スマートフォン版へ

ばんえい重賞最多勝記録更新

  • 2019年05月07日(火) 18時00分

一方で、後継者不足と賞金額の低迷という厳しい状況も


 平成から令和へ元号が変わるのに関連し、システム的な問題で例年より1週遅く4月27日が開幕となった、ばんえい競馬。5月5日には今シーズン最初の重賞、ばんえい十勝オッズパーク杯が行われた。勝ったのは、ばんえい記念を2度制している現役最強馬オレノココロ。この勝利で、ばんえい競馬の重賞最多勝記録を更新する、重賞22勝の快挙ともなった。

 オレノココロは今年1月2日の帯広記念を制し、2013年3月のばんえい記念を制して引退したカネサブラックによる重賞最多勝記録、21勝に並んでいた。続く重賞・チャンピオンカップ(2月24日)は2着。そしてシーズンを締めくくるばんえい記念(3月24日)では、同レース3連覇に加えて重賞最多勝記録の更新も期待され1番人気に支持された。しかし伸び盛りの7歳馬、良血センゴクエースの2着に敗れ、記録更新は持ち越しとなっていた。

 そして迎えたのが、年度替わり最初の重賞でもあり、ばんえい競馬として令和最初の重賞でもある、ばんえい十勝オッズパーク杯。第2障害を最初に越えたのは、新進気鋭の5歳馬メジロゴーリキだったが、すぐに続いたオレノココロは、ほぼ同時に障害をクリアした同世代のライバル、コウシュハウンカイを振り切っての勝利。見事に新記録達成となった。

 先のカネサブラックの重賞21勝目は11歳の3月のこと。オレノココロはまだ9歳であり、さらなる記録更新が期待されるということでは“大あっぱれ”といえよう。

 ところがその記録更新の直前、4月28日にカネサブック死亡という報せがあった。引退後、種牡馬となったカネサブラックの初年度産駒は今年5歳になったばかり。2世代目の産駒からイレネー記念を制したカネサダイマオーを出すなど、種牡馬としての活躍も期待されていただけに残念だった。

 さて、売上が上向いているばんえい競馬だが、オレノココロが新記録を達成した一方で、まだまだばんえい競馬の置かれている厳しい状況も見えてくる。

 まずは生産者の後継不足。オレノココロを生産した北海道河東郡士幌町の六車實子(むぐるま・じつこ)さんは、オレノココロのライバル、コウシュハウンカイの生産者でもある。ばんえいの現役古馬ツートップの生産者といえば聞こえはいいが、生産馬で現役なのはその2頭だけ(という事実も奇跡的なことだが)。すでに生産はやめてしまわれているとのこと。4月16日付の本コラム『ばんえい競馬の2歳能検と今後の課題』で、2歳新馬の入厩頭数が昨年同時期比で20〜30頭程度増えている、と書いた。しかしまだまだ重種馬の競走馬資源は十分とはいえず、生産者に後継者がいないという話は少なからず聞こえてくる。

 そしてもうひとつは賞金。ばんえい競馬ではこれまで生涯獲得賞金1億円馬が7頭誕生している。ところが、重賞21勝の記録を達成したカネサブラックの生涯獲得賞金は4440万円。その最多勝記録を更新したオレノココロでも5351万円余りでしかない。つまり歴代1億円馬が活躍した時代より、大雑把に言えば賞金が半分以下に減ってしまったというのが現状だ。

 ちなみにもっとも最近の1億円馬は2006年5月までで引退したスーパーペガサス。最高峰のばんえい記念でこれまで唯一4連覇を達成している最強馬だ。

 ばんえい記念は、バブル経済真っ盛りの1989年から1着賞金1000万円という時代が長く続いた。しかしその最後の年が、スーパーペガサスが最初にばんえい記念を制した2003年のこと。翌年からは700万円となり、その後も下落は続いた。つまりスーパーペガサスは、売上とともに賞金も下がり始めたギリギリの時期に活躍した名馬ともいえる。

 逆にばんえい記念がどん底だった不運な時代に活躍したのがカネサブラックといえる。カネサブラックは2010、11、13年にばんえい記念を制しているが、その3度目のばんえい記念の1着賞金は、わずか300万円だった。ばんえい記念以外の重賞でも、1990年代には古馬の主要重賞の1着賞金が500〜650万円もあったのに対し、カネサブラックの時代には、現在BG(ばんえいグレード)1として行われている帯広記念でも100万円まで下がっていた。カネサブラックの時代には、最盛期の1/4かそれ以下まで賞金が下がっていたことになる。

 その後少しずつ持ち直し、ばんえい記念の1着賞金が1000万円に戻った2017年が、オレノココロによる一度目のばんえい記念制覇。しかしその他の重賞の賞金も同じように回復したかといえば、そんなことはなく、今年1月にオレノココロが制した帯広記念は200万円だった。

 つまり、ばんえい記念だけは、ばんえい競馬のフラッグシップとして最盛期と同じ1000万円に回復したが、それは今のところ突出した高額賞金で、それ以外の重賞の1着賞金は100〜200万円のままとなっている。

 ばんえい競馬の歴史的な活躍馬が『1億円馬』となれる時代がくるよう、さらなる売上のアップを期待するとともに、皆様の馬券での応援もよろしくお願いします。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング