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【アルゼンチン共和国杯】速い脚が長つづきするかどうかのスタミナも問われた

  • 2019年11月04日(月) 18時00分

ムイトオブリガードの良さを全面的に引き出した


 勝ちタイムは近年の平均的な時計なので目立たないが、伏兵オジュウチョウサン(父ステイゴールド)が前半をリードする形になり、レースの前後半バランスは「1分14秒9-(6秒3)-1分10秒3」=2分31秒5。流れはムイトオブリガード(父ルーラーシップ)が2着した昨年と同じ完全なスローになった。

 ただ、昨年と異なり早くも3コーナーからペースが上がったため、後半は「1分10秒3→57秒9」の高速決着になり、速い脚が長つづきするかどうかのスタミナも問われた。

 これで芝での全5勝を2400-2600mで記録したことになったムイトオブリガードは、あまり切れるタイプではない。今回の上がり33秒8は、上位5着までのうちアフリカンゴールド(父ステイゴールド)と並び4位タイ。鋭さで勝ったのではなく、簡単にはバテない持久力で初重賞を制したことになった。

重賞レース回顧

バテない持久力で初重賞を制したムイトオブリガード(撮影:下野雄規)


 角田調教師が「完ぺきに乗ってくれた」と感謝した横山典弘騎手は、テン乗りだった昨年の六社S2400mを今回と同じようの好位のイン3番手に付け、同じように残り1000mから57秒台になった流れを積極的に先頭に接近、早めに抜け出す形で勝っている(2着ルックトゥワイス)。今回もその再生のようなレース運びで(ライバルの切れをなし崩しにするように)、スパッと切れないムイトオブリガードの良さを全面的に引き出した。逃げ、追い込みなどのハデな戦法ではないが、こういう形を取らなければ善戦マンのムイトオブリガードの勝機は乏しかったろう。

 横山典弘騎手はAR共和国杯の勝利が史上最多の5勝となり【5-1-2-15】。馬券に関係した計8回の人気は古い順に「8、9、5、2、2、2、2、2」番人気となった。

 逆にペースが上がったところで敢えてスパートせず、脚を残して直線はイン衝き作戦に出たのが戸崎圭太騎手の2着タイセイトレイル(父ハーツクライ)。上がり33秒5は最速だった。この馬も全4勝中の3勝が芝2400-2600m。スタミナを問われる総合力勝負で、その馬の理想の形に持って行くのは至難であり、また騎乗の流儀はそれぞれだが、戸崎騎手はタイセイトレイルの未勝利戦1600mに1回乗っていただけ。負けはしたが横山騎手とまったく逆の形での好走に戸崎圭太の味があった。

 ムイトオブリガードの母ピサノグラフ(父サンデーサイレンス)と、タイセイトレイルの母マザーウェル(父シンボリクリスエス)は、ともにその母にシンコウラブリイ(父Caerleon)を持つ姉妹であり、姉の産駒が先着したことになった。シンコウラブリイは、マイルCS、毎日王冠など全10勝が2000m以下(なおかつ9勝が1800m以下)であり、娘のピサノグラフも、マザーウェルも完全にマイラー型だった。適性距離の広がりと、その逆を考えるのはまったく簡単ではない。

 タイセイトレイルは前回、札幌の丹頂S2600mを3着。4歳牝馬ポンデザール(父ハーツクライ)になんと3馬身半(0秒7)もちぎられている。コースも、距離も、負担重量も大きく異なるが、ポンデザールは今秋のエリザベス女王杯に出走する。候補の1頭だろう。ただ、評価は大きく分かれそうに思える。

 1番人気で3着のアフリカンゴールドは、反応こそ鈍かったがスパートのタイミングは悪くなかった。届かなくても2着は確保とみえたが、ゴール寸前に失速してしまった。六社Sではそんなことはなかったが、今回はパドックから気負いというよりイレ込みに近い状態。体質強化で中間かなり意欲的に追えたが、連続の輸送競馬でこれが裏目に出たのかもしれない(ここ2戦以外は地元の関西圏での出走)。前半、ずっとかかっていた。今回の状態でこの内容なら評価が落ちることはない。

 4着ルックトゥワイス(父ステイゴールド)も、一頓挫あったうえに休み明けだったためか、アフリカンゴールド以上にイラついていた。こちらは完全にイレ込み状態で、スローは分かっていても、仕掛けて位置を取るレースに持ち込めなかったろう。

 東京2500mに破格のレコード2分28秒2を持ちながら、この相手に3番人気にとどまったように、調教駆けしない点など好意的にみても完調にはなかった。それでも57kgのトップハンデで0秒3差まで追い込んで、ちゃんと地力はみせている。同日のダートの「みやこS」が、有力馬には叩き台の一戦になりがちなのとは理由が逆になるが、ステイヤータイプにとって秋の長距離戦はごくごく限られている。必ずしもみんなが絶好調ということはありえない。

 アイスバブル(父ディープインパクト)も、台風でオクトーバーS(2000m)の日程が変わるなど、仕上げのリズムが狂った不利があった。出負けして最後方追走のまま終わる馬ではない。見直したい。

 オジュウチョウサンは気合を入れて先手を奪ったが、前半1200m通過1分14秒9のスローで、12着に失速(自身の上がり35秒4)は残念。上がりの速いレースだから…というのではなく、南部特別2400mを快勝し、見せ場を作った昨年の有馬記念当時のパワフルな印象が、今回はたまたま乏しいように映った。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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