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産業界の実情を反映する形となった「キーンランド9月イヤリングセール」

  • 2019年09月25日(水) 12時00分

1歳市場の好景気から一転、来年以降の景気を懸念する結果に


 13日間に及んだ「キーンランド9月イヤリングセール」が、22日のセッションをもって終了した。

 総売り上げは前年比で4.5%ダウンの3憶6千万ドル、平均価格は前年比2.5%ダウンの12万6096ドル、中間価格は前年比10%ダウンの4万5千ドル、前年23.7%だったバイバックレートが今年は24.2%と、主要な指標が全て前年割れする結果となった。

 今季ここまで各国で開催されてきた主要な1歳市場の結果をあらためて振り返ると、7月上旬に行なわれた「JRHAセレクトセール1歳部門」が、総売り上げ、平均価格とも歴代最高を記録した一方、主取り率は過去最低をマーク、8月上旬にニューヨーク州のサラトガで開催された「ファシグティプトン・サラトガ8月1歳市場」でも、平均価格、中間価格がいずれもセールとしてのニューレコードを樹立。そして8月中旬にフランスで開催されたアルカナ・ドーヴィル8月1歳セールでも、総売り上げ、平均価格、中間価格がすべてセールの歴代最高を記録と、いずこも好景気に沸いてきたことを鑑みると、順調に走ってきた車に突如ブレーキがかかったように見える。

 だが、昨今の一般景気を考えると、これまでのマーケットがむしろ異常で、キーンランド9月の市況が、産業界の実情を反映したものと言えそうだ。

 昨年とフォーマットが変わったので、単純な比較はできないのだが、いわゆるセレクトセッションであるブック1が終わった段階で、昨年は平均価格が36万3780ドル、中間価格が30万ドルだったのに対し、今年は平均価格が47万1950ドル、中間価格が35万5千ドルだったから、高い方の価格帯は今年のマーケットも非常に強かったのである。すなわち、トップエンドのマーケットは一般景気の動向に左右されないプレイヤーたちによって支えられているという、今年これまで各地で開催されてきた市場と同様の展開を見せていたわけだ。

 ただし、逆に言えば、中間以下の価格帯では、冒頭で紹介した市況以上にシビアな数字が残されたのである。今年の総売り上げはキーンランド9月セールとしては歴代で5番目で、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融危機の時代に、競走馬マーケットも大幅に縮小した頃と比べれば、現状はさほど悪いものではないとの見方もあるが、一方で、北米では来年以降の一般景気を大いに懸念する声も高まっており、馬産業界も安閑としてはいられない時代を迎える可能性もあると言えよう。

 前述したようにトップエンドの取引は活発で、ブック1の最終日には、父アメリカンフェイロー・母レスリーズレディーの牝馬が、このセールで牝馬に投じられた金額としては歴代最高となる820万ドル(約8憶9100万円)で購買されている。チャンピオン牝馬のビホールダー、G1勝ち馬メンデルスゾーン、G1勝ち馬にして名種牡馬のイントゥミスチフらの半妹にあたる馬で、ウィスパーヒル・ファームのマンディ・ポープ氏が購買。アンダービダーはシェイク・モハメドのゴドルフィンだった。

 そのゴドルフィンは、最高価格馬こそ逃したものの、総額で1600万ドルを投じて10頭の1歳馬を仕入れ、トップバイヤーとなっている。

 ブック1における日本人とみられる購買は25頭が確認されている。4日間開催だった前年のブック1における購買が31頭だったので、3日間開催だった今年の25頭という数字は、まずまず旺盛な購買意欲を見せた結果と言えそうだ。

 日本人によると見られる購買馬で最も高かったのは、150万ドルで購買された父タピットの牡馬。母がG1BCレディースクラシック勝ち馬アンブライドルドベルで、全姉にG1ビホールダーマイルなど3つのG1を制してエクリプス賞を受賞したユニークベラがいるという超良血馬である。

 これに次ぐ高馬が、71万ドルで購買された父ガリレオの牝馬。母タービュラントデイセントは、G1テストSなど4つのG1を制した活躍馬で、将来の繁殖牝馬としての価値も非常に高い1頭である。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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