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第54回札幌2歳ステークス、伏兵が夏を締め括る

  • 2019年09月05日(木) 18時00分

北海道シリーズが閉幕、クラシック候補も現れる


 ついこの前、函館から札幌に開催が変わったばかりのような気がしていたが、6週間はあっという間に過ぎて行く。早くも札幌開催が最終週を迎え、今年の北海道シリーズもこれで終わりである。

 札幌競馬場は日高に住む私たちにとっては最も近い中央の競馬場だが、それでも浦河の私宅からだと片道170キロ。半分強が高速道路でも、ゆっくり走れば3時間近くかかる。

 日帰りも可能だが、できることなら一泊する余裕を持ちたい。しかし、牧場関係者の多くはほぼ日帰りで日高と札幌を往復する。馬がいるからである。

 今年も、8月18日(日)の札幌記念の日が最も凄まじい混雑であった。リニューアルオープンした2014年の札幌記念当日には及ばなかったものの、この日は天候にも恵まれ、前年比で143.7%、実に35419人が入場し、大変なことになっていた。G1馬4頭が揃ったせいでもあるが、この入場人員になると、帰り道もまた長蛇の列で、駐車場まで行きつくのに相当な時間を要した。もちろん車に乗ってからも、渋滞がしばらく続き、札樽道新川インターまで戻るのにかなり時間がかかった。

 さて、8月31日(土)の札幌2歳ステークス当日は、重賞ながらさすがにそれほどの混雑にはならず、15135人の入場人員で済み、これくらいならばひじょうに快適であった。お盆が過ぎ、北国はそろそろ秋風の吹いてくる季節でもある。夏の名残りを惜しみながら、今年も現地観戦に出かけた。

 札幌2歳ステークスは56回目。12頭が出走してきた。このレースには毎年、ホッカイドウ競馬から遠征してくる地方所属馬が注目される。今年は唯一ヨハネスボーイが参戦し、札幌記念の日に行なわれたクローバー賞で、勝ったオータムレッドから4分の3差の2着と好走し、芝も十分にこなせそうな走りだったことから、密かに期待していた。

 昨年はナイママ(クビ差2着)、一昨年はダブルシャープ(クビ、頭差の3着)、その前年は、トラストが優勝している。地方馬であっても、デビュー間もない2歳のこの時期ならば十分中央馬と互角に戦えるのである。

 この日、札幌競馬場は、午前中、一時激しい雨に見舞われ、そのせいで芝コースも4レースから稍重の発表になった。馬場がある程度重くなってくれれば、ヨハネスボーイには有利になりそうな気がしていた。4月デビューで、すでに5戦を消化しており、ここではキャリアが最も豊富だ。展開が向けば、勝ち負けしてくれそうな気がした。

 1番人気はゴルコンダ。ルメール騎乗の前走では、札幌2歳ステークスと同距離の1800m芝未勝利戦をレコード勝ちしていた。ここで本命になるのは当然のことで、単勝1.8倍。2番人気は函館の芝1800m新馬戦を勝ったダーリントンホールで2.8倍。3番人気はサトノゴールドで10.2倍。ヨハネスボーイは7番人気44.4倍の評価であった。

生産地便り

パドックでのブラックホール

生産地便り

パドックでのヨハネスボーイ

 定刻にスタートが切られ、各馬が一斉に目の前を通過して行く。コスモインペリアルが先行し、アールクインダムが続く。馬群の中でヨハネスボーイがややかかり気味にレースを進めて行く。人気のゴルコンダは後方につけ、機を窺う。サトノゴールドはその後ろにいる。

生産地便り

道中ややかかり気味にレースを進めるヨハネスボーイ

 しかし、4コーナーを回ってから、馬群を抜け出したのはブラックホールであった。そして、最後尾の位置から直線で一気に差を詰め追い込んできたのがサトノゴールド。何と終わってみれば、ゴールドシップ産駒のワンツーという結果であった。

生産地便り

馬群を鮮やかに抜け出したブラックホール

生産地便り

伏兵での快勝にガッツポーズを見せる石川裕紀人騎手とブラックホール

 また、注目していたヨハネスボーイは、直線でゴルコンダを差し返し、5着。ただ3着ダーリントンホールからはハナ、頭差と僅差まで迫っただけに、大負けしたわけではない。7番人気の評価を考えれば、むしろ健闘したと言って良い。

 恥ずかしながら、ブラックホールは、ほぼノーマークであった。しかし、メンバー中、最軽量の418キロながら、素晴らしい勝負根性を見せてくれた。鞍上は石川裕紀人騎手。

生産地便り

ブラックホールの口取り写真

 ゴールドシップ産駒は、周知の通り今年デビューで、今回は勝ち上がっている2頭がここに出走してきて、見事にワンツーを決めてくれた。函館2歳ステークスのビアンフェ(父キズナ)と同様に、こうして新種牡馬の産駒がさっそく重賞勝ちを収めてくれると、競馬ファンとしては大いに盛り上がる。

 ブラックホールは、父ゴールドシップ、母ヴィーヴァブーケ(母の父キングカメハメハ)という血統の牡黒鹿毛馬。通算成績は3戦2勝2着1回。美浦・相澤厩舎の管理馬で、馬主は芹澤精一氏。生産は浦河・(有)杵臼牧場。育成は(株)吉澤ステーブル。なお、杵臼牧場の生産馬は、この日大活躍で、札幌9レース3歳以上1勝クラスのダート戦でもペプチドバンブー(父ロードカナロア)が勝利を収めただけではなく、小倉でも8レース3歳1勝クラスのダート戦でノボリレーヴ(父ロードカナロア)が優勝している。同日午後のわずかの間に続けて3つ勝つというのは、たとえ中規模の名門牧場であってもなかなかないことだ。ツキがあれば、こういう幸運が舞い込むのもまた競馬の不思議な部分である。

 ともあれ、これでブラックホールは来年のクラシック戦線に名乗りを上げたことになる。

 こうして様々な種牡馬が活躍馬を送り出してくれると、競馬は大いに盛り上がる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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