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素質馬の新馬戦とラジオNIKKEI賞につどうクラシカルな血脈

  • 2019年06月27日(木) 12時00分
 宝塚記念の日に阪神芝外回り1800mで行われた2歳新馬戦を勝ったのは、福永祐一騎手が手綱をとった2番人気の牡馬レッドベルジュール(父ディープインパクト、栗東・藤原英昭厩舎)だった。

 このレースは素質馬が集まることで知られており、一昨年、2017年は2歳王者ダノンプレミアム、2015年はエアグルーヴの孫ポルトフォイユ、2014年は次走の紫菊賞も勝つティルナノーグが勝っている。

 今年も、5戦4勝で引退した「幻の名馬」シルバーステートの半弟シルヴェリオ(1番人気、4着)、キズナ産駒のリメンバーメモリー(3番人気、8着)などが出走し、注目を集めていた。

 勝ちタイムは1分50秒7(良)と平凡だったが、勝ったレッドベルジュールは上がり3ハロン33秒8、2着に逃げ粘ったメイショウボサツは33秒9の末脚を繰り出した。スローペースだったとはいえ、宝塚記念に出場した複数の騎手が「緩い馬場」と表現した馬場状態だったことを考えると、絶対的な能力の高さを示したと言えよう。

 シルヴェリオは中団の後ろから、リメンバーメモリーは最後方からレースを進め、どちらも直線で伸びなかった。余力がなかったわけではなく、レースというのは相手を追い抜かなければならないものだということを、馬がまだわかっていないような感じだった。

 シルヴェリオに騎乗したクリストフ・ルメール騎手も、リメンバーメモリーに乗った武豊騎手も、「まだ子供だが素質はある」といった、同じようなコメントを残している。今後の変わり身に期待したい。

 2着になったメイショウボサツの父はエピファネイアだ。もっと前の新馬戦でも実現していたが、2013年の日本ダービーで1、2着となったキズナとエピファネイアの産駒が同じレースで走るところを見ると、競馬とはそういうものだとわかっていても、つくづく時間の流れを感じさせられる。

 今週のラジオNIKKEI賞に出走を予定しているブレイキングドーンも、昨年の宝塚記念当日の新馬戦を勝った馬だ。

 この馬は、1979年のオークスなどを勝ったアグネスレディー、その娘のアグネスフローラ(アグネスフライト、アグネスタキオンの母)の牝系から出た良血である。

 ほかにも、今年のラジオNIKKEI賞の登録馬の母系には、懐かしい名牝や、古式ゆかしい血脈を見つけることができる。

 インテンスライトの2代母(母方の祖母)は1998年の阪神3歳牝馬ステークス(表記は旧馬齢)を勝ったスティンガーだ。

 ウインゼノビアの2代母レディゴシップは、元プロ野球選手の江川卓氏が一口所有していたことで話題になった。

 ダディーズマインドの3代母ケイティーズは、1993年の阪神3歳ステークスや1994年のエリザベス女王杯などを勝った女傑ヒシアマゾンの母。つまり、ダディーズマインドの大叔母がヒシアマゾンなのである。

 ショーヒデキラの12代母と、ヒルノダカールの11代母は同じアストニシメント、ブレイブメジャーの11代母はフロリースカツプ、ヴァンケドミンゴの11代母はフラストレート。そう、これら4頭は、1907(明治40)年にイギリスから輸入された「小岩井の牝系」の出身なのである。

 ランスオブプラーナの11代母エスサーデイーも明治時代にイギリスから輸入された馬だし、マイネルサーパスも、1951年の朝日杯3歳ステークスを勝った6代母タカハタを経て、1922年生まれの9代母クヰツクランチまで遡る。

 気が遠くなるほどの時間をかけ、大切に血をつないできた生産者の思いがどのような形で結実するか。

 今週も、競馬場で見届けたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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