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【スプリンターズS】パワーアップした今なら、再びマイル路線の公算大か

  • 2019年09月30日(月) 18時00分

巧みだったルメール騎手の手腕


 1990年からGIになったスプリンターズSは、昨年まで「1分07秒3」以内のタイムで決着したこと計5回。サクラバクシンオーの1994年が「1、5」番人気、トロットスターの2001年が「4、3」番人気、サイレントウィットネスの2005年が「1、2」番人気、ロードカナロアの2012年と2013年が「2、1」「1、2」番人気。今回が6回目で「2、3」番人気の結果だった。

 他のGIと少々異なり、スプリンターズSの勝ち時計予測はレベルが高い年ほど容易と考えられている。今年は、多くのファンが「1分07秒0」前後ではないかと予測し、対戦成績などから、1分07秒0前後で乗り切れる可能性の高い馬(可能性を持つ馬が)上位人気に支持され、結果はストレートに少差で「2、3、1」番人気の入線。勝ちタイムは予測通りの1分07秒1(32秒8-34秒3)だった。

 他の距離では、こういう少々乱暴(短絡)なアプローチは不可能で、意味がない。菊花賞3000mの予測タイムなど道中のペースにより3秒も、4秒も差が生じる。良馬場で今年のようなレベルのスプリントGIは紛れの生じる要素は非常に少なかったということであり、1分07秒5くらいがスピード能力の限界と思われた伏兵にはつらいレースとなった。

重賞レース回顧

外に進路をとり、逃げ込みを図るモズスーパーフレアを捕らえ快勝したタワーオブロンドン(撮影:下野雄規)


 快勝したタワーオブロンドン(父Raven's Pass)のC.ルメール騎手は巧みだった。前半3ハロン通過のちょっと前。中団につけた自分の右横(イン)に、最大の強敵ダノンスマッシュ(父ロードカナロア)=川田騎手がいる。前には馬群がある。ほんの少しだけ引くように控えると、外に進路を取った。モズスーパーフレア(父Speightstown)を追走してバテて下がってくる馬に進路を塞がれることがないように…。

 ダノンスマッシュの川田騎手も同じタイミングで、同じことを考えたが、内枠2番の不利は大きい。タワーオブロンドンと同じように内を避けることができたのは、4コーナー手前になってからだった。タワーオブロンドンはレコードで圧勝した阪神のセントウルSでは、4コーナーで外に出すまで馬群をさばくのにちょっと苦心した。外に回れば確実に爆発する。中山の4コーナーでは必要以上に外を回らない限り、コースロスはなく、ブレーキを踏む必要がない。あとは逃げ込みを図るモズスーパーフレアを捕らえるだけだった。

 タワーオブロンドン自身のバランスは「33秒6-33秒5」=1分07秒1。セントウルSが「33秒5-33秒2」=1分06秒7。レース後、喜色満面の藤沢和雄調教師は、「(ルメールに)1600mくらいまで持たせろ、と言います」とコメントしたとされるが、【1-1-1-2】のマイルには2回も1分32秒台があり、パワーアップした今なら、1600mも十分に守備範囲だろう。

 父Raven's Pass(その父Elusive Quality)は、スプリンターではなく、2008年の英クイーンエリザベスIIS(芝8FのGI)を制し、BCクラシック(AW10F)を1分59秒27のレコードで勝っている。母の父Dalakhani(その父Darshaan)は2003年の凱旋門賞馬。日本でも多くの活躍馬を送るDoff the Derbyのファミリーは、もともと短距離系の一族ではない。オーバーホールのあとは再びマイル路線の公算大か。

 最終的に1番人気になったダノンスマッシュは、ここまで1200m【4-1-0-1】ながら、高速馬場の経験が少なく、自身の前半3F最高は33秒5(16頭中10位タイ)。ダッシュもう一歩のため、最高タイム1分07秒5にとどまっていた小さな死角が、内枠を引いたためモロに出てしまった。もちろん力負けではなく、最後は猛然と伸びて1分07秒2(33秒5-33秒7)で乗り切った。

 全体時計は期待通りに短縮したが、デュランダルやレッドファルクスのような追い込み型ではないので、もう少しテンのダッシュ力が欲しい。このスプリンターズSを2連勝した父ロードカナロアの中身は「33秒3-33秒4」=1分06秒7と、「33秒4-33秒8」=1分07秒2。ごくわずかではあるが、父よりスプリント能力はまだ見劣る。

 そのダノンスマッシュの追撃を辛くもしのいだのが2着モズスーパーフレア。今回の中身は「32秒8-34秒4」=1分07秒2。自身が先手を奪っての前半32秒台は今回が4回目で、その成績【3-1-0-0】。勝ち馬には完敗だったが、これで中山の1200mを4回も高速の「1分07秒0〜07秒2」で走破したことになった。普通の年なら快勝に相当する。

 現時点では、少々きつくとも飛ばさないことには他馬の目標になってしまう単調な脚質からの脱出を、後半の粘り腰強化に求めるのか、前半3ハロン「最高32秒3」の出足にさらに磨きをかけるのか、陣営の感じた「まだまだ物足りないカベ」突破は容易ではない印象を残した。ただし、猛然と行って快走する馬こそ、ロードカナロアを育てたハクサンムーンと同じで、全体のレベルアップに欠かせない存在なのは間違いない。

 課題を残した右回りで好走した4着ミスターメロディ(父Scat Daddy)は、やはり今回も手前がスムーズに変えられなかったためか、ふらつくシーンがあった。それでも1分07秒4。いくらも負けていないだけに、これは残念だった。4歳馬ながらまだキャリアは浅く、やがて矯正できるだろう。高松宮記念馬らしい能力は示した。

 自己最高の記録とわずか0秒1差の1分07秒5で乗り切った7歳牝馬レッツゴードンキ(父キングカメハメハ)の5着は、着順以上にすばらしい内容だった。JRA以外を含めたGI格出走21回目【1-5-0-15】。これが10回目の掲示板確保となった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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