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スムーズなレース運びで強さを見せたインディチャンプ/安田記念

  • 2019年06月03日(月) 18時00分

ステイゴールド産駒として、貴重なマイルGI勝ち馬に


 スタート直後に、レースに大きな影響を及ぼしたと思われるアクシデントがあり、白熱の攻防に、どよめきの騒然が重なるチャンピオン決定戦だった。

 ただし、快勝した4歳インディチャンプ(父ステイゴールド)と、必死に粘って2着したアエロリット(父クロフネ)にはまったく関与しない事象であり、頂点のGI激走馬にふさわしい評価をしなければならない。

 インディチャンプは「スタートだけミスをしないように、と思っていた」福永祐一騎手の描いたプラン通り、素早く好位のイン確保に成功。アエロリットの作った「45秒8-45秒1」=1分30秒9のペースに乗った。この流れなら前走のマイラーズCのように折り合いに苦心することはない。直線は包まれる危険を避け馬場の中ほどに出す余裕さえみせ、タイム通りの完勝だった。

重賞レース回顧

好位からアエロリットを差し切ってGI初勝利を挙げた(撮影:下野雄規)


 これで東京の1600m2戦2勝。3歳夏からコンビとなった福永騎手と【4-1-0-1】。少し余裕残りとされた前回と同じ自己最高の470キロの馬体は、2週連続ハードに追っての充実なので、迫力が加わり完成期に近づいたのだろう。今回がまだ10戦目、これからさらなるパワーアップも望める。

 種牡馬ステイゴールドの事実上の最終世代から出現した10頭目のGIホース(海外を含む)は、中・長距離タイプの多い古馬GI馬のなかで、貴重なマイルGI勝ち馬となった。やがて後継種牡馬となるとき、ステイゴールド系の幅はさらに広がるだろう。母ウィルパワーの1歳下の半弟には2011年安田記念のリアルインパクト(今年の新種牡馬)がいる。

 昨年の安田記念(クビ差)につづき、今年も2着(クビ差)に惜敗した5歳牝馬アエロリットは、改めて驚くべきスピード能力を示した。これで東京コース【3-3-0-2】。

 前回のヴィクトリアマイルは、前半1000m56秒1で飛ばし自身「44秒8-46秒1」の前後半で「1分30秒9」。今回はムキにならず1000m通過57秒0で行って、自身「45秒8-45秒1」の逆バランスで、同じ「1分30秒9」。2戦連続して総合スピード能力を問われる東京のマイルを、ペースを問わず1分30秒台で走破は歴史的な記録である。

 上がり32秒4で猛然と追い込んで「クビ、ハナ」差3着の14番アーモンドアイ(父ロードカナロア)には、あまりにもかわいそうなレースだった。最外のロジクライ(父ハーツクライ)がスタート直後に大きく内に斜行したため、15番ダノンプレミアム(父ディープインパクト)、13番ペルシアンナイト(父ハービンジャー)、12番ロードクエスト(父マツリダゴッホ)とともに、いきなり多大な不利を受けた。

 さらには、バランスを崩し先行できなかった当面のライバル=ダノンプレミアムが、4コーナーにさしかかるまでずっと外に並んで位置する想定外の展開。当然のことだが、ダノンプレミアム(川田将雅騎手)は隣のアーモンドアイに進路を譲って空けるようなことはできない。アーモンドアイはずっと閉じ込められた窮屈な道中だった(決して川田騎手が悪いわけではない)。直線に向いても前に複数の馬がいる。エンジン全開の追撃に入れたのは、最後の1ハロンちょっとだろう。あまりに悔しいレースだった。

 ルール上「5位までに入線した馬」に着順変更の可能性があるわけではないから、審議にはならない。レース後、ロジクライには発走調教再審査の制裁が科せられ、騎乗していた武豊騎手には6月8日(土)の騎乗停止処分が下された。降着、失格のルール通りといってしまえばそれまでだが、WIN5とは別に200億円以上の売り上げを記録し、これだけ多くのファンの注目を集めた頂点のGI安田記念である。

 スタート直後とはいえ、断然の人気馬2頭などが大きな不利を受けたレースで、のちに無言のパトロールビデオを短時間流しただけのJRAの対応は、あまりに不親切だった。多くの若いファンが歴史的な「名牝アーモンドアイ」を見にきていた。なぜ、騒然のレースだったのか?なぜ、さまざまな声が渦巻くレース後だったのか?若いファンには帰り道でも理解できなかったろう。悲しいアーモンドアイを見ただけだった。あまりにも不適切な対応だった。

 スタート直後の斜行などのアクシデントは、よほどの重大事故が発生しない限り、審議の対象ではないことが多い。重要視されない事象扱いが通例である。だが、これは現行の降着制度がかかえる不備や不条理が改めて浮き彫りになるアクシデントの一歩手前だった。

 あれで仮にロジクライが3着に入着していたら、「斜行の妨害」は同じなのに、その場合に限って審議にしたことになる。そしてロジクライは、(被害馬が先着できたとは、スタート直後のことであり、先着の根拠などないから「認めない」ので)、おそらく3着のままになる。それとも12着ロードクエストのあとに降着なのだろうか。

 今回、ロジクライは9着で、立ち上がって最後方に置かれたペルシアンナイトは10着、ロードクエストは12着だった。はからずも今回のアクシデントが示したように、スタートの瞬間からレースは始まっている。判断が、(結局は不明の)先着できたかどうかに縛られすぎていないだろうか。

 たしか、裁決委員が必要と判断した場合には「審議ランプ」をつけることが可能なはずであり、多くのファンが騒然となったGI競走のアクシデントに無反応だった今回の裁決は、決断力に欠けた。少々遅れても、審議ランプを点灯すれば、権威ある主催者らしい、ファンに理解してもらえる説明も可能だったろう。それには、分かりやすく説明する誠意も伴ったはずである。

 ついでに、以前にも要望したが、審議説明の「マニュアル通りのアナウンス」は、相変わらず日本語として礼節に欠ける言葉づかいと思われる。JRAを退職した多くの先輩職員が、いまファンに戻っている。その声を聞くべきである。

 もっとも大きな不利を受けたと見えた10着のペルシアンナイトのM.デムーロ騎手は、悲しく「ノーコメント」だった。大きな不利があってむなしい10着だったから…だけではないように映ったのはどうしてだろう。

 人気で凡走したダノンプレミアムのレース前のチャカつきはいつものことで、とくに今回がひどかったわけではないが、ゲートが開く直前、自身も体勢を崩しかけ、立て直しながらのスタートになっていた。だから、あの不利は致命的で、途中でリズムを取り戻すことができなかった。最後は故障の下馬かと思えたが、歩様のバランスを失っただけだったようである。しかし、立ち直るには時間が必要だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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