スマートフォン版へ

【天皇賞・秋】稀代の女傑はさらなる高みへ

  • 2019年10月28日(月) 18時00分

上位好走馬の益々の活躍にも期待


 断然の人気に応え、通算6つ目のビッグタイトルを手にした4歳牝馬アーモンドアイ(父ロードカナロア)は、いよいよ歴代の名牝に並ぶことになった。

 グレード制導入の1984年以降、海外を含めGIを5勝以上の牝馬は、

  ▽ウオッカ      26戦【10-5-3-8】GI 7勝
  ▽ジェンティルドンナ 19戦【10-4-1-4】GI 7勝
  ▽ブエナビスタ    23戦【 9-8-3-3】GI 6勝
  ▽アーモンドアイ   10戦【 8-1-1-0】GI 6勝
  ▽メジロドーベル   21戦【10-3-1-7】GI 5勝
  ▽アパパネ      19戦【 7-1-3-8】GI 5勝

 アーモンドアイの戦歴は、まだ歴代の名牝たちの半分だけ。有馬記念に出走予定はなく、いまのところ11月24日のジャパンか、12月8日の香港(カップかマイル)への登録が予定されている。この天皇賞(秋)は、これまで以上に強かった印象があり、国枝調教師は「まだ、(秘める可能性に)上があるような感じがする」と語っている。

 過去の女傑はそろって、少なくとも5歳いっぱいまで現役だった。来期も走るというエネイブル(今年5歳)や、43戦もしたウィンクスは、体質も競走体系も異なるので比較の対象にならないが、仮に5歳の来期も現役にとどまり3-4戦するなら、アーモンドアイのGI勝利数はさらに増えることだろう。

 名馬には、実力のほかに幸運も必要。今回の2番枠は、ジャパンCの1番枠と同様にツキがあった。スタートでは、クビを上げそうになり少し前脚を上げた瞬間、ゲートが開いた。熱望していた凱旋門賞挑戦も、2分31秒97も要する重馬場だったのだから、本気で走ってしまうアーモンドアイの受けるダメージは想像以上に過酷だったろう。無念の断念は、結果的に幸いの部分もあった。

 アエロリット(父クロフネ)の作ったペースは「59秒0-57秒2」=1分56秒2。たちまち好位のイン確保のアーモンドアイの前後に、流れが速くないから、動向を注意したかった2番人気のサートゥルナーリア(父ロードカナロア)、3番人気のダノンプレミアム(父ディープインパクト)も位置してくれる展開になった。

 アーモンドアイ(C.ルメール)はまだ他馬に差されたことがない。交わされそうになったこともない。ルメール騎手のインタビューを聞きながら、あの隊列ができたとき、ルメール(アーモンドアイ)は早くも「勝利を確信した」、と言いたかったのだと感じた。

 4角手前から刻まれたラップは、600mから残り200mまで「11秒1-11秒3」。みんなが伸びている。アエロリット(戸崎)は、きわめてフェアに乗ったと同時に、外に並んだサートゥルナーリア(スミヨン)、ダノンプレミアム(川田)の方に注意が回ったかもしれない。ラチ沿いのインが2頭分くらい空いていた。

 この組み合わせにしては、前半1000m通過「59秒0」はみんなに楽だった。そこで後半3ハロンは「11秒1-11秒3-11秒9」=34秒3。最後の約300mだけで2着以下を3馬身も突き放したアーモンドアイの加速(エンジン全開)はすごい。それで1分56秒2。ファンだけでなく、上位好走馬の陣営からも驚きの声が上がった。

重賞レース回顧

一度たりとも他馬に交わされたことのない無類の強さを誇るアーモンドアイ(撮影:下野雄規)


 サートゥルナーリアは、素晴らしい馬体に成長していた。レース前も日本ダービーのような過度な気負いはなかった。だが、スミヨン騎手が「ずっと力んでいた」と振り返ったように、初の古馬相手で、チャンピオン級の馬に囲まれたプレッシャーはきつかった。流れが楽だからこそ、逆に、前半からせめぎ合いになる(我慢し続ける)厳しいレース経験がない弱みが出た。これまでは自分よりランクが下の、無言のプレッシャーをかければ相手がたじろぐような相手だった。6着に完敗とはいえ、これまで2000mの天皇賞(秋)に30頭以上の3歳馬が挑戦しているが、(芝状態の変遷はあるものの)1分57秒1で乗り切ったのはサートゥルナーリアが初めて。今回は精神面を含めた総合力で負けたが、中距離路線の未来のエースは間違いない。

 2着ダノンプレミアムは、4歳馬ながら緩急のペース変化はあまり好まない先行抜け出しタイプ。今回のアエロリットの2000mのペースは望むところだった。本当は高速のマイル向きとも思えるが、2000mで結果を出した自信は大きい。2着に負けながら、残念がるどころか勝者を絶賛した陣営のレース後は頂点のビッグレースにふさわしかった。

 3着の牝馬アエロリットは、もっと厳しいペースに持ち込んでも良かったのではないかという見方もあるが、自身「59秒0-57秒7」=1分56秒7。きついペースでも無類の粘り腰を発揮してバテないのは1600-1800mであり、これで2000mは【0-0-1-1】。58秒台のきびしい流れで飛ばしたら、ダノンプレミアムを差し返そうとしたところで、ユーキャンスマイル(父キングカメハメハ)、ワグネリアン(父ディープインパクト)に外から差されていただろう。この牝馬の貢献度は絶大なものがある。この1年、アエロリットがレースを作ると「格下の伏兵は勝てない」のは本当である。

 4着ユーキャンスマイルの上昇、充実は本物だった。こなせる距離の幅は今回のGI馬がそろったメンバーの中でも最右翼だろう。ジャパンC,有馬記念と続く路線でも、来春の中長距離路線でも欠かせない馬に成長してくれた。

 ワグネリアンは外枠14番のため、付けたかった位置を取れなかった。4コーナーでは巧みに馬群をさばくことができたが、最後まで外枠の不利を挽回できなかった印象がありながら、2着馬とは0秒1差だけ。馬体重は3歳時と変わらないが、ひと回りたくましくなった印象を与えた。コースに注文はないが、やっぱり東京が一番合っている。

 スワーヴリチャード(父ハーツクライ)は中位のまま、2着から0秒4差の7着。器用なタイプではないため、今回のように尻上がりにラップが速まるような流れは不向きだった。あまり順調に使えない馬だが、馬体はすっきりして今シーズンの体調は悪くない。使って良化型であり、横山典弘騎手が連続して騎乗できると、次走は侮れない。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング