絶好調の騎手、強力なオーナーと師のコンビが伏兵を勝利へ
同じ良馬場でも含水率によってコンディションにかなりの差があるが、猛暑で乾燥したこの日の新潟ダートは、少なくとも時計の速いダートではなかった。
勝ちタイムの1分51秒3(前半60秒1-上がり51秒2-38秒6)は、レパードSの平均そのものだが、前半1000m通過60秒1は、フェブラリーS、ジャパンCダート2勝、ドバイワールドC2着などダート重賞を6つも制したトランセンド(父ワイルドラッシュ)の勝った2009年に次いで、史上2位のきびしいペース。
最初の1コーナーにさしかかるあたりでは10頭近くが先行を主張する一団の展開。前半3ハロン「34秒6」は史上最速。逆に、上がり3ハロン「38秒6」は史上もっとも時計を要するタフな流れになった。
人気のデルマルーヴル(父パイロ)は、UAEダービー4着、クリソベリル(4戦4勝)の勝ったジャパンDダービー2着など、この世代のダート路線でベスト3に入る力量馬であり、このデルマルーヴルと大激戦を展開した今回のメンバーのレベルは高い。
そのデルマルーヴルは、苦しいインに入りながら実にうまく馬群をさばき、直線一旦は先頭に立って押し切る寸前だった。結果は2着でも評価は少しも下がらない。新潟ダートにしては珍しく完全な追い込み競馬になったのが痛かった。
最初は行く構えを見せたが、激しい先行争いになると察知したハヤヤッコ(父キングカメハメハ)の田辺裕信騎手は、たちまち控えた。ゴチャつく馬群を避けるように1コーナーを回る地点ではもう外に進路を変えている。直前の小倉記念で無理をせずに控え、最後は外を回って追い込んだ川田将雅騎手も冴えわたっているが、田辺騎手もいままさに絶好調。ラジオNIKKEI賞、プロキオンS、アイビスサマーDに続き、このレパードSで重賞レース騎乗機会4連勝となった。毎年のように夏になるとリズムが良くなる田辺騎手は、デビューした2002年、初勝利が8月の新潟ダート1800mだった。
ディープインパクトが死亡し、注目の産駒とともに今週は金子オーナーの所有馬も人気になっていた。それでもハヤヤッコは10番人気。5月の青竜S8着の内容からみて、いきなり重賞では…と思われたが、白毛に生まれたシラユキヒメ(父サンデーサイレンス)から出発する白毛の一族はずっと金子ブランドそのもの。母マシュマロ(父クロフネ)の全姉になるユキチャンはすでに、関東オークスなど交流重賞を3勝しているが、白毛馬のJRA重賞制覇は、父キングカメハメハ産駒のハヤヤッコが史上初めてだった。
史上初の白毛馬によるJRA重賞制覇を達成したハヤヤッコ(撮影:下野雄規)
国枝栄調教師は「さすが金子さん」と、初の白毛馬のJRA重賞制覇を喜んだと伝えられるが、国枝師の初GI制覇は、1999年のスプリンターズSのブラックホーク(金子オーナー)であり、初クラシック制覇(桜花賞)のアパパネも金子オーナーの所有馬。衝撃のピンクカメオもそうだった。金子オーナー=国枝師コンビは最初から強力なのである。
デルマルーヴルがレベルの尺度になる組み合わせであり、実際に崩れていないから、上位馬はみんな賞賛されていい。実際、見どころ十分の内容だった。11番人気で3着に突っ込んだトイガー(父ヘニーヒューズ)は、人気が示すように伏兵の立場だったが、コースロスを避けるように勝負どころから果敢に馬群を縫ってインから進出。コーナーのきつい新潟ダートでは必殺のイン衝き作戦が成功している。デキの良さもあったが、宮崎北斗騎手の好騎乗が大きかった。
この厳しい展開で、初距離(経験1400mまで)ながら、あわやの内容だった5着サトノギャロス(父ヘニーヒューズ)も絶賛に値する。差して初距離の2勝クラスの1400mを勝ったあと、今回は一転、きびしい先行争いをしのいで差のない5着は価値がある。ふつうは穴人気になりすぎのパターンかと思えたが、まったくそうではなかった。
4着ブルベアイリーデ(父キンシャサノキセキ)も中身はある。先行馬崩れの展開が味方したのは確かだが、新潟ダートの4コーナーで一番外に振られる形になってはまず届かない。上がり37秒7は最速だった。ハヤヤッコの後を追うように突っ込みたかったが、ハヤヤッコも伸びるとは限らない10番人気の伏兵なので、それは結果論か。
2番人気のヴァイトブリック(父シンボリクリスエス)は4コーナーまでは手応え十分と映った。4コーナーで馬群の密集したインを嫌って外に出そうとしたが、外の勝ち馬の勢いが良すぎて進路がなくなってしまった。