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「今日もどこかで馬は生まれる」(2) 映し出される現実―最期の瞬間、涙を流す馬もいる

  • 2019年06月04日(火) 18時05分
第二のストーリー

▲都内で行われた上映会の様子(提供:Creem Pan)


馬の命は人間の気持ち次第…


「今日もどこかで馬は生まれる」は、前回も紹介したようにクラウドファンディングによって製作費を募って生まれた映画だ。5月27日、クラウドファンディングの支援者、映画の出演者等が対象の上映会及び交流会が都内で行われた。冒頭に映画を製作した「Creem Pan」の平林健一さんが挨拶をし、映画が始まった。通しで本編を見たのはこれで2回目になるが、映像が映し出されるとすぐにその世界に引き込まれた。会場も水を打ったように静かになり、その場にいる全員がスクリーンに集中していた。
 
 競馬を取り巻く様々な人が登場し、それぞれの馬への向き合い方を語っている。その偏りのなさがこの映画の魅力でもある。競馬場に集った男性4人組は馬券が当たった喜びや外れた悔しさも、皆で分かち合って楽しんでいた。「好きだった馬の子供を応援するのは楽しい」と語る女性や、小学生の時にディープインパクトを見て競馬に興味を持ち、競馬業界に就職を決めた大学生も登場している。改めて競馬はファンがあって成り立っているのだと実感させられたシーンだった。

 そしてそれぞれが、引退した競走馬のその後について考えを持っていた。目の前で走っている馬たちがどうなるのかをたくさんのファンが憂えていて、何か自分にできることはないのかと、どこかで思っている。もしすべての馬たちの第二、第三の馬生が保証されているのであれば、もっと晴れやかな気持ちで競馬を楽しめるのにというファンも多いのではないだろうか。

 競走馬を所有する馬主として登場したのが、人気ラーメンチェーン「一蘭」を経営する吉冨学さんだ。映画が撮影された昨年当時、ここ3年間で馬にかけたお金はおよそ10億円といい、地方、育成馬を含めて所有している馬は現在49頭だと話した。所有馬が例え18頭立ての18番人気だったとしても、レース前には勝つだろうと信じる気持ちでいるが、負けても元気ならそれでいい、すべての人に感謝をして気持ちを切り替えるのだという。さすがに経営者だけあって、その話はわかりやすくかつ説得力があり、穏やかで冷静な語り口が印象に残った。

第二のストーリー

▲競走馬を所有する吉冨学さん(提供:Creem Pan)


 そのように期待をされた馬たちも、いつか最後を迎える時が来る。競走馬として、または繁殖として、あるいは乗馬としての役割を果たせなくなった馬たちの多くは、屠畜という運命を辿る。正確な統計はないようだが、

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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