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上位馬が能力を全開させた快レコード決着/ヴィクトリアマイル

  • 2019年05月13日(月) 18時00分

D.レーンの技量に感服


 高速決着は想像できたが、さすがに1分30秒5「前半4F 44秒8-後半4F 45秒7」のJRAレコードが飛び出すまでは予測できなかった。芝状態、猛烈なハイペース、さらには有力馬に騎乗したジョッキーの手腕も重なって、上位馬の秘めた能力が全開した結果の快レコード「1分30秒5」だった。前日、芝1400mでコースレコードの1分19秒4が更新されたが、このレースの1400m通過は「1分18秒8」である。

 前走、慣れない外国人騎手が押さえ込み、物足りない内容だったアエロリット(父クロフネ)と、弱気だったラッキーライラック(父オルフェーヴル)の積極策は予想できたが、それにしても先手を主張したアエロリット=横山典弘騎手のペースはすごい。前半「33秒7-44秒8-56秒1→」の猛スピードだった。

 芝状態に恵まれるヴィクトリアマイルでは、2011年に伏兵オウケンサクラ(父は、今週のオークスの人気馬クロノジェネシスと同じバゴ)が、かかって飛ばしに飛ばした「33秒5-44秒6-55秒9→」の猛ラップがあり、これが1600mで逃げた馬の最速ペースとされる。当然、失速し1分33秒6の15着。ところが、今回のアエロリットはほぼ同様のペースで行きながら1分30秒9(前半5F 56秒1-上がり3F 34秒8)。0秒4差の5着にがんばっている。

 行く気になったのを無理に抑えない作戦であり、前走のこともあるので、行く気を取り戻す意図もあったが、今回の芝ではそれほど無謀なペースでもなかった。というのは、これまでの1600mのJRA記録1分30秒7を持っていたのは横山典弘=レオアクティブ(2012年)だから。確かに5着にはとどまったものの、5歳牝馬アエロリットは昨年の安田記念を1分31秒3でクビ差2着の能力にいささかの陰りもないことを見せつけた。

 勝ったノームコア(父ハービンジャー)は、1600mの経験こそ乏しかったが(1戦1勝)、高速レースを察知して早めに中位のインを確保し、坂まで仕掛けを待ったD.レーンの神がかりの快騎乗があり、秘めていたスピード能力爆発につながった。アエロリットの父でもある種牡馬クロフネ(21歳)は、ここ2年は総合ランキングベスト10から後退する形になったが、BMサイアーランキングは最近5年「12→8→6→5→2」位。その父フレンチデピュティとともに、首位独走のサンデーサイレンスを追走している。とくにクロフネの場合は、牝馬のマイル戦以下では特注のBMサイアーになりつつある。

 それにしても、D.レーン(25)はすばらしすぎる。来日して間もない若手騎手なのに、最初からエース騎手の人気馬をマークして追走する策を取らない。スタート直後に、たちまち自分でレースを組み立ててしまうように思える。ここまで6日間の騎乗で【13-4-7-20】。驚くのはその勝率.295の高さ。短期免許の若手なのでノーチャンスの馬にも乗っての圧倒的な成績であり、1-3番人気馬に限定すると【10-1-3-7】。勝率.476。勝ちに出るので失速もあるが、勝機のある馬なら猛然と追い勝ってしまう。2着は1回だけ。

重賞レース回顧

D.レーンの神がかり的な手に導かれたノームコア(撮影:下野雄規)


 D.レーンの快走に、クビ差2着のプリモシーン(父ディープインパクト)の福永祐一騎手も、検量室で苦笑いするしかないシーンがあった。出負け癖のあるプリモシーンを好スタートから中団の前方につけ、スパートのタイミングもベスト。JRAレコードタイ記録の1分30秒5(上がり33秒0は最速)でクビ差2着。くやしい2着だが、引き出したい能力はすべて出し切った印象があった。こちらもまだ4歳春【3-3-0-4】。すばらしい馬体に成長しているので、GI制覇のチャンスは遠くない。

 6歳クロコスミア(父ステイゴールド)は猛ペースを読んで好位にひかえ、1分30秒6(1600mの最高タイムを2秒6も更新)で乗り切り、ゴール前でラッキーライラックに競り勝ったのは見事というしかない。やや勝ちみに遅いのは確かだが、エリザベス女王杯2年連続の2着を含め国内GI【0-2-1-2】。坂上で失速しそうになりながら、再び闘志を燃やして伸びている。マイル以上が最適なだけに、今年も秋のエリザベス女王杯が楽しみになった。

 4着にとどまったラッキーライラックは、好スタートから猛ペースに巻き込まれるのを避けるように好位5-6番手。前回とは一転、文句なしの騎乗だった。ただ、負けられない立場の1番人気。飛ばしたアエロリットがまだ粘っているから仕掛けを待てない。有力馬の中でもっとも苦しいスパートだった。D.レーンも、福永祐一も前方のラッキーライラックが動くのを見ていた。0秒1差は力負けではないだろう。

 ただ、マイルは合ってはいるが、切れるタイプではないので、並んでの接戦は苦しい。1800m-2000mくらいの一定ペースの方がさらに合う印象を残した。

 3番人気のレッドオルガ(父ディープインパクト)は、11着にとどまったが、道中はノームコアとほぼ同じ位置。直線、狙った内側も坂上まで空いていたが、残り1ハロンでこの馬だけ狭くなり挟まれてしまった。割って伸びる脚はなかったように思えるが、不利がなければ入着はあったかもしれない。

 5歳馬ソウルスターリングと、クロコスミア以外の6歳以上馬はちょっと残念な結果だが、ここまで快時計を求められてはやむをえない結果だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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