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競馬ファンにも名の知れたローカル線「日高線」が廃止へ

  • 2019年09月25日(水) 18時00分

今後も続くことが予想される存廃問題


 4年8ヶ月に及ぶ運休が続くJR日高線について、沿線7町の町長による臨時町長会議が24日、新ひだか町公民館にて非公開で開催された。

 日高線は1937年(昭和12年)、苫小牧〜様似まで全線開通し、長らく地域住民の足として、また物流の主役として日高地方の経済を支えてきた。総延長は146キロ。単線で全線非電化のため、かつては蒸気機関車が走り、その後、ディーゼルカー(気動車)による運行が続いてきた。

 典型的な赤字ローカル線とはいえ、牧場地帯を走る日本で唯一の鉄路として、競馬ファンのみならず、鉄道ファンの間にも知られた個性的な路線であった。

 私事ながら、10年前、某大手全国紙より「日高線の列車と、馬、海岸を一枚に収めた写真が欲しい」と友人を介して依頼を受けたことがある。当該紙の日曜版に大きく取り上げたい、とのことだったので、かなりの時間を割いてロケハンし、新ひだか町東静内の国道脇でカメラを構え、列車の通過する時刻に合わせてシャッターを切った。

生産地便り

依頼を受けてシャッターを切った日高線の列車と、馬、海岸を一枚に収めた写真

 しかし、この写真は「没」になった。理由は「馬が小さいから」というものであった。担当者と再度やりとりを重ね、この際、海は犠牲にして、馬と日高線の列車の組み合わせでも良いので、もう一度撮ってもらいたいと頼まれ、別の場所で撮影して送った。費用対効果で考えると、とんでもなく非効率な仕事になったが、やむを得なかった。

 このように、被写体としての日高線は、ひじょうに魅力ある対象ではあったが、私自身、今となってしまえば、最後に乗ったのがいつのことだったか、にわかには思い出せないほど長らく利用したことがない。交通手段が鉄路から自動車に代わったために、年々利用客が減少の一途をたどり、近年、日高線を日常的に利用するのは、通学する高校生と一部の勤労者程度になっていた。

 それでも、赤字ながら辛うじて運行できているうちはまだ良かった。いずれ存廃問題が浮上してくることは避けられないにしても、何とか打つ手もあったはずだが、2015年〜2016年にかけて、発達した低気圧による高波や台風被害などにより、数度にわたり致命的ともいえる被害を受け、復旧させるに86億円という膨大な費用が必要になることが明らかになった。

 被害個所は手つかずのまま放置され、列車は現在、苫小牧〜鵡川間で運行しているのみ。日高線とは言いながら実質、日高管内から鉄道の姿は消えてしまっている。

生産地便り

高波被害を受けた日高線、橋げただけが無残に残る(撮影日:2016年9月)

 報道によれば、沿線7町長による町長会議では、浦河町長が「全線開通」案、日高町長が「鵡川〜日高門別間の鉄路復旧と残り区間のバス転換」案を主張したものの、他の5町長はすでに白旗ムードで「全線バス転換」案に固まっているとのこと。次回来月に再度開催予定の7町長会議で、多数決により、正式に「日高線廃止、全線バス転換」が決定する見通しという。

 現在も、列車代行バスが、各JR駅を回り、利用客のニーズに応えてはいる。しかし、線路ではなく、国道や道道、町道などを複雑なルートで巡回するため、所用時間がかかり、利用客は少ない。また遠出をする利用客は、もっぱら長距離バス(日高各町〜札幌、千歳などに直行する便)に乗る。夜間、ほとんど乗客の乗っていない列車代行バスを見かける度に、何とも複雑な思いを味わう。

 ともあれ、日高線の存廃を巡っては賛否両論あり、この4年8ヶ月の間にも、それぞれ様々な意見が出されてきた。存続派の代表は前述の通り、浦河町の池田啓町長で、「多数決はなじまない」と町長会議の方針そのものに不満を漏らしている、とも伝えられる。

 また、日高町の大鷹千秋町長は「鵡川〜日高門別間の部分開通、他はバス転換」を主張しており、これは一見現実的な解決策として一考に値するとは思うが、おそらく新冠以東の各町長には受け入れ難い案であろう。「自分の町まで開通すればそれで解決なのか」というような不信感さえ生まれかねない。

 ところで、対面交通ながら、日高自動車道は、現在、日高町厚賀まで延伸してきており、新冠まで伸ばすべく、盛んに工事が行なわれている。現在のところ浦河〜苫小牧間120キロのうち、ちょうど半分が高速化したことになるが、これに関しても、新ひだか町以東の住民と、新冠町以西の住民とでは、受け止め方がかなり異なる。新冠町の友人などは「我が家から約10分程度で厚賀インターまで行ける。これでずいぶん便利になった。今後のことは半分どうでも良い、というのが本音」と口にする。「だって、苫小牧や千歳、札幌方面に出かける機会の方が圧倒的に多いので、浦河方面にはあまり目が向かない」と言われてしまうと、こちらとしては口をつぐむしかない。

 日高線沿線7町長は、それぞれ意見も立場も異なり、いくら議論を重ねても統一見解を導き出すのは不可能であろう。来月の町長会議では日高線廃止を正式決定することになるだろうが、廃止=全線バス転換になるとしても、多分に同床異夢、各町の事情が異なり、しばらくの間、紆余曲折が予想される。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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