隠れた幸運も後押しし、約2年ぶりのコンビで重賞初制覇
稍重発表の芝は、先週のラジオNIKKEI賞(不良)のような渋馬場ではなかったが、どの人馬にとっても難しいレースだった。全盛時の粘り腰はなくとも、快速マルターズアポジー(父ゴスホークケン)がグングン飛ばすことは分かっている。タテ長になること必至の流れの中で、ライバルの動きを確認しながら、どこでスパートするか、スパートできる脚があるか、の勝負だった。
自身の初重賞制覇がかかる菊沢一樹騎手(21)は、強気だった。マルターズアポジーが飛ばして作ったレース全体のバランスは、前後半「58秒0-61秒6」=1分59秒6。
「最初の1000mは58秒0で通過…」の実況アナウンスがあった地点で、中団より後方にいたミッキースワロー(父トーセンホマレボシ)は、先頭から15馬身以上は離れていた。直後に2番人気のクレッシェンドラヴ(父ステイゴールド)、1番人気のロシュフォール(父キングカメハメハ)が控えていたが、1200m通過地点あたりからミッキースワローは早くも進出開始。3コーナー手前からは外を回って一気にピッチをあげ、強気にまくり切った4コーナーでは先頭に並んでいた。
菊沢騎手のミッキースワローの上がりは、この馬場だから「36秒7」。ところが、一歩遅れて必死にスパート態勢に入った2着馬クレッシェンドラヴの上がり「36秒6」が最速であり、4着馬以外の他のライバルはみんな37秒台以上だった。飛ばすマルターズアポジーがいて、ほかにも先行タイプが複数いる渋馬場。だれも流れは読めない。
最後の200mは13秒0を要したが、大正解だったのが行きっぷりの良さと能力を信じてだれよりも早く果敢にスパートした菊沢一樹(ミッキースワロー)だった。こういう勝利は大きな自信になるだろう。ミッキースワローに騎乗したのは2017年の7月以来、約2年ぶりだった。
菊沢騎手の好判断に導かれ優勝したミッキースワロー。鞍上に初重賞制覇をプレゼント(撮影:小金井邦祥)
隠れた幸運もあった。伯父(母の兄)にあたる横山典弘騎手は、ずっと以前から騎乗馬を決める際に厳守のポリシーがあり、先に騎乗依頼を受けた馬に騎乗することに決めている。騎乗できる馬が重なっても、天秤にかけてより可能性の高い馬に騎乗することは、しない。今回の昆厩舎の12番人気馬ロードヴァンドール(父ダイワメジャー)には、依頼を受け乗り替わった7走前から連続して騎乗する無言の約束がある。
対戦することになった義兄弟にあたる菊沢隆徳調教師の管理する3番人気馬ミッキースワローは、こちらも9戦連続して乗る主戦であっても、乗るべきは身内の菊沢厩舎の有力馬ミッキースワローではない。当然のように、騎乗したのはロードヴァンドールだった。
その横山典弘騎手の12番人気馬ロードヴァンドール(父ダイワメジャー)は、きびしい先行馬つぶれの流れを我慢しきって3着。「良くがんばった。立ち直ってきている」と、6歳馬のしぶとい健闘を称えたが、良くがんばった、にはもうひとつの意味があったかもしれない。
ミッキースワローのスパートを追撃したクレッシェンドラヴは、必ずしも手応えは良くなかったが、ここは狙いを定めた一戦。懸命に伸びて、これで馬体調整のリフレッシュ放牧明け(中10週以上)は6戦して【4-2-0-0】。きわめて特異な成績を残すことになった。もう体質の弱さは解消したと思えるが、次走の評価は非常に難しい。
1番人気のロシュフォールは、バランス抜群の素晴らしい仕上がりだった。しかし、小回りの渋馬場で、内の3番枠。コーナーワークは平気だったが、多頭数の内枠から途中で外に出すのは至難。外に出せたのはすでに手応えの怪しくなった最後の直線だけだった。上がり32〜33秒台の切れ味勝負で真価発揮のタイプだけに、福島の渋馬場はかわいそうだった。
後方から突っ込み11番人気で4着のゴールドサーベラス(父スクリーンヒーロー)は、直線勝負に徹しての善戦には違いないが、あと少しで馬券圏内だった。藤田菜七子騎手は2Rでも鮮やかに勝った。もう女性だから注目される菜七子騎手ではない。ジョッキーランキング30傑にも入ろうかという「藤田騎手」となった。
4番人気のタニノフランケル(父フランケル)は、先行型には苦しい流れだったこともあるが、スタート直後から舌を大きく出して舌越しのまま。驚くことに最後の直線に戻ってきてもまだ舌を出したままだった。こんなことはいままでなかったが…。6着には粘ったものの、どうみてもスムーズではなく、不本意だったろう。