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シルクジャスティスの豪脚が呼び起こす記憶

  • 2019年06月06日(木) 12時00分
 また1頭、名馬が世を去った。

 既報のように、1997年の有馬記念などを制したシルクジャスティスが、今月3日、老衰のため死亡した。25歳だった。同馬は北海道新ひだか町の畠山牧場に繋養されていた。

 シルクジャスティスは、1994年3月18日、北海道新冠町の早田牧場新冠支場で生まれた。

 父ブライアンズタイム。母ユーワメルド(母の父サティンゴ)。同い年のいとこ(母の妹の初仔)に皐月賞で2着になったシルクライトニングがいる。

 管理したのは、1994年の三冠馬ナリタブライアンなどを育てた伯楽の大久保正陽調教師(当時)。

 そして馬主が有限会社シルク。シルクジャスティスは、言ってみれば良家のお坊っちゃまだった。

 デビュー7戦目、1997年3月16日の旧4歳未勝利戦で初勝利を挙げた。のちのこの馬のイメージからはかけ離れているのだが、舞台は阪神ダート1800mだった。

 そこからの連闘となった毎日杯は、新馬戦以来約5カ月ぶりの芝でのレースだったのだが、コンマ2秒差の3着。このあたりにも、飛び級をあっさりやってのけるクラスレスな強さが感じられた。

 つづく若草ステークスで、姉にスキーパラダイス、兄にスキーキャプテンがいる超良血バーボンカントリーを下して1着。

 そして次走の京都4歳特別で、引退まで手綱を執りつづける藤田伸二騎手(当時)を鞍上に迎え、重賞初勝利を遂げた。

 日本ダービーでは、二冠制覇を達成したサニーブライアンを追い込み切れず1馬身差の2着に敗れたが、世代トップクラスの力の持ち主であることを広く知らしめた。

 今あらためて、この第64回日本ダービーの出走馬を見ると、あまりに豪華で、驚いてしまう。

 1、2着は、今記したサニーブライアンとシルクジャスティス。

 3着は翌年の天皇賞・春を勝つメジロブライト、4着はシルクジャスティスの僚馬で、翌年の日経新春杯などを勝つエリモダンディー。5着は弥生賞をひとマクりで制したランニングゲイル、7着は菊花賞馬マチカネフクキタル、9着は稀代の快速馬サイレンススズカなのだ。

 ダービーだから強い馬が出ていて当たり前とも言えるのだが、これだけ個性派が揃うのは珍しいのではないか。

 シルクジャスティスは、秋初戦となった神戸新聞杯こそ8着に敗れたが、叩き2戦目、初の古馬相手となった京都大賞典で、2歳上のオークス馬ダンスパートナーをクビ差下して優勝。

 菊花賞はマチカネフクキタルの5着、ジャパンカップはピルサドスキーの5着と悔しいレースとなったが、つづく有馬記念でGI初制覇を果たす。先に抜け出して叩き合うO.ペリエ・エアグルーヴと武豊・マーベラスサンデーを外から豪快に差し切っての勝利であった。

 結局、これが最後の勝利となった。

 旧5歳になった1998年、6歳になった1999年も中・長距離戦線で存在感を見せたが、GIでは天皇賞・春で2年連続4着となったのが最高だった。

 藤田元騎手は、この馬で有馬記念を勝つ前年、フサイチコンコルドでダービーを制し、24歳の若さでダービージョッキーになっていた。瞬時に馬を反応させる騎乗は彼ならではのもので、それがシルクジャスティスの潜在能力を引き出すことにつながった。

 筆者は当時、たびたび藤田元騎手に取材する機会があり、有馬記念を勝つ前にこの馬について話を聞いたこともあった。が、強いということ以外は、あまり多くを語ろうとしなかった。いろいろ話すのは、この馬のすべての力を引き出してからにしたい、という思いがあったからか。

 古馬になって勝てなくなってからも、

 ――藤田のシルクジャスティスが後ろから飛んでくるかもしれない。

 と、他馬陣営に脅威を与えつづけた。

 通算27戦5勝。もっとたくさん勝っていたようなイメージがあるが、こうして振り返ると、5勝すべてで強烈な印象を残したことがわかる。

 2001年から種牡馬となり、数頭の地方重賞優勝馬を送り出した。

 産駒のなかで、唯一のJRA重賞優勝馬となったのは、2010年の中山大障害を制したバシケーンだった。

 バシケーンは、現役引退後、福島の相馬中村神社で繋養され、2013年、神馬として相馬野馬追デビューを果たしている。

 私も、その年を含めて何度か相馬で会っている。鼻先にマメのような点があるので、「マメちゃん」とか「マメゾウ」と呼ばれて可愛がられていた。

 混戦クラシックを賑わせ、超豪華メンバーのグランプリを差し切ったシルクジャスティス。

 名馬の物語は、私たちの胸にずっと残りつづける。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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