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多くの会員が喜びを分かち合ったレース/オークス

  • 2019年05月20日(月) 18時00分

時計の価値はこれからだが、破格のオークスレコード


 またまた素晴らしい才能を爆発させた牝馬が出現した。グレード制成立後、GIを4勝以上した牝馬は、生年順に「メジロドーベル、ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ…」とくに21世紀になってからは、世界の流れと呼応しつつ名牝が誕生している。無敗のままオークスを勝ったのは(秋施行の1952年以前のクリフジなどを含め)、ラヴズオンリーユー(父ディープインパクト)が史上5頭目だった。4戦4勝のオークス馬は、1946年ミツマサ、2006年カワカミプリンセスと並んで最少キャリアタイ記録になる。

 経験したことのない高速レースのため、直線に向いた地点では反応が鈍いように映るシーンもあったが、「初めて本気を出してくれた」とM.デムーロが絶賛する、力強く、かつ大きなストライドを伸ばして差し切り勝ち。失速したライバルも多いなか、勝ち馬の上がり34秒5はNo.1だった。

「海外に行ってみたい。世界を舞台に戦いたい(矢作調教師)」描いていた大きな夢が広がることになった。募集価格約3億2000万(生涯経費を含め)、募集口数1万口という新企画の会員クラブの所属馬。これまでの会員数をはるかに上回る人びとが「クラシック勝ち馬の会員」となった快挙であり、ここは想像するしかないが、もっとも多くの会員(ファン)が最高の喜びを分かち合ったオークスであることだけは間違いない。お金の計算などヤボというものだろう。

重賞レース回顧

オークスレコードで勝利したラヴズオンリーユー(撮影:下野雄規)


 ジョディー(父ダイワメジャー)が4コーナーまで先導したレース全体の流れは、前後半の1200m「1分11秒3-1分11秒5」=2分22秒8。2012年にジェンティルドンナが独走した2分23秒6を、0秒8も更新する破格のオークスレコードだった。先週、ヴィクトリアマイルで1分30秒5のJRAレコードを生んだ高速馬場だけに、記録の価値はこれからの歴史を待たなければならないが、スタート直後の12秒5を別にすると、3コーナー付近で刻まれた「12秒3」が道中でもっとも遅いラップ。これは史上初めて。予測以上の高速馬場は確かだが、どこにも緩みのないきついペースだったのも事実。そこで最後の1ハロンは、最近7年連続して11秒台のフィニッシュだったのに、今年は「12秒3」。3歳牝馬には非常に厳しい2400mでもあった。

 それを考えると、残り100mで差されたが、ゴール寸前また伸びてクビ差同タイム2着のカレンブーケドール(父ディープインパクト)には、ラヴズオンリーユーに劣らない高い能力を認めたい。中団で(厳しいペースを察知し)動かず待っていた勝ち馬に対し、最初から5番手前後。もっとも早く強気にスパートし、勝ったと思わせた2200m通過地点は「2分10秒5」だった。

 早めに抜け出して危なかったスイートピーS(1800m)よりはるかに厳しい流れを果敢にスパートし、2分22秒8。母ソラリア(チリ産)はチリの年度代表馬であり、芝2400mのエルダービーなど11戦7勝。その父Scat Daddy(15年に11歳で早世)は、今春の高松宮記念を勝ったミスターメロディの父というより、2018年の米の無敗の3冠馬Justifyなどの父であるのは知りつつも、輸入されたヨハネスブルグ(その父ヘネシーも輸入種牡馬)の産駒と考えると、どうも信用しきれない面があった。

 だが、このカレンブーケドールの快走を目にすると、ディープインパクト産駒というだけでなく、母ソラリアを通したScat Daddyの影響力を思わずにはいられない。ストームキャットの父系は、同じノーザンダンサーを出発とするダンチヒ系などと同じように、代を経て確実に幅を広げて進展している。父にScat Daddyを持つ輸入牝馬はほかにも存在する。最終世代(現3歳)に対する注目度も高い。19年からMendelssohn、Justifyが種牡馬入りしている。

 3着クロノジェネシス(父バゴ)は少しチャカつく程度で、状態絶好だった。スタートも互角。素早く好位のインにつけ、最終コーナーでも動かずに我慢したが、道中あまりにうまくいきすぎたかもしれない。速い流れに乗ったため脚がたまらず、切れがなし崩しになったが、それは結果論。文句なしの好騎乗だったろう。1-2着馬にはスタミナ(総合)能力と、スケールで一歩譲る3着だった。

 3番人気のコントラチェック(父ディープインパクト)は、2400mは長かったか。3勝はすべて逃げ切り。3敗はすべて自分のペースにならなかったとき。まだ成長の途上なのだろう。また、さまざまな方面から絶賛されたD.レーン騎手も、注目され過ぎたかもしれない。予測以上の人気馬が多く、そうなると正攻法で乗るしかない。正直に先行したが、神がかりだった前週と違って、背中に神はいなかった。

 素晴らしいデキを誇った4着ウィクトーリア(父ヴィクトワールピサ)、巻き返しに出た5着ダノンファンタジー(父ディープインパクト)、確かな成長を示したシャドウディーヴァ(父ハーツクライ)は、負けたとはいえ、現時点での能力は発揮した。これからの未来に向けて納得の2分23秒台だったろう。桜花賞2着のシゲルピンクダイヤ(父ダイワメジャー)は、懸念されたようにこの距離は合わなかった。

 日本ダービーの今週は、移動柵がさらに外に動いてCコース。天候とペースにもよるが、良馬場だとオークス以上の高速決着か、あるいは猛烈なレース上がりが予測される。馬場が硬いという声はないが、毎週、毎週のレコードは続くのだろうか。日本ダービーレコードは15年ドゥラメンテの2分23秒2。コースレコード(JRAレコード)は、18年秋のアーモンドアイの2分20秒6。少なくともレースレコードは更新されそうな気がしてきた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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