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【騎手の証言、テン乗りと連続騎乗】(第2回) 浜中俊騎手「テン乗りが活きた京都新聞杯、連続騎乗で掴んだダービー」

  • 2019年08月11日(日) 18時02分
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▲ダービージョッキー浜中騎手が考える、テン乗りと連続騎乗 (C)netkeiba.com


ここ数年でジョッキーの起用法に変化が現れ、テン乗りや乗り替わりが当たり前の時代となりました。それと同時に、1頭の馬に一人のジョッキーが乗り続けることが貴重となり、そのコントラストは年々強くなっています。

その是非はともかく、やはりジョッキーたちのレースに対する向き合い方も変わってきているはずです。そこで今回は、テン乗りと連続騎乗のメリットとデメリットをどう捉え、どう戦っているのか、様々な立場・年代の現役ジョッキー4人を含む5人のホースマンに直撃取材を敢行。それぞれの感性とスタンスを通して、今を戦うジョッキーたちのリアルに迫ります。

第2回目の証言者は、この春、ダービージョッキーの称号を手に入れた浜中俊騎手。テン乗りで結果(2着)を出した京都新聞杯からダービー制覇までの戦いを今一度振り返りながら、浜中流のレースとの向き合い方、そして理想と現実の狭間で揺れる正直な胸の内を明かしてくれました。

(取材・文=不破由妃子)


ダービーでは、前走で乗っていてよかったと思うシーンが多々


──ロジャーバローズとのコンビでは、テン乗りだった京都新聞杯(2着)で賞金加算に成功し、二度目の騎乗となったダービーで見事な勝利を飾りました。この2戦には、テン乗りと連続騎乗のそれぞれのメリットがわかりやすく反映されているような気がするのですが、まずは京都新聞杯での“逃げ”という選択について、その過程を教えてください。

浜中 角居先生からはとくに指示はなかったのですが、僕の頭のなかには最初から“逃げ”という選択肢はありました。その根拠となったのは、レース映像を見た印象だったり、調教で乗った感じだったり。

 逃げられるかどうかはスタートにもよるので、好位で競馬をするというプランももちろん頭にはあったのですが、二の脚が思ったよりも速かったので、これならハナに行こうと。何が何でもというより、馬の前向きなリズムを優先して乗った結果、逃げるという形になったというのが感覚としては正解ですね。

──ロジャーバローズにとって、京都新聞杯が初の“逃げ”。それまで逃げたことのない馬を躊躇なく逃がせるというのも、テン乗りのメリットだったりしますか?

浜中 そうですね、テン乗りの場合は先入観がありませんから。ただ、もともと僕は、逃げたことがない馬だから逃げはダメとか、差してくる競馬をしたことがないから後ろからの競馬はダメとか、そのあたりの縛りはまったく持っていないので。自分が跨った感覚とその日の馬の様子で判断することが多いです。

──京都新聞杯の場合、2着までに入ればダービー出走が視野に入る一戦でしたよね。やはり同じテン乗りでも、次につながる一戦なのか、ここ一発だけの騎乗なのかでモチベーションにも違いが出ますか?

浜中 たしかに同じテン乗りであっても、状況によってモチベーションは違いますね。京都新聞杯のケースでは、馬にとっても関係者にとっても一生に一度のダービーという舞台ですし、僕自身もダービーに乗りたいという気持ちが強かったので、「何とか2着までに…」というモチベーションはすごく高かったです。

──ダービー直後にご出演いただいた『with 佑』では、「今回のダービーでいえば、前走で乗っていてよかったと思うシーンが多々ありました」とお話されていましたね。

浜中 はい。京都新聞杯のレースぶりから操縦性が高いことがわかっていたので、難関といわれる1コーナーまでスムーズにスピードに乗せていけましたし、直線でどれだけ頑張ってくれるかも前走で感覚がつかめていたので。

 馬によっては、抜群の手応えで4コーナーまできて、これなら追い出せば差し切れそうだなと思っても、いざ追い出すと思ったより伸びなかったりするんです。もちろん逆のパターンもあったりして、そのあたりはレース映像を見ただけではわからないところでもありますから。

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▲「直線でどれだけ頑張ってくれるかも前走で感覚がつかめていた」と浜中騎手 (撮影:下野雄規)


──なるほど。手応えと実際に使える脚は、必ずしもイコールではないということですね。そのほかに「一度でも乗っておけば…」と思うのは、レースのなかのどんな場面ですか?

