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様々な出会いと再会があったドイツ紀行

  • 2019年05月14日(火) 18時00分

課題も見つかった馬術大会出場


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愛馬の調教師と共にドイツへ!


 ヴィクトリアマイル(東京・GI・芝1600m)は、やっぱり波乱のレース展開になりました。

 初来日のダミアン・レーン騎手がノームコア号で早くも日本のGIを制覇。豪の若き王子に導かれ、マイルの女王様が誕生!おめでとうございます!

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日本レコードで勝利したノームコア(撮影:下野雄規)


 レーン騎手は土曜日に、タワーオブロンドン号で京王杯スプリングC(東京・GII・芝1400m)をレコードタイムで制覇し、1日で4勝と固め勝ち。先週の新潟大賞典(新潟・GIII・芝2000m)をメールドグラース号で勝ち、GI・GII・GIIIを勝利し、3週間で13勝を挙げる活躍ぶりです。

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平成最後の重賞となった新潟大賞典をメールドグラースとのコンビで勝利(撮影:小金井邦祥)


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土曜日の京王杯SCも勝利して2日連続での重賞勝利となった(撮影:下野雄規)


 凄い騎手が来日しましたね。世界にはまだまだ上手い騎手がいるんだなと思いました。

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ここまで重賞3勝を含む13勝。大活躍のD.レーン騎手(撮影:下野雄規)


 タイムも凄かったですね。1分30秒5はJRAの芝1600レコードタイムです。ゲートで少しあおり気味でしたが、道中はごちゃつくことがなかったですね。気が付けばいい位置にいて、外へ持ち出し、確実に流れに乗せて勝利へ導く。判断の鋭さに感服します。

 まだまだ続く東京のGIレース。オークスにダービー…楽しみがひろがってきましたね。

 豪の若きエースに拍手を送りたいですが、刺激を受けて日本の若きエース達も共にがんばれ!

 マイルでは安定感のあるプリモシーン号も上がりタイム最速でした。ユーイチ(福永騎手)惜しかったな…。懸命に「イケー!」と声援を送ったんですが、僕の声では届かなかったわ…(苦笑)

 京都では和田騎手が2勝し、古川騎手も勝利。我が競馬学校12期生の活躍は、やっぱりうれしいです。僕のパラリンピック挑戦への糧になります。

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宿泊したマンハイムの街並み


 ドイツ・マンハイムで行われたFEI(国際馬術連盟)の大会に参加しました。障害者馬場馬術大会です。

 昨年この大会を見学した時は、すぐに集中力の無くなる僕が2時間も見入ってしまいました。

 どこに障害があるの?なにが障害なんだ?と疑問に思ってしまうくらい乗馬技術が上手く、綺麗で、人馬一体。競技が流れるように行われていて感動しました。例えるならスケートのような感じです。ポイントが70%を超えるんですよ。すごいとしか言えませんでした。

 日本の大会の時に招待選手で来日し模範演技を見せてくれたドイツ在住のドクターAさんにばったりお会いしてびっくり。

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Aさんと偶然の再会!


 この方は、両足が10センチ位で、手の指も3本ずつなんですが、馬の世話も誘導も車いすでしています。馬のたてがみも自分で編み込んでいて、世界の一流選手として活躍されています。

 一昨年、招待騎手で来日された騎手も右手と左足だけで乗馬をされていて、僕にアドバイスをしてくれました。彼は「あなたは気の毒だね…」と言ったんです。

 ちょっとびっくりして「どうしてですか?」と聞くと「馬に乗るためにはバランスが大事です。僕は右手と左足でバランスが取れるが、貴方は手も足も左側が麻痺しているからバランスが取りにくい。馬にとって左側に負担がかかる。意識して乗らないと落馬しますよ」と教えてくれました。

 凄く衝撃を受けました。右手と左足だけで生活が大変だなと思ってしまった自分が恥ずかしかったです。

 自分に与えられたものを有効に使い生きている。生きているだけではなく世界の頂点にいる彼はとっても偉大な存在です。「俺、障害があんねん」と言う自分が恥ずかしかったです。

「何度も手術を受け、懸命にリハビリをしてきたけど、今は馬に乗れることがうれしいよ」とあご髭を生やして、にこやかな表情で話してくれました。

「そのパワーやエネルギーはどこからくるのですか?」とお聞きすると「生きてるから」「馬に乗れるのがうれしいから」と答えてくれました。

 あっ!俺と一緒やと思いました。やっぱり馬に乗れる、馬と一緒にいることでパワーやエネルギーが出るんだなと確信しました。だからパラリンピックや、障害者乗馬に挑む意欲が湧いてくるのだと改めて感じました。

 初めて海外の大会に出場し、レベルの高さに到底届かなかったですが、いい体験をすることができました。

 でも、そんな悠長なことは言ってられません。東京パラリンピック挑戦には、もう時間がありません。確実にポイントを稼がなくてはいけないんです。

 悔しい思いをして帰ってきました。課題もたくさん見つかり、まずは騎座と左手の安定が必要だと感じました。乗馬では基本中の基本なんですが、左足の踏ん張りがきかないので馬上でグラグラ揺れてしまいます。

