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ファンが立ち上げたビッグゴールドサポーターズクラブ(5)“園長先生”就任!北の大地で送る第二の馬生

  • 2019年12月03日(火) 18時00分
第二のストーリー

ゴールド園長(左)ととねっこ(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


ビッグな暴れっぷりに誰もがお手上げ!?


 ビッグゴールドの引退が決まり、岡本義徳さん、朋子さん夫妻は急ぎ認定NPO法人引退馬協会の沼田恭子代表に連絡を取り、馬運車の手配を依頼した。行き先は引退馬協会の本部のある千葉県香取市の乗馬倶楽部イグレットだった。

 ビッグゴールドが金沢競馬場を出発したのは10月25日の午前6時頃で、イグレットに到着したのは午後2時少し前。およそ8時間の長旅だったが、到着時はかなり興奮していて大変だったという。この日は義徳さんは仕事で行けず、朋子さんが到着に立ち会った。

「もう猛獣でした。立ち上がるわ、蹴るわで、馬運車を降りてから馬房に入れるまで、今までで1番怖い出来事だったとイグレットのスタッフが言っていました」(朋子さん)

「馬運車に乗って運ばれたから、多分どこかの競馬場に遠征だと思ったんでしょうね。ところが降り立ったのが競馬場とは全然違う所なので、ここはどこだー! っていう勢いで暴れまくったのでしょうね」(義徳さん)

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乗馬倶楽部イグレットに到着したときの様子(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


 その後去勢するまでの間、ビッグゴールドは暴れん坊ぶりを発揮し続けた。

「厩舎で隣にいるウェストファーレン(中間種・主に乗馬用に生産されている)という大きな種類の馬にずっと立ち上がって威嚇をしてみたり、もう一方の隣にいるサーチエネミー側の壁をバンバン蹴ったり…。うるさいの来たぞーとサーチも小さくなって、見るからに嫌そうな顔をしていました」(朋子さん)

「それに金沢時代の馬房は、隣の馬の顔を見ることはない造りになっていましたが、イグレットでは首を伸ばすと鼻づらを合わせることができたので、隣の馬にはしょっちゅうケンカを売って、前を通る馬には食いついて…。頼むから早く去勢してとスタッフにも言われていました。今のゴールドからは、信じられない姿でしたね」(義徳さん)

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猛獣のようだったというビッグゴールド(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


 放牧地に出ると、変わった癖も見せた。

「ここはオレサマの場所か? と犬みたいに、他の馬のボロにおしっこかけてマーキングするんです。ボロの匂いをかいではおしっこかけて、また移動してボロの匂いをかいではおしっこかけて…というふうに。沼田代表もこんな馬初めて見たわと仰っていました(笑)」(義徳さん)

 そのゴールドも12月に入って去勢手術を施され、とうとうセン馬になった。

「馬によって違うから去勢してすぐに効果が出るかどうかは正直わからないと、獣医さんには言われていました。でも危険を考えると、しないよりはいいだろうと思いました」(義徳さん)

 幸いなことに去勢の効果はあった。

「イグレッドの隣に競走馬の育成牧場があるのですが、そこの若い子たちが鳴き出すと一緒になって鳴き出すということはありましたけど、ケンカを売ったり、馬房の壁を蹴ったりはなくなりました。壁を蹴っ飛ばしていると、脚を怪我しちゃうんじゃないかと思って危なっかしくて見ていられなかったですからね」(義徳さん)

「去勢する前は、正直すごいの引き取っちゃったなあと思いました(笑)。暖かくなってから移動する予定の北海道の牧場は繁殖牝馬ばかりだったので、こんなの連れていって大丈夫かなあと、申し訳ない気持ちにもなっていたんですよね」(朋子さん)

 元々、厩舎の中で1番強いのがゴールドだと、金沢時代に管理していた加藤和宏調教師も言っていた通り、気の強い面は残してはいたが、去勢したことで随分扱いやすい馬に変身していた。 

