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ノーザンファーム一強時代

  • 2019年12月12日(木) 12時00分
 既報のように、アーモンドアイの有馬記念出走が正式に決定した。香港カップを勝ったウインブライトが回避することになったが、それでもGI馬が11頭という豪華競演が実現しそうだ。

 また、現時点で出走可能なスカーレットカラー(賞金順)までの16頭のうち、12頭がノーザンファームの生産馬というのも驚きだ。

 かつて、JRAのGIは「社台グループの運動会」などと揶揄された。当時は、社台ファームやノーザンファームの生産馬、社台レースホースやサンデーレーシングの所有馬のほか、サンデーサイレンスをはじめとする社台スタリオンステーションの種牡馬の産駒なども指して、そう言われていた。

 あのころの、複数の牧場やクラブの総称としての「社台グループ」による寡占ぶりよりも、このところのノーザンファーム生産馬による独占ぶりのほうが凄まじい。

 社台グループが支配的な強さを見せるようになったのは、サンデーサイレンス旋風が吹き荒れた1990年代半ばからだった。それが2000年代の初めから、2010年代の初めごろにかけてピークを迎えた印象がある。

 その後、ノーザンファームしがらきが2010年、ノーザンファーム天栄が翌2011年に開場し、それらの外厩が効率的に使われるようになったのと時を同じくして、ノーザンファーム一強時代に突入した。

 それらの外厩ができたというだけで、大きなところをたくさん勝つようになったわけではもちろんない。コンサルタントを招いての生産拠点の土壌管理、繁殖牝馬、種牡馬、仔馬の馬体管理、栄養管理、GPSを駆使したイヤリングでの運動データなどが蓄積され、また、それらを活用できる人間が育ったことなどが総合的に実を結んだのだろう。

 先週の阪神ジュベナイルフィリーズをレシステンシアが勝ったことにより、ノーザンファームの生産馬は、JRAの年間GI勝利数を17勝とし、昨年の同牧場による16勝という最多勝記録を更新した。

 この強さは、近代競馬の黎明期、初期の日本ダービーで鎬を削った、皇室のための千葉・下総御料牧場と、財閥が所有する岩手・小岩井農場の二大牧場時代に似ていなくもない。

 今年の有馬記念に話を戻すと、現時点で出走可能な16頭のうち、ノーザンファーム生産馬でないのは、キセキ(父ルーラーシップ)、クロコスミア(父ステイゴールド)、スカーレットカラー(父ヴィクトワールピサ)、スティッフェリオ(社台ファーム生産)の4頭。カッコ内に記したのは、その馬に関して、社台グループと関係することの一部である。

 社台グループが全盛期を迎えると、「日高の馬」という表現が、ファンや関係者の間でしばしばなされるようになった。実際には青森や九州などでもサラブレッドの生産は行われているのだが、だいたい「社台グループ以外の馬」という意味で使われている。

 数のうえでは、10頭のうち9頭は日高の馬だ。

 大きな夢を抱いて日々努力を重ねている日高の生産者はたくさんいる。そのうち何人かを私も知っている。

 今は、ノーザンファームをはじめとする社台グループの種牡馬の血であったり、セールで取得した繁殖牝馬を取り入れるなどしないと、勝てる馬、それ以前に、売れる馬をつくることができない状態になっている。が、ノーザンファームだって、最初からあれほど強かったわけではない。

 ノーザンファームが繋養する繁殖牝馬がいつ1000頭を超えるのかと思うと、そう遠くないような気もして恐ろしいのだが、かつてのタマモクロスやオグリキャップのように、小さな牧場からもスーパーホースが現れるような、活気ある生産界になってほしいと、ひとりのファンとして思う。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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