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今年は久々の重賞制覇! 2年後輩の酒井学騎手にインタビュー

  • 2019年07月23日(火) 18時00分

年間未勝利で終わりかけた2006年に訪れた転機


 夏競馬も前半が終了し今週から小倉・新潟・札幌が始まりますね。

 函館2歳Sでは、期待のキズナ産駒のビアンフェが早々勝ち名乗りをあげました。手綱を取った藤岡佑介騎手は函館リーティングを獲得。キズナが繋いでくれた人馬に期待が膨らみますね。おめでとうございます。

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夏の函館リーティングは藤岡佑介騎手に!(c)netkeiba.com


 中京記念でも記録が生まれましたね。3歳馬のグルーヴィット号が重賞初制覇を果たし、マイル界に新星誕生です。管理する松永幹夫調教師は2012、13年のフラガラッハに次ぐ今年で3回目の勝利。中京開催リーティングにも輝き、素晴らしい活躍ですね。おめでとうございます。

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管理する松永幹夫調教師は中京記念3度目の勝利(c)netkeiba.com


 さて今週の新潟開催では、サマースプリントシリーズの第3戦・アイビスサマーダッシュが行われます。芝の直線を一気に駆け抜ける様は見ごたえがありますね。

 小倉開催では、真夏の風物詩小倉祇園太鼓も楽しみの一つでしたね。「ドロ・カン・ジャンガラ」と独特なはやしのリズムで熱気にあふれます。僕は生観戦できなくてとっても残念ですが、皆さんは是非、現地で観戦して400年の歴史の重みを感じてもらいたいです。

 ようやく梅雨も終わりを迎え暑さも厳しくなってきますが、熱中症に気を付け、夏競馬を楽しんでください。

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 僕より2年後輩の酒井学騎手。競馬学校14期生の同期には、池添謙一騎手や太宰啓介騎手、白浜雄造騎手などがいて、同期全員がそろって卒業しているのも凄いことですね。

 現役の時は、よく話したり交流もある仲間でした。改めてジックリ取材させていただくと、新しい驚きや知らなかった秘話もたくさんありました。

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今年はダービーにも出走した酒井学騎手、オリジナルエンブレムがかっこいい!



常石 今日はよろしくお願いします。急に大丈夫ですか?

酒井 調教の合間なのでちょうどいいですよ。こちらこそよろしくお願いします。

常石 ゆっくり話を聞くのは、何年ぶりかですね? 今でもボードはされてるんですか?

酒井 イヤーもう年なんで、若者のレジャーはしなくなったですね(笑)。現在は身体のケアも含めしっかりトレーニングをしています。

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調教に向かう酒井学騎手


常石 デビューから振り返ると、1年目から池添騎手・太宰騎手と新人賞争いを繰り広げていましたよね。凄い騎手たちが揃った年だなと感じていました。

 結果的に新人賞をかけた争いは、池添騎手・太宰騎手に次いで3位でしたが、ここからと思った矢先の怪我(1998年9月初めごろ)は痛いですよね。(僕もやってしまったからな。あの時は、悔しかったよ)

 デビュー年から怪我としんどい時期もありましたが、一方で思い出に残っている勝利はなんでしょうか?

酒井 2001年にカブトヤマ記念にタフネススター号で勝利した時はうれしかったですよ。僕の出身地が新潟なので、みんな応援に来てくれていたと思います。

常石 初の重賞タイトルを地元で勝つことができたのは感慨深いですね。通常なら福島で行われる名物レースが、この年は改修工事で新潟開催だったということも縁を感じますね。

 学騎手は、節々で重要なレースを勝っている印象を受けます。記念すべきレースといいますか、記憶に残るレースも多いように思います。

酒井 そうですね。二分(久男)厩舎が解散したころから急に成績が落ち始め、2006年には、もう今年は1勝もできずに終わるのかとも思いましたが、12月16日に服部(利之)厩舎のニホンピロコナユキ号に乗せていただき、やっと1勝を挙げることが出来ました。

 2歳の未勝利でしたが、「学、よかったな」とみんなが声をかけてくれました。服部厩舎と西園(正都)厩舎の馬には、よく乗せていただいたり、調教を手伝わせてもらったりと助けていただきました。

 それがきっかけで、ニホンピロレーシングの馬に乗せていただけるようになり、オーナーの小林百太郎さんにかわいがっていただいています。ニホンピロの担当の方々ともよく話すようになり、お世話になりました。

常石 人の巡り合わせってちょっとしたきっかけですよね。それを大事にされているのは学騎手の人徳だと思います。

酒井 光栄なことです。ニホンピロレガーロ(2007年12月1日の500万条件で初コンビ)と出会い、引退まで乗せていただきました。

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ニホンピロレガーロとのコンビで制した2010年の小倉記念(c)netkeiba.com