浜中 たとえば、「気を抜く面がある」という情報を持っていたとしても、どういう状況でそういった面が出るのかは乗ってみないとわからない。ほかにももっとありますが、テン乗りでは「一度でも乗っていれば、もっとこういう対処ができたな」と思うことのほうが圧倒的に多いです。

 人間もそうですけど、一緒に過ごす時間が多いほうが相手のことを知ることができるじゃないですか。言葉が通じない馬はなおさらで、やはり触れている時間が長いほうがその馬のことをより深く知ることができますからね。

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▲前走で乗っていた経験を活かして掴み取ったダービー (撮影:下野雄規)


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先の確約があって、GIに向かって馬を作っていくことが理想


──そうですよね。では、連続騎乗のデメリットについてはどう感じていらっしゃいますか?

浜中 それはやっぱり固定観念がついてしまうこと。自分のなかで「この馬はこうだから」とイメージが出来上がっていても、実はそうじゃないこともあったり。ほかのジョッキーに乗り替わることで、こんな良さもあったのかと気付くこともあります。

──実際、自分が何度か乗って結果を出せなかった馬が、ほかのジョッキーに乗り替わった途端、ポンと勝ってしまうことも…。

浜中 そんな例はめっちゃありますよ。経緯にもよりますが、それこそ固定観念にとらわれていたな、考えが堅かったな…と反省することも多いです。

 いずれにしても、難しいのは相手が馬という生き物であること。テン乗りにしろ、連続騎乗にしろ、その時々の馬の状況を把握することが一番大事かなと思ってます。

──浜中さんは基本的に感覚派ですものね。

浜中 いえいえ、完全に理論派です(笑)!

──笑っちゃってますけどね(笑)。

浜中 ですね(笑)。当然、僕も作戦は考えますけどね。ものすごく綿密に作戦を立てているジョッキーもいますが、僕はどちらかというとフワッとしたイメージしか持ってないというか、持たないようにしています。

──その時々の感覚をレースに生かすというのも浜中さんの武器なのでは? 考えすぎるのもよくないという話も聞きますし。

浜中 勝つか負けるかはともかく、もっともっといろいろ考えて乗ったほうが、自分がこう乗りたいと思った乗り方から大きく外れることは少なくなるのかなという思いはあります。でも、レースは考えていた通りにならない方が多いですし、性格的にも、そういうタイプじゃないですから。

──そこが浜中さんの良さなのでは? だからこそ磨かれてきた感性もあるでしょうし。

浜中 だといいんですけど。極端にいえば、ほぼ感覚だけを頼りに乗って勝つことも実際にありますからね。ただ、やっぱり理想は、ここまで乗れるという先の確約があって、GIに向かっていろいろ考えながら馬を作っていくこと。達成感が全然違いますから。

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▲「理想は先の確約があって、GIに向かって考えながら馬を作っていくこと」 (C)netkeiba.com


──それはテン乗りでは得られない達成感ですよね。

浜中 はい。次はもう乗れないかも…と思いながら乗るより、馬のことを知ろうという思いが必然的に深まりますし。

──それがジョッキーとして経験値にもなっていく。

浜中 そうですね。ミッキーアイルやミッキークイーンのように、新馬から自分がレースをいろいろ教えていってGIを勝つ。やっぱりそれが一番の醍醐味ですし、自分はさておき、馬のためにはそういう戦い方がいいんじゃないかなと僕は思います。

──とはいえ、現実は一戦一戦が勝負の時代。この時代を勝ち抜いていくうえで、浜中さんが思う一番大事なこととは?

浜中 結果がすべてですから、ある意味シンプルなんです。テン乗りだろうと連続騎乗だろうと結果を出すジョッキーに自分はなりたいし、そういうジョッキーに依頼が集中するのは当然だと思っています。

 ただ、僕がやりたいことと人から求められることは、必ずしも同じではない。結局、一番大事なのは、それを理解したうえで自分がどうしたいかですよね。

──そこには激しい葛藤がありそうですね。

浜中 はい。それはもうずっと悩んでいます。次も乗れる確約はないけど、目標をどこに置くかで乗り方も変わりますから、結局、照準をその競馬に合わせるのか、馬に合せるのかだと思うんですよね。また、その時々の判断が、自分にとっていいのか悪いのか、馬にとっていいのか悪いのか。

 シンプルに結果を求めながらも、ジョッキーでいる限り、そういう葛藤は一生付きまとうんだろうなと思ってます。

(次回は、厩舎との密な連携で調教からの馬作りに励む中堅騎手が登場します)

【騎手の証言、テン乗りと連続騎乗】(第1回) 四位洋文騎手「名手が感じる時代の移り変わり」

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