スマートフォン版へ

【毎日王冠】3歳エース級がみせた着差以上の完勝劇

  • 2019年10月07日(月) 18時00分

春の2冠で連対記録をもつ3歳馬が勝利したのは史上初


 スタートで出負けの瞬間、大きなどよめきが起こったが、最後の直線の歓声はダノンキングリー(父ディープインパクト)が抜け出した場面より、アエロリット(父クロフネ)と、インディチャンプ(父ステイゴールド)が並んだ2着争いの地点の方が大きかった気がする。最初に思わぬシーンはあったものの、3歳ダノンキングリーの期待以上の快勝だった。

 3歳馬が毎日王冠を制したのは、遠い時代は別に過去30年間では「3頭目」。

 また、春の2冠「皐月賞、日本ダービー」で連対記録をもつ3歳のエース級が勝ったのは、これが史上初のことだった。毎日王冠はあまり多頭数ではなく、だいたい人気上位馬同士の組み合わせが多いが、「1、2、3」番人気の3頭が、その通りに「1→2→3」着したのも史上初めてのことになる(4着も人気順通り)。

 出遅れは予想外だったはずだが、デビュー戦からずっとコンビを組みこれで【4-1-1-0】の戸崎圭太騎手は、位置を取りに出る場面もなく、ダノンキングリーの能力を全面的に信じるレース運びだった。4コーナーでライバルを射程に入れると、残り400mを過ぎたあたりでエンジン全開をうながす合図のムチを3回入れたが、インディチャンプ、アエロリットを交わせる手ごたえを確信したあとは、ノーステッキ。ただ1頭だけ上がり33秒4。着差以上の完勝だった。

重賞レース回顧

出遅れたが、終わってみれば着差以上の完勝をみせたダノンキングリー(撮影:下野雄規)


 陣営(オーナー、調教師)はすでに確認済みだったのだろう、この後のダノンキングリーは天皇賞(秋)2000mではなく、京都のマイルチャンピオンS1600mを予定することが発表された。天皇賞(秋)に挑戦するのは、同じオーナーの4歳馬ダノンプレミアム(父ディープインパクト)になる予定。

 3歳ダノンキングリーは、1600-1800m【4-0-0-0】。今春の共同通信杯で、のちのNHKマイルCを1分32秒4で快勝したアドマイヤマーズを完封している。どちらかといえばスピード色の濃い牝系でもある。初の関西遠征など小さな死角はあっても、まだキャリア6戦でもあり、天皇賞(秋)2000mよりマイルGIの方が可能性は高いとする展望になる。3歳以上の2000mとなった1987年以降の天皇賞(秋)の3歳馬は【2-5-3-23】。同期間のマイルチャンピオンSは【5-5-9-94】。率は別の観点(みんな合わせてのこと)であり、明らかに勝ち馬が多いのはマイルチャンピオンS。

 一旦はインディチャンプ(父ステイゴールド)に出られたが、差し返して2着の5歳牝馬アエロリットはさすがの底力としぶとさをみせた。海外遠征帰りで気合を欠いていたため、気迫注入のために飛ばした5月のヴィクトリアマイルと違い、同じ休み明けでも今回は闘志満々だった。

 決してムキになって逃げたのではなく、「47秒0-(11秒5)-46秒1)=1分44秒6。快勝した昨年は「47秒3-(11秒7)-45秒5」=1分44秒5。

 負けはしたが、むしろ今年の方が全体のバランスは優れている。テン乗りの津村明秀騎手、見事なマイペースだった。2000mは重馬場の秋華賞の7着だけだが、自分でレースを作った東京1800mは2回ともに「1分44秒5-6」。急にバテたりする馬ではない。

 ハイペースのマイルの記録もすばらしいが、平均バランスの1800mの内容のほうがさらに秀逸。相手の出方にもよるが、東京2000mなら「1分57秒台」は十分に可能ではないか、そんな展望を強みに、アエロリットは天皇賞(秋)を予定する。

 3着インディチャンプは、楽に映る手ごたえでアエロリットを交わし、(外のダノンキングリーの脚は光ってはいたが)、勝ち負けに持ち込めるかと見えたシーンもあった。そこからの失速は、休み明けで良く見えすぎた476kg(自己最高)の馬体が、心もち余裕残りだったことと、ステイゴールド産駒にしてはやけにコロンと詰まった印象を与えたあたり、一段とマイラー色が前面に出てきたためか。この後さらにパンチを増すはずだが、実績通り1600mがベストだろう。

 モズアスコット(父Frankel)は太くは映らなかったが、昨年の安田記念(連闘)を差し切った時のような気迫もう一歩だった。連敗を始めた際のFrankel産駒の評価は難しいが、マイルで変身したい。少なくとも今回は完調での6着ではない。

 5着ランフォザローゼス(父キングカメハメハ)は、期待(人気)を裏切るレースが続いたが、今回は集中して坂上から伸び、上がり34秒2はメンバー中で3位だった。気力が出てきたのは大きい。これならこれから確実に成長する。

サウジアラビアRC


 勝ったサリオス(父ハーツクライ)の身体つきは、上品なディープインパクト系を見慣れた近年では、武骨で不気味にさえ映るすごい迫力(540kg)だった。血統背景とは逆に、距離延長で自身の身体が負担にならないか心配になるほどだが、この厩舎なら大事に育て上げてくれるだろう。楽勝に映らなかったのは、牝馬クラヴァシュドール(同じハーツクライ)も素晴らしい逸材だから。この2頭、流れは異なるのに、2頭とも2戦連続で上がり33秒1を記録してみせた。成長を楽しみにしたい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング