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米三冠馬American Pharoahと米G1牝馬との間に誕生したアブルハウル

  • 2019年06月26日(水) 12時00分
●アブルハウル(牡 栗東・池江泰寿 父American Pharoah、母Kitten's Dumplings)

 父American Pharoahは史上12頭目の米三冠馬。通算成績は米11戦9勝で、米三冠のほかにブリーダーズCクラシック(米G1・ダ10f)をレコード勝ちするなど計8つのG1を制覇し、エクリプス賞年度代表馬、同3歳牡馬チャンピオン、同2歳牡馬チャンピオンに選出された。現2歳世代が初年度産駒で、現在アメリカでは9頭デビューして3頭が勝ち上がっている。

 母Kitten's Dumplingsは3歳時にクイーンエリザベス二世チャレンジカップS(米G1・芝9f)など3つの芝重賞を制覇した。Sadler's Wells 3×3という重厚なインブリードが特徴的だ。

 母の父Kitten's JoyはSadler's Wells系の米リーディングサイアー。本馬はPineerof the Nile≒Grand Slam 2×3が素晴らしい。母のSadler's Wellsクロス、三冠馬とはいえ種牡馬能力は未知数な父、という不安要素はあるものの、配合的には高く評価したい。芝・ダート兼用の中距離タイプ。

●サトノセシル(牝 美浦 堀宣行 父Frankel、母Dupe)

 母Dupeは不出走ながらTwice Over(09、10年英チャンピオンS-G1、10年エクリプスS-英G1、11年英インターナショナルS-G1)の全妹にあたる良血。

 父Frankelは大種牡馬Galileoの最高傑作で、現役時代はイギリスのマイル路線を中心に走って14戦全勝(G1は10勝)の成績を残した。ヨーロッパではCracksman(17、18年英チャンピオンS-G1、18年コロネーションC-英G1、18年ガネー賞-仏G1)、Anapurna(19年英オークス-G1)、Without Parole(18年セントジェームズパレスS-英G1)、Call the Wind(18年カドラン賞-仏G1)、Dream Castle(19年ジェベルハッタ-首G1)などを出し、日本でもソウルスターリング(17年オークス-GI、16年阪神ジュベナイルフィリーズ-GI)、モズアスコット(18年安田記念-GI)、ミスエルテ(16年ファンタジーS-GIII)が重賞を勝った。

 本馬は「Frankel×Observatory」という組み合わせでBlushing Groom 5×4、母方にNijinskyを持つ、という血統構成。これはプリンセスマーガレットS(英G3・芝6f)を勝ったFair Evaと配合的に酷似している。芝向きのスピードタイプだろう。

●ダノングロワール(牡 美浦・国枝栄 父ハーツクライ、母ソーメニーウェイズ)

 母ソーメニーウェイズはアメリカの馬産地のなかでは決して主流とはいえないペンシルベニア州で生産され、2歳時にスピナウェイS(米G1・ダ7f)を勝ったほか、エイトベルズS(米G3・ダ7f)、スカイラーヴィルS(米G3・ダ6f)などを制して米10戦5勝の成績を残した。Seattle Slew 4×4というインブリードを持っている。

 母の父SightseeingはTapit(米リーディングサイアー3回)と同じくPulpitを父に持ち、現役時代はG1勝ちこそないもののピーターパンS(米G2・ダ9f)を勝った。母方にSeattle Slewを持つハーツクライ産駒は走っており、このパターンからスワーヴリチャード、アドマイヤラクティ、カレンミロティック、シュンドルボン、カポーティスターなど多くの活躍馬が出ている。芝・ダート兼用の中距離タイプ。

●フェルミスフィア(牝 美浦・木村哲也 父エピファネイア、母フェルミオン)

 2代母パテントリークリアは名繁殖牝馬で、タイキフォーチュン(96年NHKマイルC-GI)、タイキダイヤ(99年クリスタルC-GIII)、タイキリオン(02年ニュージーランドT-GII)と3頭の重賞ウィナーの母となっただけでなく、孫の代からセイウンコウセイ(17年高松宮記念-GI)を出した。

 母フェルミオンは現役時代1勝に終わったものの、繁殖牝馬としては成功し、ストレンジクォーク(父メイショウサムソン/18年中山金杯-GIII・3着)、アップクォーク(父ベーカバド/16年ラジオNIKKEI賞-GIII・4着)など競走年齢に達した5頭中4頭が勝ち上がっている。

 父エピファネイアは新種牡馬。現在9頭出走して[0-2-1-6]という成績だが、勝ち上がるのは時間の問題だろう。現役時代にジャパンC(GI)、菊花賞(GI)など4つの重賞を制し、リオンディーズ(15年朝日杯FS-GI)、サートゥルナーリア(19年皐月賞-GI、18年ホープフルS-GI)の半兄にあたる超良血。その母シーザリオはオークス(G1)やアメリカンオークス(米G1・芝10f)などを制した名牝だ。本馬は芝向きの中距離タイプ。

●リアンティサージュ(牡 栗東・須貝尚介 父オルフェーヴル、母ローブティサージュ)

 母ローブティサージュは阪神ジュベナイルフィリーズ(GI)の勝ち馬。2代母プチノワールはアサクサデンエン(05年安田記念-GI、05年京王杯SC-GII)と同血(父が同じで母同士が全姉妹)で、Glorious SongとMachiavellianを通じたHaloクロスを持ち、Sadler's Wells(≒Nureyev)がサポートするという配合構成なので、ヴィルシーナ(13、14年ヴィクトリアマイル-GI)、ヴィブロス(17年ドバイターフ-G1、16年秋華賞-GI)、シュヴァルグラン(18年ジャパンC-GI)を産んだ名牝ハルーワスウィートと配合構成がよく似ている。

 父オルフェーヴルはエポカドーロ(18年皐月賞-GI)、ラッキーライラック(17年阪神JF-GIなど重賞3勝)、ロックディスタウン(17年札幌2歳S-GIII)、サラス(19年マーメイドS-GIII)を出しているが、これらは母がアメリカ血統でMr.Prospectorを持つという共通点がある。父に足りないスピードを補給すると大きな効果がある、ということだろう。

 母ローブティサージュは2歳牝馬チャンピオンでMr.Prospector 3×4。気性面と体格面(本馬は初子)の問題がなければ走ってくるはず。

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68年生まれ。血統専門誌『週刊競馬通信』の編集長を務めたあと97年からフリー。現在は血統関係を中心に雑誌・ネットで執筆活動を展開中。 関連サイト:栗山求の血統BLOG

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