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運動不足解消のためにトレーニングも(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


インドア派から一変…


 乗馬倶楽部イグレットは、北海道の静内坂本牧場(現・静内杉下牧場)に行くまでのワンクッションで、休養のための入厩だった。

「引退するなら12月か1月かなと想像していたので、もしそうであればいきなり北海道に行くのは寒さがきついのではないかと思って、千葉でゆっくり休ませて春になったら北海道に連れて行こうと考えていました」(義徳さん)

 以前から親交のあった静内坂本牧場とは、ビッグゴールドの引き取りが決まる前から、もし引き取ったら預かってもらえるかどうかの相談をして、了解もとりつけていた。

「坂本さんのところのお産が終わったらすぐに行こうという計画でしたが、3月11日に東日本大震災があったので、予定より1、2か月遅れての移動となりました」(朋子さん)

 6月12日、ビッグゴールドは北の大地に降り立ち、新たな生活が始まった。だが放牧地になかなか出たがらず、出てもすぐに馬房に戻りたがるという日々が続いた。ゴールドのように馬房とコースの往復を長年繰り返してきた競走馬たちにとっては、自由に闊歩できて青草食べ放題の放牧地よりも、馬房の中が1番安心できる場所なのかもしれなかった。

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ビッグゴールドと朋子さん(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


「引退直後からイグレットで見てきて、いくら去勢して大人しくなったとはいえ、馬房の中が安心できるインドア派で1頭でいるのが好きでしたし、他の馬と放牧してやっていけるのかなという心配もありました。だからしばらくは1頭放牧だったのですが、そのうち道を挟んで反対側の繁殖牝馬がいる放牧地をじーっと見るようになりました。

 仲間意識というか、馬と一緒にいたいのかなと思って。中でもアンバーさん(アンバーネックレス)というおばあちゃん馬が大好きで、アンバーさんが見えていればオッケーという感じでした。ただ仲間意識が芽生えたとはいえ、繁殖さんと一緒にするわけにもいかないので、繁殖以外の馬たちと放牧をするようになりました」(義徳さん)

 やがてゴールドは離乳後の当歳馬たちの教育係及びリードホースとして活躍するようになり、今では「園長さん」と呼ばれるまでになった。

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やんちゃ坊主をしかる園長先生(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


「他の馬と一緒に放牧に出るようになってからは、インドア派ではなく心配性派(笑)ですね。性格なんでしょうね。放牧の時は、他の馬がみんな出たのを確認をして最後に出る。放牧から帰る時は、ゴールドを先に引っ張って来るのですけど、厩舎に入る前に立ち止まって必ず後ろを確認するんです。1頭でもついてきていないと、絶対に中に入らないんですよね。他の馬が皆厩舎に戻ってきたのを確認して、よし! とでも言わんばかりに自分の馬房に入るんです。誰が教えたわけでもないと思うんですけど。まさかこんなことをする馬だとは思いませんでした」(義徳さん)

 静内杉下牧場には、当牧場生産のオキテやコスモセブンも戻ってきている。まだ若い遊びたい盛りの2頭に、当然のごとくゴールドは先輩風を吹かせている。

「すごい仲間意識があって、オキテやセブンが厩舎に戻ってきていないと彼らを呼ぶらしいです。でもオキテとセブンはまだ外で遊びたいんですよね、でもゴールドが呼んでうるさいから、わざわざ2頭を厩舎まで1度連れてきてからゴールドを馬房に入れる。それからまた2頭を外に出すとか(笑)。牧場さんには本当に面倒くさいことさせてしまっています(笑)」(朋子さん)

 こうしてビッグゴールドは、インドア派から心配性派へと変身して、当歳馬や若馬たちの教育係として北の大地で第二の馬生を謳歌しているのだった。

(つづく)


ビッグゴールドサポーターズクラブ
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認定NPO法人引退馬協会
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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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