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【横山武史×藤岡佑介】第3回『アメリカンからヨーロピアンへ 外国人騎手が影響を与えた追い方』

  • 2019年08月07日(水) 18時02分
with 佑

▲アメリカンからヨーロピアンへ、武史騎手のフォームの変化とは (撮影:山中博喜)


横山武史騎手をゲストにお迎えしての「with 佑」。今回は武史騎手のフォームにスポットをあてます。トレーニングからガラリと変えてフォームの改革に取り組んだという武史騎手。アメリカンスタイルからヨーロピアンスタイルへ、そこにはO.マーフィー騎手やD.レーン騎手など、外国人騎手の影響を色濃く受けていると言います。最終目的地は“二刀流”!? フォームの究極の理想形をふたりで語り合います。

(取材・文=不破由妃子)


「武史のようにフォームを変えられた若い子たちはスゴイ」


──トレーニングからガラリと変えてフォームの改革に取り組まれたとのことですが、ヨーロピアンの乗り方というのは、それまでとは具体的にどう違うのですか?

武史 まず、リズムが全然違うんです。それまで鐙を踏んで追っていたものが、ヨーロピアンでは膝支点になるので。例えるなら、右回りに回っている洗濯機の水を左回りにするくらい違います。

佑介 なるほど。そのリズムの違いは大きいよな。

武史 そうなんです。人間の動き自体が逆回転なんですよね。だから、最初は何から変えていけばいいのかわからなくて、とりあえず膝を締めて、(膝から下を)ぶらしてみるかと。

 最初はタイミングに関係なくぶらしていたので、馬の動きとまったく合わなかったんですけど、年明けくらいから徐々にリズムが合ってきた感じですね。

with 佑

▲武史騎手「年明けくらいから徐々にリズムが合ってきて」 (撮影:山中博喜)


──膝支点ということでいえば、佑介さんの追い方も近いのでは?

佑介 いや〜、何とも言えませんね。膝は締めているけど、鐙も踏んでいるので、決して支点ではないですし。武史の場合は鐙じゃないんだもんな。

武史 そうですね。「なんでそんなにぶれるの?」って聞かれるんですけど、膝で押し込んだ結果、勝手に足がぶれるんですよね。

佑介 要するに、押し込んだ衝撃が跳ね返ってくるっていうことだろ?

武史 そうです、そうです。膝を締めた結果、勝手にその下が後ろに跳ね上がるみたいな。

佑介 そういうフォームで追ってくると、馬が動いている感じがするしね。最近の若手は、それに近いフォームの子が増えたよね。最初は(石川)裕紀人くらいしかいなかったけど、そこに武史が出てきて、今は(菅原)明良とか(岩田)望来とかも回転軸としてはヨーロピアン寄りの追い方だし。

 それもいろんなスタイルの外国人ジョッキーが乗りに来たからこそで、そもそも短期免許が設定された本来の目的に沿ってきた感じがして、俺はすごくいいと思う。でも、そういう追い方ができる馬、できない馬がいるでしょ?

武史 そうですね。やりやすい馬、やりにくい馬はいます。具体的に言うと、体が大きくてダイナミックに走る馬はやりやすいんですけど、完歩の小さいピッチ走法の馬は足をぶらせないんですよ。なぜなら、ぶらしたときにはすでに馬の完歩が次の一歩に移ってしまっているので。

佑介 そうだよな。その馬の走りのリズムに対して、人間の動きが遅れてしまう。

武史 おっしゃる通りです。だから、そういう馬の場合はぶらしてません。膝支点は膝支点なんですけど、またちょっと違う乗り方にしています。

──以前、『with 佑』で福永さんが武史さんのフォームに触れ、「オイシン・マーフィーからもいい影響を受けているんじゃないか」とおっしゃっていました。実際、影響を受けたところはありますか?

武史 はい。回転が同じなので、いいお手本にさせてもらっています。あとはウィリアム・ビュイックもそうですし、それこそダミアン・レーンの乗り方なども参考にしています。

佑介 でも、レーンはちょっと独特だよね? ミックス系というか。

武史 あ、そうかもしれません。

佑介 武史もさっき憧れてるって話してたけど、俺も一番いいなと思うのは、やっぱりクリスチャン(デムーロ)なんだよね。自分の体でできるのであれば、クリスチャンのフォームで乗りたい。

 武史が取り組んでいる回転軸とは逆回転なのかなと俺は思っていて、だとしたらあの回転で力を生み出すのはすごく難しいこと。でも、クリスチャンのフォームは、馬の体の動きと連動してすごく大きなアクションになっていく。柔らかさと強さを兼ね備えているというか、体のバネとしなやかさが半端ないよね。ホントに羨ましい。

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▲2018年の阪神JFをダノンファンタジーで制したC.デムーロ騎手 (C)netkeiba.com


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▲「体のバネとしなやかさが半端ない、ホントに羨ましい」と佑介騎手 (撮影:山中博喜)


武史 僕もクリスチャンは本当に化け物だなと思いますね。

佑介 一度でいいから体を貸してほしい(笑)。

武史 ですよね。ホントにクリスチャンの体で馬に乗ってみたい!

──先ほど、クリスチャンのような追い方ができないのは骨格の問題だとおっしゃっていましたが、トレーニングやストレッチなどで徐々に近づけたりはしないんですか?

佑介 難しいと思います。姿勢矯正をしても猫背が治らない人がいるように、骨格の問題ですからね。しかも、僕たちからしたら馬に乗るのは日常生活なので、そこから変えていくのは本当に難しい。だから、武史のようにフォームを変えられた若い子たちはスゴイと思いますよ。今はもうヨーロピアンがしっくりきてるんでしょ?

武史 そうですね。むしろもうアメリカンに戻るのが難しいです。さっきお話したように、右回りの洗濯機の水を左回りにしてしまっているので。スイッチひとつで替えられるものではないですからね。

佑介 でも、武史にはそれができるようになってほしいな。自分でも思わない?

武史 ヨーロピアンとアメリカンをスイッチひとつで切り替えかぁ(苦笑)。

佑介 その乗り方ができる馬とできない馬がいるなら、できる馬のときはそのままヨーロピアンで追って、そうじゃない馬のときは、ちょっと鐙を詰めてピッチで走らせるみたいな。なんかできそうだよ、武史なら。それこそ大谷翔平じゃないけど。

武史 二刀流ですね! 確かに究極の理想形だと思いますけど…。

佑介 ぜひチャレンジしてほしいなぁ。たとえば連勝したとき、1勝目と2勝目で全然フォームが違ったらすごくない? 俺はそういう武史が見てみたいよ。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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