▲コーフィールド&メルボルンのダブルカップ制覇がかかるメールドグラース
オーストラリアという国がこのレースの間は機能を停止する―― オーストラリアの国民的大イベント、メルボルンCまであと1日と迫っている。
オーストラリアの現役騎手・通訳兼コーディネーターの川上鉱介氏が、コーフィールド&メルボルンのダブルカップ制覇がかかるメールドグラースの現地での評価、ライバル馬の状態など、最新の情報をお届けします。
【メルボルンC】
11月5日(火) フレミントン競馬場
3歳以上 ハンデキャップ 3200m(芝)
賞金総額7,750,000豪ドル 1着賞金4,400,000豪ドル
発走時間15時00分(日本時間13時00分)
(文=川上鉱介)
「国家を止めるレース」と呼ばれるメルボルンCは、オーストラリア全国民が注目する国民的大イベントだ。
メルボルンCが開催されるビクトリア州では、毎年11月の第一火曜日が「メルボルンCデー」という名の祝日となる。その他の州でも、メルボルンCが始まる午後3時には全ての学校、職場で全国民がその手を止めてテレビにかじりついてそのレースの行方を見守る。
その呼び名の通りオーストラリアという国が、この約3分のレースの間は機能を停止する。そんな圧倒的な注目度を誇るレースだ。
ハンデ戦の3200mかつ出走馬は24頭と、予想をするには頭が痛くなるようなレースだが、オーストラリア国民はメルボルンCが近くなると、「今年はこの馬だ」「いやこの馬が怖い」などとメルボルンCの予想をぶつけ合い、学校などでは24頭の出走馬からクジ引きなどで自分の馬を選び、勝った馬を選んだ子供には賞品を与えるなど、ギャンブルとしてはもちろん、エンターテイメントとしても国民に幅広く受け入れられている。
メルボルンCの前日にはメルボルン市内の中心で、出走馬の関係者や過去のメルボルンC優勝馬などがパレードを行い、街中の人々が今年の英雄候補たちに一目会おうと駆けつける。その人気は国内だけに留まらず、今では世界中からメディアや競馬ファン、関係者が11月のメルボルンに集う。
そんな世界的にも注目度の高い同レースで現在1番人気に支持されているのが、日本から遠征中のメールドグラースだ。
コーフィールドCでは圧倒的な能力を見せつけて快勝、2001年のエセリアル以来の同年でのコーフィールド・メルボルンのダブルカップ制覇の偉業に挑戦する。
レースの傾向
メルボルンCは同じハンデ戦のコーフィールドCよりも、さらに斤量の重さが結果に直結する傾向がある。
過去20年の結果を見てみても56kg以上のハンデを背負って勝ったのは、58kgのトップハンデを背負ってメルボルンC三連覇を果たしたマカイビーディーヴァ、2006年に日本馬として初めて、そしてこれまで唯一メルボルンC制覇を果たしているデルタブルース(56kg)、そして2014年に名手R.ムーアに導かれて優勝したプロテクショニスト(56.5kg)の3頭のみだ。
55kg以上でも、マカイビーディーヴァの二連覇目(55.5kg)、そして種牡馬としても活躍しているフィオレンテ(55kg)の2回が加わるだけで、過去20年で55kg以上を背負って勝利しているのは延べ4頭だけだ。
また、オーストラリアは短距離馬中心の生産が行われている事もあり、勝ち馬もほとんどが外国産馬だ。
昔はステイヤー志向のニュージーランド産の活躍が多かったが、近年競走馬の海外遠征や売買が盛んになると、その傾向はますます顕著に、そして欧州馬中心となり、2010年以降はニュージーランド産のプリンスオブペンザンスを除く全ての勝ち馬が欧州からの遠征、または輸入馬となっている。
有力出走馬
欧州からの遠征馬の中心はやはり、24歳の若さでメルボルンC優勝調教師となったジョセフ・オブライエン師と、その父エイダン・オブライエン師の親子だ。今年も二人合わせて7頭もの出走馬を出してきた。
その中にはコックスプレートでリスグラシューの4着と健闘したマジックワンドや、土曜日のレクサスSから中2日でメルボルンCへ向かうダウンドラフト、そしてメルボルンC制覇に全ての情熱を注ぎ込む名物オーナー、ロイド・ウィリアムズ氏が所有するマスターオブリアリティも注目の一頭だ。
英国からの遠征馬では、前年のメルボルンCで3着のプリンスオブアランが目を引く。昨年は今年のダウンドラフト同様にレクサスSを優勝、優先出走権を手に入れて中2日でメルボルンCに向かい、3馬身差の3着と健闘した。
騎乗したM.ウォーカー騎手が「中2日の厳しいローテーションでなければ勝っていたと思う」とコメントしたが、今年はジーロンCから中1週での挑戦となった。
移籍組ではコンスタンティノープルの評価が高い、移籍初戦のコーフィールドCでは直線で大きな不利を受け、完全に体勢を崩すもそこからもう一度伸びて、メールドグラースから1.4馬身差の4着と好走した。そして鞍上には“マジックマン”J.モレイラ騎手を迎えて万全の体制だ。
また、昨年オーストラリアのチャンピオントレイナーであるC.ウォラー厩舎に移籍し、メルボルンCで4着と好走したフィンシュも忘れてはならない。
前走のコーフィールドCでは1.6馬身差の5着で若干評価を下げたが、元々は3200mのメルボルンCを目標に調整されてきた馬。実績も勢いもあるC.ウォラー調教師と、メルボルンCを3勝しているK.マカヴォイ騎手のコンビは侮れない。
C.マー厩舎に移籍したサザンフランスはメルボルンCで移籍初戦を迎える。前走はG1・愛セントレジャーで3着に入るなど、実績的には他の欧州勢に全く引けを取らない。
地元勢の期待はデビューからオーストラリアで調教されているニュージーランド産馬サプライズベイビーと、オーストラリア産馬のヴァウアンドディクレア。
サプライズベイビーの父は2009年にメルボルンCを制しているショッキングで、10月5日にG3・ザバートカミングスを制して優先出走権を確保してからはメルボルンC一本に絞って調整をしている。
ヴァウアンドディクレアはわずか52kgの低ハンデで、オーストラリア産馬としては上記のショッキング以来のメルボルンC制覇を狙う。鞍上は日本でもお馴染みのC.ウィリアムズ騎手で、コーフィールドCでの2着の後は「メルボルンCが待ちきれない」と前向きなコメントを残した。
やはり注目はメールドグラース
土曜日のダービーデーでは雨が続き重馬場での競馬となったが、火曜日まではそれほどの雨量も予測されておらず、水はけの良いフレミントン競馬場ならオーストラリアの基準通りの稍重での競馬となりそう。
24頭立ての難しいレースだが、やはりポイントは低ハンデで出走してきた伸び代のあるステイヤーだ。
メールドグラースも56kgを背負わされるが、地元メディアの間でも「これほどの能力を持った馬が56kgで出走出来るなら、斤量は気にならない」という空気が流れている。
▲メールドグラースのハンデは56kg、「これほどの能力を持った馬が56kgで出走出来るなら」
コーフィールドC、コックスプレート、そしてメルボルンCのメルボルン3大レースを日本勢がスイープするか? そして若き名手D.レーン騎手が、G1・ゴールデンスリッパーを含むオーストラリア競馬界のグランドスラムを達成するか? メールドグラースに対する注目度は計り知れない。