スマートフォン版へ

初の共催で行われた「BTC体験入学会」

  • 2019年09月12日(木) 18時00分

背景にある人材不足の打開策となり得るか


 先月27日、例年夏休みを利用して実施されるBTC体験入学会を見学してきた。今年は静内にあるJBBA(日本軽種馬協会)の「生産育成技術者研修」との共催で、16名の若者が全国各地より参加した。男女比は7対9で、やや女子の方が多い。

 年齢層は下が14歳の中学校2年生から、上は20歳の大学生まで幅広いが、いずれも、今秋もしくは数年後に、BTC(育成調教技術者養成研修)か、JBBAの受験を検討している若者たちである。

 BTCもJBBAも、似たような名称の人材養成をそれぞれ長らく続けてきたが、従来は体験入学会も全く別個に実施しており、両者はほぼ交流のない状態であった。

 そもそも一口に「人材養成」とは言っても、目的や研修内容がやや異なる。BTCが、騎乗技術を重視した「育成現場での即戦力」を目指しているのに対し、JBBAの方は生産現場も視野に入れた、より幅広い知識、技術の習得に主眼を置く。

 こうした違いから、以前はこの二つの人材養成研修制度は、それぞれ独自に研修生を募集してきた。しかし、近年、応募者数がかなり減少してきていることから、このほど体験入学会共催に踏み切ったのだという。

 受験を検討している若者からすれば、一度で両方の体験入学が可能となり、より効率的である。本州からの参加者が少なくないので、費用の面からもこれはもっと早く実現させるべきであったと思う。

 体験入学会は、今春入所している先輩たちの研修風景を見学することと、乗馬シミュレーターや本物の乗馬を体験したり、夜は先輩たちとの交流を通じて生の声を聞き、自身の進路を決める際の参考にすること、などが主たる内容だ。

生産地便り

乗馬シミュレーター体験の様子

 単なる見学だけではなく、実際に体験してみることで、徐々に理解も深まる。BTCでは、乗馬シミュレーター体験の時間を間近で見せて頂いたが、交代で3基のシミュレーターに乗り、馬上での動きを体感するうちに参加者の表情が豊かになってくるのが分かった。

 体験入学会は3泊4日の日程で、BTCとJBBAの両方を訪れる。そのために今回は旅行会社が添乗員をつけてのツアーであった。

 こうして少しでも多くの応募者を確保するために、敢えて共催という形になったわけだが、その背景には、依然として生産地の育成現場では人材不足の深刻さがある。騎乗者を確保するためにBTC周辺の育成牧場の多くがインド人を雇用しており、年々その数が増えつつある。インド人のみならず、最近では南米(ベネズエラ)からも騎乗者がやってきている。育成現場では、もちろんできることなら日本人の有為な若者を雇用したいわけだが、絶対数が極端に足りないことと、とりわけ中小の育成牧場が敬遠される傾向にあり、求人を出しても応募者が集まらないという現状がある。

 育成現場のみならず、その前段階の生産牧場においても、人材不足は深刻で、経営者の高齢化と後継者難により、牧場軒数は減少の一途である。我が国のサラブレッドの主要生産地である日高地方がこんな状況では、将来的には競馬の施行そのものにも影響しかねない。すでに地方競馬の厩舎では、生産地同様に人材不足が急速に進行しつつある、とも言われており、どんな形であれ、この業界に前途ある若者を呼び込むことが急務になっている。

 昨今は、労働人口の減少により、就職最前線は空前の「売り手市場」だそうである。わざわざ敢えて3Kの代表のような馬業界に飛び込んで来なくとも、収入を得る道は他にいくらでもある。だが、馬が好き、競馬が好き、という若者はいつの時代でも一定数いるはずで、そんな若者たちに、この業界に参入する「窓口」を提供してあげることがまず必要であろう。

 今回の16名の体験入学者のうち、女子が男子を上回っていた点からも、あるいは今後は女子の就労により期待が持てるかも知れない。

 参考までに記しておくが、今春入手したBTC育成調教技術者養成研修第37期生は16名いたものの、9月の今の段階で、すでに半分が退所しており、8名を残すのみである。男子は10名が入り、8名が退所したのに対し、女子は6名が入所し全員が残る。

 このことからも、女子の方が覚悟と気構えを持って入所して来ているように思えてくる。
生産地便り

体験入学会に参加した16名の記念写真

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング