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切に願うことは必ず遂ぐるなり

  • 2019年10月05日(土) 12時00分

秋シーズンのこれからは、いよいよ晩成タイプの出番


「切に願うことは必ず遂ぐるなり」、この言葉は行き詰まった時に力を与えてくれた。思い通りにならないのが世の常、だからこそ智慧と勇気が生まれるのであって、平穏な日常からはそれは出にくい。あきらめず精進し続けると言えば立派だが、そこまでは行かなくとも、とにかく思うことはやり続けたい。

 この長く続けることはくり返すことで、ここには大きな安心もある。切に願うことをくり返す、その姿を競馬に見つけることでこの大きな安心を得ているのではないか。

 競走馬にも早熟と晩成の馬がいる。早くから才能を発揮するタイプと、表舞台に立つのに時間のかかるタイプ、どちらもくり返し見続けてきた。秋シーズンのこれからは、いよいよ晩成タイプの出番でもある。毎日王冠、京都大賞典の出走馬の中に、そうした馬を見つけるのは楽しい。思った馬に自分をダブらせ応援する、競馬の醍醐味がそこにある。

 当然この前哨戦で勝つことに意味があるように思えるが、実は必らずしもそうではない。顕著な例としてゼンノロブロイがいた。

 皐月賞には間に合わず、青葉賞で勝った時に注目したのが、ダービーではネオユニヴァースに敗れて2着に終っていた。その後、菊花賞が4着、有馬記念3着と3歳時は大きなレースは詰めの甘さを露呈して勝てず、4歳の春も、天皇賞がイングランディーレに逃げ切られて2着、宝塚記念がタップダンスシチーの4着と負け続け、陽の目を見たのはその秋だった。

 それでも休み明けの京都大賞典は2着と惜敗していて、その後、天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念と3連勝し、この年の年度代表馬に選出されたのだった。

 あきらめずに精進し続け、「切に願うことは必ず遂ぐるなり」を立証してみせたと、この快挙を受け止めたのだった。

 かつて秋の天皇賞が30年ぶりに外国産馬に開放され、出走枠2頭をめぐってその動向に注目が集まる中、毎日王冠で11頭のうち7頭を外国産馬が占めたことがあった。そこでこれらを圧倒して勝ったのがトゥナンテで、以前に毎日王冠、秋の天皇賞を楽勝した名馬サクラユタカオーの産駒だった。

 愛知杯、北九州記念を連勝してここにのぞんでいたが、前年のエプソムCで10着と完敗していて、22戦目にして2度目の東京コースをどう克服するかが最大のテーマだった。体を絞って瞬発力に磨きをかけ、タフな東京コースに対応できるスタミナをつける強めの調教をこなし、これが功を奏していたのだったが、レース史上初の父子制覇を成し遂げ、続く天皇賞でも3着と健闘してみせた。

 あきらめず精進し続けて成果を上げた例として記憶している。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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