 3月の御殿場大会でクラシフィケーションといって、馬に騎乗するためのグレード検査をしました。

 障害馬術のグレードはIからVまであり、障害が重度なほどIに分類されるように、障害の程度によって決められます。僕は少し障害があるということで今まではグレードIVに分類されていました。

 これまでは常脚・速足・駆け足の入る経路を踏んでいましたが、グレードIIIに変更になったことで、駆け足が無くなりました。(危険が伴うということで)僕の得意としていた駆け足がなくなり、経路も変更になったので、それを覚えるのが一番大変なんですね。

 経路も細かい動きが多くなり、猛特訓の始まりです。大会はグレードIIIで出場しましたが散々でした。やはり体が揺れるんですよね。騎座が安定しないんです。

 大会では馬が環境の変化に驚いてちょっとびっくりしてしまい、少し後ろに下がってしまうところを見せたので、馬が納得するまで待ってから動かしたところ、褒めていただきました。

 ドイツやヨーロッパは、動物愛護の精神が強く、馬を蹴ったり、鞭を使うことは許されません。馬が納得し動き始めると、スムーズに綺麗な動きをしてくれました。やっぱりいい馬です。その馬を乗りこなせるようにならないと猫に小判ですね。

 ドイツのAさんから「私には足がほとんどないのよ。なのに馬上で安定できるのは、どうしてかわかる?腹筋を強くして骨盤で支える意識が有るからよ」と言われて改めて気づきました。わかっていることだけど、つい忘れてしまい、手や足だけでバランスを取ろうとしていたように思います。

 今更?なんていわれそうですね…(苦笑) 騎手時代を思い出して修正していきます。

 まだまだ甘い…新たな自分を発見する渡航になりました。高い代償を払ってくれたオカンに母の日のプレゼントもできなかった自分が情けなく思いました。

 ただ、挑むと決めたらやるしかない。次々と大会も迫ってきているので頑張ります。応援してください。

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 話は少し変わってドイツの乗馬クラブの様子や大会の様子をお知らせします。

 昨年からドイツへ渡航し、いろいろな牧場を見学しました。その時に出会ったのが、オルデンブルグという血統のグラマー号です。

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この馬は素晴らしい動きをしてくれ、見た目も最高に綺麗なんですが、まだまだ乗りこなせないのが現状です…


 僕の愛馬がいるダニエル厩舎は、とっても素晴らしく改築されていました。もともと綺麗な厩舎でしたが、さらにシステムが充実していました。

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ダニエル厩舎の様子。奥に練習用障害も見えますね


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厩舎の外観


 馬房が前からしか馬が出せなくなっていて、後ろ側が馬の洗い場になっていて、そこがウォーキングマシンとプールになっているんです。全部一体化されているのが驚きです。

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歩行マシンとプールが一体化しています


 透明な箱になってるので動きもよく見えます。トレセンでもプールトレーニングしたり、けがの治療にもよく使われていますよね。僕もリハビリで体力強化にプールトレーニングをしました。浮力があり負担をかけずに動けるんですね。

 もちろん僕の愛馬グラマー号に挨拶。「大会頑張ろうね。よろしく!」とお願いしました。(愛馬は100%の力を出してくれましたが、僕は半分の力しか出せず…。ごめんな。)

 マンハイムの大会会場は、お祭りのように賑やかです。出店もいっぱいあり、その店先を馬を引いて通るんですよ。馬も犬も人も同じ場所で生活しています。会場も広く大会用の馬場も沢山あり、ちょうどジャンプレースが行われていたので興味をもって見入ってると…

 オリンピック選手の杉谷泰造さんと助手の方が来られ、僕が通う「杉谷乗馬クラブで会ったことがあるよ。覚えていますか?」と声を掛けて頂きました。つい話に夢中になってしまいました…。僕の大会出場時間が迫ってるのに、所定の場所にいないと大騒ぎで迷子事件になっていました。大失敗です。

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杉谷泰造さんともお会いできました!


 ドイツはとってもきれいな街なので、一人で散歩にも出かけました。迷子になりながらも帰ることができましたが、同行していただいた調教師やスタッフの方にかなり迷惑をかけてしまいました。

 僕にとっては珍道中でした。皆さんごめんなさい。今度は、ご迷惑をおかけしないように気をつけます。記憶障害があるので約束などを忘れて困らせてしまいます。

 頑張れ「俺の脳」――戦う日々がまだまだ続きます。

 以上、ドイツ紀行でした。

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 今週末のオークスには(東京・3歳牝馬GI・芝2400m)にシゲルピンクダイヤ号が出走。なべちゃん(先輩の渡辺薫彦調教師)とわっ君(競馬学校同期の和田竜二騎手)コンビでがんばれー!自分もがんばるぞー!

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オークスでも好走を期待したいシゲルピンクダイヤ(c)netkeiba.com


 そして、来週はダービーですね。ワクワクドキドキの生観戦楽しみましょう。

 つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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