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【日本ダービー制覇!!】浜中俊×藤岡佑介(後編)『連続2着の悔しさ見せず…戸崎圭太騎手の超絶紳士なエピソード』

  • 2019年06月12日(水) 18時02分
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▲後編では、ダービー勝利の裏側でのサイドストーリーを語ります (撮影:山中博喜)


二冠への期待を背負ったサートゥルナーリアが、1.6倍の支持を集めた第86回日本ダービー。詰めかけた11万人の大観衆の前を先頭で駆け抜けたのは、サートゥルナーリアの同厩で浜中騎手が騎乗する、12番人気のロジャーバローズでした。2ケタ人気馬のダービー制覇は53年ぶり。

公私共に親しくしている可愛い後輩・浜中騎手の栄光を、ふたりで振り返るという今回の企画。後編では、ダービー勝利の裏側で繰り広げられていた、様々なサイドストーリーを追います。

(取材・文=不破由妃子)


師匠への報告、涙で会話を続けられなくなり…


──戸崎さんは、昨年(エポカドーロ)に続いて僅差の2着。その悔しさたるや察するに余りありますが、ゴールした直後、そんな戸崎さんに浜中さんは…。

浜中 「僕、勝ってます?」って2回も聞いてしまいました(苦笑)。今はそんな自分に対して「空気読めなさすぎ!」って思いますけど、そのときは僕も相当テンパっていたので…。でも、戸崎さんは馬上でもすぐに握手してくれて、検量室に戻ってからも、もう一度握手してくれたんです。

佑介 そのときの画像が話題になってたよね。戸崎さんにしてみれば、去年も今年もめちゃくちゃ上手に乗ってはって、それでも届かへんかったわけで…。悔しいなんてもんじゃないと思うよ。でも、戸崎さんはそれを見せない。ホンマに紳士だと思う。すごいよね。

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▲前を捕らえにかかる戸崎騎手騎乗のダノンキングリー (撮影:下野雄規)


浜中 はい。いつでも紳士ですよね。

佑介 そういえば戸崎さん、このコラムを読んでくれているらしいので、この場を借りて…「ご出演、お待ちしてます!」(笑)。

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▲「戸崎さんはホンマに紳士」と佑介騎手 (撮影:佐々木祥恵)


──しっかりアピールしておきましょう(笑)。先ほど佑介さんがおっしゃった戸崎さんと浜中さんの握手のシーンも話題になりましたが、もうお一方、浜中さんのダービー制覇をより感動的なものにしてくださったのが、師匠である坂口正大先生です。当日は『競馬BEAT』にご出演されていて、うれしさのあまり言葉にならない先生の姿が多くの競馬ファンの胸を打ちました。

浜中 僕もあとで映像を見ました。現役の頃はもちろんですが、引退されてからも常に気に掛けてくださっていたので…。本当によかったなって、僕もうれしくなりました。

佑介 先生にはどのタイミングで報告したの?

浜中 競馬場からの帰りの車のなかで、真っ先に電話しました。そうしたら「テレビで泣いてしまって…。会話ができひんかったわ」とおっしゃって。そのあと「お前の声を聞いたらまた…」と言葉に詰まったので、僕も何も言えなくなって…。お互いに会話を続けられない感じでしたね。

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▲「お互いに会話を続けられない感じでした」 (撮影:山中博喜)


佑介 ええ話やなぁ。

浜中 そういえば、僕が自厩舎で初めて勝った馬がシャイナムスメという馬で、なんとロジャーバローズと同じ飛野牧場の生産馬なんですよ。

──それはまた縁を感じさせるサイドストーリーですね。大手の生産牧場なら珍しいことではありませんが、飛野牧場は個人経営の牧場ですから。

佑介 それこそホンマに縁やなぁ。

浜中 ですよね。ものすごく縁というものを感じました。しかも、前走の京都新聞杯は、もともと四位さんが乗る予定だったんですけど、四位さんが騎乗停止になってしまったことで、急きょ僕に依頼がきたという経緯もあって。

