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【横山武史×藤岡佑介】第2回『父の言うことを聞いて育ってきた、でも乗り方だけは曲げたくない』

  • 2019年07月31日(水) 18時02分
with 佑

▲佑介騎手も思わずうなった武史騎手のプロ根性が明らかに (撮影:山中博喜)


横山武史騎手をゲストにお迎えした今回の「with 佑」。第2回は、競馬一家である横山家の親子関係に迫ります。長男の和生騎手と三男の武史騎手が、横山典弘騎手と同じ騎手に道に。騎手の大先輩である父と、真正面から向き合う武史騎手の姿勢。佑介騎手も思わずうなったプロ根性、その深意とは?

(取材・文=不破由妃子)


息子のレースを見守るときの“横山典弘”は…?


佑介 和生や武史が他場で乗っているときのノリさんの様子、人伝に聞いたことある? もうね、めちゃくちゃ応援してるからね。

武史 らしいですね。僕にはまったくそんな様子は見せませんけど。この前、全然人気のない馬でメインレースを勝ったんですよ(6月29日・TVh杯・パラダイスガーデン14番人気1着)。自分では完璧な騎乗だと思ったので、「よっしゃ、今日は父に褒めてもらえるだろう」と思って楽しみにしていたんです。

 で、父から電話が掛かってきたので、真っ先に「どうだった?」って聞いたら、「おう、よかったな。それよりお前さ……」みたいな感じで、ほかのレースのことでめっちゃ怒られて。メインレースについては「よかったな」の一言で終わりました(笑)。

with 佑

▲武史騎手「よっしゃ、今日は父に褒めてもらえる! って楽しみにしていたのに…」 (撮影:山中博喜)


佑介 心のなかではめっちゃ喜んでるだろうけどね。でも、俺はそのノリさんのスタンスはすごくいいと思う。だって、ノリさんから「すごい、すごい」って褒められたら、絶対に調子に乗るだろ?

武史 間違いないです! 僕、勝ったときもそうなんですけど、喜びを隠せないので(笑)。

佑介 ノリさんもそれをわかってるんだよ。でも、検量室ではモニターの前を陣取って、直線で和生や武史がいいところにいると、「行けっ! ほらっ!」みたいな感じで、めっちゃ叫んでるからね。そのときのノリさんは、名手・横山典弘じゃなく、完全にただの親(笑)。

武史 そうやっていつも見てくれていることは、本当にありがたいと思ってます。

佑介 俺から見たら、めちゃくちゃ贅沢なことだからね。あの横山典弘が毎レース見てくれていて、レースが終わったら何気なくアドバイスをくれるなんてさ。家でも競馬の話をするんでしょ?

武史 けっこうしますね。

佑介 競馬を見る目や乗る感覚が必然的に磨かれるよな。最高の環境だよ。

──具体的な騎乗指導もしてくださるんですか?

武史 いや、父は完全に感覚の人なので…。教えてくれるときも、「シューッと行ってシャーッとやって」みたいな(笑)。

佑介 子供に教えるときも、やっぱり擬音系なんだ(笑)。

武史 はい。でも、何を教えようとしてくれているのかはなんとなくわかります。

「自分は自分、親父は親父」というスタンス


佑介 でも、武史がすごいなと思うのは、あれだけすごい父親に教えてもらえる環境にあって、その父親とは違う自分のスタイルを求めていること。

 俺がノリさんの息子だったら、絶対に親父の真似から入ると思うもん。でも、武史のスタンスは「自分は自分、親父は親父」。実際、ノリさんは武史の今の乗り方をあんまりいいとは思ってないんでしょ?

with 佑

▲佑介騎手「俺がノリさんの息子だったら、絶対に親父の真似から入ると思う」 (撮影:山中博喜)


武史 すんごい嫌がってます。僕、基本的には父の言うことを聞いて育ってきたつもりなんです。父に言われた通り、お酒も飲まないし、タバコも吸わないし、ギャンブルも一切やりません。でも、乗り方だけは、絶対に曲げたくない。そこだけは言うことを聞くつもりはないです。

佑介 もうプロだもんな。そもそもノリさんとは体型も違うし。武史のいいところは、フォームが目に見えて変わったことで目立つこともあるけど、勝ち方が鮮やか。

 目に留まる勝ち方ができるっていうのはすごく大事なことで、俺は康太に比べて「そこが足りない」って先輩によく言われてた。とはいえ、そうしようと思ってできることではないからね。華やかな勝ち方ができるっていうのは、やっぱり生まれ持った何かがあるのかなと思う。

──武史さんの変化について、佑介さんは冬の小倉開催の時点で指摘されていましたよね。実際、何をきっかけに、いつごろからフォームの変更に取り組まれていたんですか?

武史 クリスチャン(デムーロ)に憧れていたので、最初はクリスチャンのような追い方を目指したんですけど、できなかったんですよ。僕、体型的に背中が丸いので、どうしても骨盤が入らなくて。

佑介 俺も同じ。骨盤を畳めない。

武史 どちらかというと、佑介さんもそうですよね。逆にものすごく畳めるのが津村先輩で、近くで見ながらチャレンジしてみたんですけど、僕はどうしてもできない。

──それは骨格の問題ですか?

武史 そうだと思いますし、日本人は畳めない人が多いような気がします。そんな経緯があって、僕はクリスチャンの追い方はできそうもないなと思ったときに、トレーナーさんが「じゃあヨーロピアンにチャレンジしてみたら?」って言ってくれたんです。わかりやすくいうと、ライアン・ムーアのような追い方ですね。それで去年の12月に入ったころからやり始めて。

佑介 トレーニングから変えていったんでしょ?

武史 はい。ガラリと変わりました。まずはトレーナーさんがヨーロピアンを研究してくれて、そのメカニズムみたいなものを僕に説明をしながら、それに合ったトレーニングを考えてくれました。

佑介 12月から始めて、今7月でしょ。習得が早いわ(笑)。そこまで違う乗り方をすぐに習得できるっていうのは、やっぱり若さとセンスだよなぁ。

 俺も木馬ならいつもと違う乗り方ができるんだけど、実際の馬に乗ったら、やっぱりいつもの乗り方に戻ってしまう。なのに、今年に入っての武史なんて、「アイツ、またフォーム変わってるわ」と思ったことが何度かあったからね。羨ましいし、純粋にすごいことだと思ってるよ。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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