常石 そこからGI馬に出会ったんですね。

酒井 はい。ニホンピロアワーズにも乗せていただきました。この馬は、ちょっと違うなと感じました。幸先輩の代打だったんですが、ニホンピロさんの馬だからきっちり結果を出さないといけないなと思い、鞍上を務めさせていただきました(2010年8月1日の響灘特別・1000万下で初コンビ)。強い競馬をしてくれて勝たせていただき、嬉しかったです。

 その時、「次もしっかり乗れよ」って声をかけていただき、耳を疑いましたね。

常石 オーナーに信頼されるのは、騎手として最高なことですよね。GIをつかむことに繋がったんですものね。

酒井 そうそう。2012年12月2日のジャパンカップダートをニホンピロアワーズで勝利し、中央のGI初勝利を挙げることができました。そんな日が来るとは、夢にも思わなかったです。

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2012年のJCダートでJRA・GI初制覇!(c)netkeiba.com


常石 おめでとうございます。他にも面白いレースといいますか、印象に残るコンビで活躍されていますよね。

 例えば西園厩舎のハクサンムーンは、本馬場入場するとすぐにロデオみたいにくるくる回ったりと話題の多い馬でしたよね。怖くなかったですか?

酒井 癖はわかっていたので、落とされない様、ムーンの機嫌を損ねない騎乗を徹底していました。

常石 とっても人気者だったからファンの方も楽しみにしていたようです。ハクサンムーンでアイビスサマーダッシュも勝ちましたね。やはり新潟での勝ち鞍は、いつでも嬉しいものですか?

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2013年のセントウルSではロードカナロアを退けてのV(c)netkeiba.com


酒井 そうですね。話題の多い馬は、乗っていても楽しいですから。引退するときは寂しかったですね。

常石 それから2014年には、トーホウジャッカル号で菊花賞を制しました。大きな勲章ですね。

酒井 ありがとうございます。谷(潔)先生とトーホウジャッカル号との出会いは、僕自身を大きくしてくれたと思います。この馬もすごく男前なので人気がありましたね。光栄です。

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2014年には、デビューから手綱を取り続けたトーホウジャッカルで菊花賞制覇(c)netkeiba.com


常石 そして今年はレッドジェニアルで京都新聞杯を制し、ダービーへの切符を手にしました。11番人気の馬を1着に持ってくるのは凄いですね。

酒井 高橋(義忠)先生のおかげです。感謝ですよ。ダービーは勝ちたいレースというより絶対に乗りたいレースですからね(結果は11番人気で8着)。

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今レッドジェニアルで久々の重賞制覇、次走のダービーにも出走(c)netkeiba.com


「騎手を辞めたら、僕には何もなくなるから」


常石 先ほどの二分厩舎が解散したころの話もありましたが、ここまで来るには、苦労も辛いことも沢山あったと思います。騎手をやめようと思ったことはありませんでしたか?

酒井 なかったですね。お金もなかったり、騎乗馬もなかなかこなかった時期もありましたが、騎手をやめようとは一度もなかったですね。

 調教師にも助手にもなるのではなく、騎手になりたくて騎手をやってきたので。辞めたら僕には何にもなくなる。何をしたらいいのかわからなくなると思って。

 当時は、甘い考えですが、3年間騎手をしてきたから周りの方々は僕のことは知ってくれているし、乗せてくれるだろうと高をくくっていました。営業もせず調教もほとんど乗っていなかったんです。甘かったですね。

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後輩の中井裕二騎手の質問にこたえる学騎手


 そんな時、同期の謙一が30歳を過ぎてから頑張った騎手がいるぞーとアドバイスをしてくれ、高田潤がずっとそばにいてくれた。

 俺は「何をやってるんだ、自分自身が変わらなければ何にも変わらない」と強い心を持ち、服部厩舎の調教を手伝わせていただいてチャンスをもらい、西園先生から「うちへ来るか」と声をかけていただき、ニホンピロのオーナーさんに巡り合えたなど、自分の周りには、たくさんの人がいることに気づきました。

常石 チャンスをしっかり掴みましたね。

酒井 まだまだ未熟ですが、騎手になったんだから辞める選択肢など考えません。もっと勉強して、これから騎手を目指す子たちへの夢を繋いでいきたいです。応援してください。ありがとうございました。

常石 もちろんです。これからの活躍も引き続き期待しています。ありがとうございました。

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 学騎手は、兄の忍さんも地方競馬の騎手をされているんですね。馬関係の家に生まれ、騎手になることが当然の世界に育った学騎手。「学」という名前が表すように、自分自身でしっかり考えて学び、騎手という職業に誇りを持って挑戦しているんだなと感じさせてくれました。

 これからも今まで以上の活躍を祈っています。「学!ファイト!」(僕が言うことでもないですが応援しています)

 つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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