佑介 競馬って不思議だよね。ヴェロックスも最初はハマが乗っていて、「いいところまで行ける馬です」っていう話をしていてさ。実際、そのヴェロックスが3強の一角としてダービーに出てきたわけで。

浜中 まあ、ヴェロックスが乗り替わりになったときは、めっちゃ落ち込みましたけどね(笑)。それこそ4月の時点では「今年のダービーは乗れないな」と思っていたくらいですから。今回のダービーを経験して、改めて競馬は最後までわからないなと思いました。

ダービーの夜はダービージョッキーと過ごしたい


──本当ですね。浜中さんにとって、去年はデビュー以来初めて重賞勝利が途切れた年でもありました。苦しい時期を経ての大金星ですものね。

浜中 重賞については、勝てへんことを考えるのも嫌で、逆に考えないようにしていました。それこそ重賞に乗る機会自体も減りましたし、GIなんかもっと減って。そういうことも含め、自分自身のなかで触れないようにしていたというのは正直ありましたね。

佑介 触れないようにしていた時点で気にしてたっていうことだよな。

浜中 ……すっごい気にしてました(苦笑)。

佑介 ここ数年、ハマが苦しんでいるのを近くで見てきたから、レース後のインタビューで「苦しい時期もあったので…」みたいなことを言い出したら、ちょっと泣いてしまうかもと思ってたんやけど、そこ言わへんかったから我慢できた(笑)。

浜中 おじいちゃんの泣ける話をしたんですけどねぇ(笑)。

──佑介さんにとっては、初めて後輩からダービージョッキーが誕生したわけですが、やはり心情的に複雑なものがありますか?

佑介 羨ましさはもちろんありますけど、今回はハマだったこともあって、嫉妬的な感情はないです。純粋によかったなぁと思うし、ハマにとって流れを変える大きなきっかけになるだろうなと思ってます。

 令和初のダービーを30代の日本人ジョッキーが勝ったというのも、なんか“新時代突入!”みたいな感じでいいなって。いいダービーだったと素直に思いますよ。

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▲「令和初のダービーを30代の日本人ジョッキーが勝って…」 (撮影:山中博喜)


浜中 そう言っていただけるとうれしいですね。

佑介 俺、ホンマはね、東京に駆けつけたかったんだよ。やっぱりダービーを勝った日の夜っていうのはジョッキーにとって特別だと思うし、その特別な高揚感に触れることで自分のモチベーションも高まるから、ダービーの夜はダービージョッキーと一緒にいたいっていう思いが昔からあって。

──実際、関西から駆けつけた年もありましたよね?

佑介 ありましたね。だから今年も行きたかったんだけど、どうしても行けへんくて。

浜中 次の日、ゴルフだったんでしょ! ゴルフと僕のダービーと……

佑介 どっちが大事かって言われたら、そりゃあゴルフが…。冗談です(笑)。

──佑介さんも負けていられませんね。

佑介 ホントですね。その前に、ダービーはやっぱり乗ってないと。今年なんか自分で自分に「何してんねん!」と思いましたよ。ダービー前日の葵Sで同期の4人(藤岡佑騎手、川田騎手、吉田隼騎手、津村騎手)が顔を揃えたときも、「ここで揃っている場合じゃない。やっぱダービーで戦わんと!」なんて話していて。そうしたら津村が、「えっ? ダービーは今日じゃねぇじゃん」とか言い出して(笑)。

浜中 そういう話じゃなーい(笑)!

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▲「津村さん! そういう話じゃなーい(笑)!」 (撮影:山中博喜)


佑介 そうそう、あくまでモチベーションの話をしていたのに(笑)。でも来年こそはね、同期と一緒にダービーの舞台で戦えればいいなと思ったよ。今日は忙しいところ、時間を割いてくれてありがとう。最後に改めて、ダービー優勝、おめでとう!!!

浜中 ありがとうございます! 祝勝会は一度と言わず、二度、三度……いや、10回くらい開いてもらっても大丈夫ですので、藤岡先輩、よろしくお願いしますね(笑)。

(文中敬称略、了)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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