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伊集院静展で武豊騎手に会った

  • 2019年10月10日(木) 12時01分
 10月9日の水曜日から22日の火曜日まで、松屋銀座で「大人の流儀 伊集院静展」が開催されている。

 初日の午後7時から、関係者による記念レセプションが行われた。

 8階の広い会場をフルに生かし、入ってすぐのスペースには写真付きの伊集院さんの年譜や、子供のころに描いた絵などが展示されている。その奥にはこれまで上梓した単行本と文庫本が陳列され、随所に生原稿がディスプレイされている。

 さらに進むと、伊集院さんと交流のある人々が寄せたメッセージが、ひとりひとりパネルとして展示され、伊集院さんにまつわる品などが置かれている。そのメンバーが恐ろしく豪華で、長嶋茂雄、松井秀喜、武豊、オカダ・カズチカ、北野武、石橋貴明、加納典明、井上陽水、山下達郎、大友康平、小泉進次郎……と、順不同、敬称略でザッと紹介したが、これがすべてではない。

 私の文章と伊集院さんにゆかりの品も、近藤真彦さんと大沢在昌さんの間に挟まれ、ひっそりと展示されている。

 会場をうろうろしていると、既視感のある8等身か9等身のスラリとした後ろ姿の男性に気がついた。ひょっとしたらと思って、横に立って流し目で確認すると、やはり、武豊騎手だった。

「いつフランスから帰ってきたんですか」

「昨日です。で、今朝、栗東で攻め馬をしてから駆けつけました」

 女優「篠ひろ子」として活躍された伊集院さんの奥様と会うのは久しぶりだというので案内してから、フランスのソフトライトで6着となった凱旋門賞の話を少し聞いた。

「ヘルメットに付けていたカメラの映像、ネットで見ました。スムーズに競馬をしていたことや、勝ち馬が伸びていくところなんかがよくわかって、話題になっていますよ」

「え、それ今見られますか」

 どうやら本人は見ていないらしい。

 私のスマホで再生すると、楽しそうに見ている。

「この、ピシッ、パシッという音は?」

「肩鞭の音や舌鼓(ぜっこ)です。いや、前の馬のキックバックが当たる音も入っていますね」

 数日前に海の向こうで自身が見ていたのとほぼ同じ眺めをリプレイ映像で確認するのはどんな気分なのだろう。

 レセプションでは、武騎手もスピーチをした。

「ぼくから伊集院さんに直接電話をすることはあまりないのですが、『凱旋門賞を勝ちました』という報告の電話をしたいですね」

 そう話を締めくくった。

 石橋貴明さん、オカダ・カズチカさん、阿川佐和子さん、そして小泉進次郎さんのスピーチも面白かった。

 全国のデパートで何度か開催された「武豊展」も見応えがあったが、この「伊集院静展」もそれに劣らず華やかで、あっという間に時間が経ってしまう。

「島田さんもこういうのをやってくださいよ」

 武騎手に、満面のユタカスマイルでそう言われた。

 そのときは黙って首を横に振っただけだったが、死ぬ前に、一度でいいからこういう展示をやってみたいという気持ちがまったくないと言えば嘘になる。

 本稿がアップされるころには、競馬ミステリーシリーズ第4弾の取材で、担当編集者と一緒に日高の馬産地にいる。

 このシリーズが第20弾ぐらいまでつづいて、どれか(あるいは全部)が間違ってヒットしたら、集英社とネットドリーマーズのコラボ企画として私の展示をやってくれないだろうか。

 馬産地在住の写真家・内藤律子さんによる来年の「サラブレッドカレンダー」と「とねっこカレンダー」が発売中だ。

 毎年こうして出しつづけることによって「馬のカレンダーは内藤さん」というイメージが浸透しているし、それが内藤さんのブランドにもなっている。

 私も、とにかく、自分のブランドが確立するまで、せっせと書きつづけるしかない。

 では、仮眠を取って、行ってきます。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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