『いまのキトキトに私が乗ったらどんな感じなのかな〜?』と思いながらオグリキャップ記念とかも見ていました。あのレースは距離が長くて、すごくスローペースだったので『大変そうだなぁ』と思いながら見ていました。また乗れることが楽しみですね!」

 約3年ぶりとなるコンビ復活の影には女性騎手の2kg減だけでなく、木之前騎手自身の成長がありました。

 悩みもがいて、自分で手にした再浮上のきっかけ。「女性騎手」ではなく「1人の騎手」として、カツゲキキトキトとどんなレースを見せてくれるでしょうか。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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