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【京成杯AH回顧】ベテラン横山典弘騎手&トロワゼトワル 痛快なレコード独走勝利

  • 2019年09月09日(月) 18時00分

ただの猛ペースではなく、馬のリズムに乗せた好騎乗


 例年以上の芝コンディションの良さを察し、また、ほかに先手を主張する人馬のいない展開を読み切った、ベテラン横山典弘騎手(51)=トロワゼトワル(父ロードカナロア)の痛快なレコード独走だった。

 スタートして100mも行かないうちにハナに立ったトロワゼトワルの刻んだラップは、2ハロン目から「10秒6-10秒4-10秒9」。これを含め、前後半バランス「44秒2-46秒1」=1分30秒3。前半から快速ラップを踏みながら、後半の800mも46秒1の高速スピードでまとめたから、ただ猛ペースで飛ばしての結果ではない。横山典弘騎手と、4歳牝馬トロワゼトワルのリズムに乗っての快走だった。1分30秒3は、今春のヴィクトリアマイルの1分30秒5(ノームコア)を更新するJRAレコード。

重賞レース回顧

横山典弘騎手とトロワゼトワルのリズムに乗っての快走だった(撮影:下野雄規)


 横山典弘騎手は、京成杯AH勝利最多タイの5勝目。前回勝った2012年のレオアクティブ(父アドマイヤムーン)の1分30秒7も当時のJRAレコードなら、ゼンノエルシド(父Caerleon)で勝った2001年の京成杯AHの1分31秒5も当時のJRAレコードだった。最近では牝馬ミスパンテールのターコイズS2連勝(ともに5番人気)など、大変な中山マイル巧者が横山典弘騎手なのである。

 前半1000m通過は55秒4。「1200m通過は1分06秒8。1400mは1分18秒3」。直前の「セントウルS」で阪神1200mのコースレコードが、3馬身差独走の4歳牡馬タワーオブロンドン(父Raven's Pass)により、1分06秒7にまで大幅に更新された。

 トロワゼトワル(横山典弘)の1200m通過は、それとわずか「0秒1」差。芝1400mのJRAの最高記録は1分19秒0(新潟のマグナーテン。タイ記録はウリウリの京都外回り)なので、トロワゼトワルの時計はマイルの通過記録でありながら、これを0秒7も上回る大変な快時計になる。

 中山芝1200mの現在のコースレコードは1分06秒7(12年スプリンターズSのロードカナロア)。1分06秒7で快走したタワーオブロンドンは、少々日程がきつくなり(8月25日→9月8日→9月29日)、レコード快走のあとなので多少の心配はあるが、中山の芝コンディションが例年以上に走りやすい高速コンディションなのは、「スプリンターズS」の展望に非常に有利な要素だろう。

 入念なエアレーション作業で、この秋の中山はそんなには時計の速い馬場ではないと思われたが、予測をはるかに上回る快時計が続出した。1勝クラスの芝1200mが1分07秒2。横山典弘騎手の騎乗した前日の2勝クラスの1600mは1分32秒1だった。

 横山騎手だけでなく、ほかの騎手からも「芝が硬い」という声はなく、走りやすいコンディションとされる。芝の整備技術の進展はすばらしい。秋の阪神でもレコードが飛び出した。春の東京も快時計続出だった。ただ、速いタイム自体は馬に負担にならないとする説はあるものの、オークスは破格のレコード2分22秒8(ラヴズオンリーユー、秋華賞回避)。日本ダービーも快レコードの2分22秒6(ロジャーバローズ、脚部難引退)。ヴィクトリアマイルはJRAレコードの1分30秒5(ノームコア、剥離骨折)。

 また、これまでの再三の経緯からすると、これで他場の馬場造園課の目の色が変わる心配がある。担当者は異なる。われわれの場もさらに走りやすい芝コンディション(当然、速いタイムの計測される馬場)にしようではないか…と。コースの多様性が一段と乏しくなる危険が生じる。

 3馬身半も離された2着とはいえ、1分30秒9で乗り切ったディメンシオン(父ディープインパクト)は、久しぶりの中山とあってパドックからチャカついてうるさかった。それでも積極的に前につけ、自身の最高タイムを大幅に更新してみせた。関屋記念は4着とはいえ、0秒1差。夏からの好調子をフルに生かし切った。

 ジャンダルム(父Kitten's Joy)の3着(10番人気)も、1分31秒0で4着(15番人気)した6歳カルヴァリオ(父マツリダゴッホ)も、内の好枠をフルに生かす積極策が好結果に結び着いた。近年は開幕当初にインにこだわる馬はあまり結果が出ない傾向があった。今年は馬場の軟らかさを保つため、バーチドレイン、シャタリングなどのエアレーション作業の時期を遅くしたから、一段とイン有利にならないはずだったが、近年になく高速で、明らかにイン有利となっている。芝は予測とは逆に、気分良く根を張ったのかもしれない。

 クリノガウディー(父スクリーンヒーロー)は、気分良く行き過ぎると結果が思わしくないので、中位に下げたのは予定通りだったろう。ただ、残念ながら勝負どころで前が詰まって動けなかった。プロディガルサン(父ディープインパクト)もある程度下げて進むのは予定通りだったと思える。だが、行かなければ…と読んだグループが1-4着を独占し、なおかつこの快時計1分30秒3では、差しタイプには仕方がない結果だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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