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「タタソールズ・ディセンバーセール当歳セッション」が開催

  • 2019年12月04日(水) 12時00分

経済とは無縁のマネーフローを持つのが競走馬マーケット


 11月27日(水曜日)から30日(土曜日)にかけて、英国ニューマーケットで「タタソールズ・ディセンバーセール当歳セッション」が開催された。

 市況から記せば、総売り上げが前年比16.0%ダウンの2933万8300ギニー、平均価格が前年比13.7%ダウンの4万4251ギニー、中間価格が前年比12.0%ダウンの2万2000ギニーという、大きな落ち込みを見せた。

 今年の秋以降、各地で縮小傾向にあるのが、欧米における競走馬市場だ。ましてや英国は今、EU離脱を争点とする総選挙を12月12日に控え、国の趨勢がどちらに傾くかの瀬戸際を迎えている。政情次第で、経済がどのように転がるかは不透明で、購買層が様子見を決め込むのも、むしろ当然というのが現状だ。経済とは無縁のマネーフローを持つのが競走馬マーケットだが、今回ばかりは致し方のない事態を迎えていると言えよう。

 なおかつ、である。1年前のこの市場は空前の好況で、総売り上げも平均価格も歴代のレコードをマークしており、それと比較してのマーケット縮小なのだ。例えば、19年の平均価格はこのセールにおける歴代第2位の数字で、俯瞰で捉えればそれほど悪い数字ではない。更に、市場関係者を安堵させたのは、前年は29.7%だったバイバックレートが、今年は28.0%に下がったことで、需要の厚さは確かにそこにあり、マーケットとしての健全さが大きく損なわれたわけではないのだ。

 そういうわけで、市場関係者の多くは、今年の数字をそれほど悲観的には捉えていないのである。

 60万ギニー、日本円にしておよそ9163万円という最高価格が飛び出したのは、開催3日目の29日(金曜日)だった。この価格が付いたのは、父フランケル・母シンプルヴァーズの牡馬で、購買したのはシェイク・ファハドのカタール・レーシングの代理人である、デヴィッド・レッドヴァーズ・ブラッドストック社だった。

 19年も、G1英オークス(芝12F6y)勝ち馬アナパーナ、G1セントレジャー(芝14F115y)勝ち馬ロジシャン、G1フィリーズマイル(芝8F)勝ち馬で、20年の3歳牝馬クラシックの最有力馬と目されているクオドリラテラルらを送り出し、種牡馬としても「史上最強馬」の名に恥じぬ実績を残しつつあるのが、父のフランケルだ。

 そして母シンプリーヴァーズは、牡馬を破ったG1セントレジャー、英国における牝馬の頂上決戦G1ブリティッシュチャンピオンズ・フィリーズ&メアズ(芝11F211y)という2つのG1を含めて、4つの重賞を制した活躍馬だった。上場されたのは、その初仔にあたる牡馬である。

 現役時代のシンプリーヴァーズは、シェイク・ファハドと、その兄であるシェイク・スヘイム、カナダ人馬主のジョン・ガンサー氏の3者による共同所有で、同馬が産む産駒については、原則として市場に出すというのが、3者の間の取り決めであったようだ。つまりは、当歳馬の価値査定をマーケットに委ねた上で、初仔についてはシェイク・ファハドが残りの2者の権利を買い取った形となったわけである。

 シンプリーヴァーズは、シェイク・ファハドに英国クラシック初制覇をもたらした馬で、それだけ思い入れが強かったようだ。なおかつ、セール2日前に、シェイク・ファハドとメリッサ夫人との間に女児が誕生したばかりだったとのことで、これを祝うお気持ちもおありだったようだ。

 44万ギニー(約6721万円)という2番目の高値となった、父インヴィンシブルスピリット・母リスキューンの牝馬が購買されたのも、セール3日目だった。G3セプターS(芝7F)勝ち馬ミュージックボックス、G2ダンテS(芝10F56y)2着馬エクティハームらの全妹にあたるのが同馬で、購買したのは米国人馬主ジョン・サイキス氏のウッドフォード・サラブレッズ社だった。欧州で競馬をするのか、米国で競馬をするのか、現段階では未定だが、将来的には繁殖牝馬として繋養することを視野に入れた購買であることを、馬主関係者が明らかにしている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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