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タタソールズ・ディセンバーセール・牝馬セッションが間近に迫る

  • 2019年11月13日(水) 12時00分

アベイドロンシャン賞を制したマブスクロスが今年の目玉商品か


 牝馬セールサーキットは現在北米ラウンドの真っ只中だが、現在行われているキーンランド・ノヴェンバーが17日に終ると、舞台はヨーロッパラウンドへと移動する。

 中でも最も上質な上場馬が揃うと言われているのが、12月2日から5日まで英国のニューマーケットで開かれる「タタソールズ・ディセンバーセール・牝馬セッション」だ。

 今年、その目玉商品と見られているのが、2日目の12月3日(火曜日)に上場番号1818番として登場する、チャンピオンホースのマブスクロス(牝5、父ダッチアート)である。マイケル・ドッズ厩舎から「現役馬」というカテゴリーでの上場となっているが、年齢を考えると、お買いになる方はこのまま引退させて、繁殖として供用することになる公算が大きそうだ。

 ビヴァリーのLRヒラリーニードラートロフィー(芝5F)を制している他、G3ファースオヴクライドS(芝6F)4着などの成績を残したミスメギーの6番仔で、G3セニョリータS(芝8F)勝ち馬チャーリーエムの半妹にあたるのが、マブスクロスだ。

 父ダッチアートは、ロイヤルアスコットのG1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)など2つのG1を制したスレイドパワー、ドーヴィルのG1モーリスドゲスト賞(芝1300m)勝ち馬ガースウッドなど、短距離路線の大物を出す種牡馬として定評があり、マブスクロスが生まれた年の種付け料は4万ポンド(当時のレートで723万円)だった。そして、同馬の母の父ピヴォタルは、欧州サイヤーランキング上位の常連で、母の父としてもG1ジュライC(芝6F)勝ち馬メイスンを出したばかりの頃だった。

 すなわち、明らかに水準以上の血統背景を持つのがマブスクロスなのだが、その同馬が1歳の秋、ドンカスター・ノヴェンバーセールという、1歳馬と現役馬が混在した決して一流とは言えないセールに上場され、なおかつ3千ポンド、当時のレートで換算して57万円という、驚くような廉価で購買されている。当時の事情は残念ながらわからないが、こういう生い立ちの馬からスターが誕生することもあるのが、競馬の醍醐味である。

 英国北部のダーラム・カウンティを拠点とするドッズ厩舎から3歳4月にデビューしたマブスクロスは、同年5月23日にニューキャッスルのメイドン(AW5F)を制し、デビュー3戦目で初勝利。ここから4連勝を飾り、同年10月にはマッセルバラのLRマッセルバラフィリーズスプリントS(芝5F)を制し、特別初制覇を果たした。

 4歳時のマブスクロスは、5F路線の重賞の常連となり、5月にニューマーケットで行われたG3パレスハウスS(芝5F)で重賞初挑戦初制覇。その後はいよいよG1戦線に乗り出し、ロイヤルアスコットのG1キングズスタンドS(芝5F)3着、ヨークのG1ナンソープS(芝5F)2着と惜敗を重ねた後、10月にパリロンシャンのG1アベイユドロンシャン賞(芝1000m)を制し、遂にこの路線の頂点に立った。4歳シーズン終了後には、カルティエ賞最優秀スプリンターに選出されている。

 5歳を迎えた今季、初戦となったニューマーケットのG3パレスハウスS(芝5F)を制し、3度目の重賞制覇を果たした以降は未勝利に終わったが、G1キングズスタンドS(芝5F)4着、ヨークのG1ナンソープS(芝5F)4着など、基幹競走での入着を果たしている。

 ここ2シーズンほど、欧州短距離界には、ブルーポイント、バターシュといった大物タレントが君臨していただけに、ここまで残した成績は非常に優秀で、高いスプリント能力を保持した牝馬であることは間違いないところである。

 2017年の当セールに、G1アベイユドロンシャン賞に加え、G1ナンソープSを制した実績があったマーシャ(当時4歳、父アクラメーション)という牝馬が上場され、600万ギニー、当時のレートで約9億7965万円という途轍もない金額で購買されたことがあった。さすがにここまでは行かないだろうが、マブスクロスにいったいどれだけの価格がつくか、おおいに注目されている。

 同セールには更に、18年のG1ゲイムリーS(芝9F)勝ち馬ソフィーピー(牝6、上場番号1837番)が、初仔となるフランケルの種を受胎して上場される予定。 

 また、昨年のG1英千ギニー(芝8F)や今年のG1サンチャリオットS(芝8F)を制したビレスドンブルックの母コプロウ(牝10、上場番号1834番)が、キングマンを受胎して上場される予定だ。

 日本の競馬ファンにとっては、18年のG1英二千ギニー(芝8F)を制し、日本産馬として初の英国3歳クラシック制覇を果たしたサクソンウォリアー(父ディープインパクト)の初年度産駒を受胎した牝馬が、9頭上場されるのが大きな楽しみと言えよう。

 そのうちの1頭が、上場番号1755番のエヴァズリクエスト(牝14)だ。同馬自身がG1リディアテシオ賞(芝2000m)勝ち馬で、同馬の半姉にもG1モイグレアスタッドS(芝7F)勝ち馬プライオリーベルがいるという良血馬である。この牝系にサクソンウォリアーという血脈が、欧州のマーケットでどんな評価を受けるかに注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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