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【朝日杯FS】スケールの大きさで押し切った印象が強い

  • 2019年12月16日(月) 18時00分

前走の先行策が生かされたレース


 断然の支持を集めたサリオス(父ハーツクライ)の完勝だった。東京のマイルを2歳コースレコードで快勝した前走と同様、食い下がってきた2着馬タイセイビジョン(父タートルボウル)以下を、みんなが苦しくなった最後の1ハロンで突き放してみせた。

 切れ味で上回ったという内容ではない。またスピード能力で圧倒したという勝ち方でもなく、スケールの大きさで押し切った印象が強い。まだ明言されていないが、来季はクラシック路線を歩むと思われる。皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラシック3冠を、大きな馬が制したのは、「1977年の日本ダービー馬ラッキールーラの534キロが史上最高、2位が2015年菊花賞のキタサンブラックの530キロ、3位が2004年皐月賞のダイワメジャーの528キロ」の記録がある。今回、2歳末で538キロだったサリオスの来季のクラシックには、史上最高体重更新の興味も生じる。

重賞レース回顧

スケールの大きさで押し切った印象が強く残ったサリオス(c)netkeiba.com


 現時点ではマイラー体型に近いかも…とされるが、今週の有馬記念に出走するハーツクライ産駒のリスグラシュー、スワーヴリチャード、シュヴァルグランなど、年齢とともに体形や、身体の大きさが変わり、どんどんスケールアップしてGI馬となっている。最初はやけにごつい体形にも映ったサリオスは、今回ちょっとスマートに変化していた。3歳になってさらに変化するはずだ。

 母サロミナ(その父LOMITSロミタス)は、ドイツの誇る名牝系出身であることは知られるが、SCHWARZGOLD(シュバルツゴルト)から発展するラインは、マンハッタンカフェ、ジェンティルドンナと同じというだけでなく、有馬記念に出走するヴェロックスや、有馬記念に6回も連続挑戦したコスモバルクの父ザグレブ、オークス馬ソウルスターリングなどと同じファミリーでもあり、総じて距離延長に死角はない。

 レース全体の流れは、伏兵ビアンフェ(父キズナ)が一気に飛ばしたため、レシステンシアが再スパートして逃げ切った阪神JFより速く「前半33秒8-45秒4-57秒2→」。1週前より心もち時計のかかる芝で、ラップの緩む区間がなかった結果、サリオス以外の先行グループは壊滅。2-6着馬は前半中団より後方にいたグループだった。

 サリオス自身の中身は「57秒6-35秒4」=1分33秒0のレースレコード。前半1000mを57秒台で行って上がり35秒4は、これはもうスピード能力だけではない(阪神JFのレシステンシアも同様)。R.ムーア騎手はスタート直後に当然のように気合をつけ、好位3-4番手につけたが、前走のサウジアラビアRCで高速決着を読んだ石橋脩騎手が先行策を覚えさせたことが大きかった(新馬は追い込み勝ち)。突然の先行指令ではサリオスがムキになる危険もあった。このあたりが、トレーナーを中心とした厩舎力なのだろう。

 勝ったサリオスが前回レコード勝ちなら、2着したタイセイビジョンも前走の京王杯2歳Sをレコード勝ちしていた馬。中団からスパートして、一旦外から追い込んできたタガノビューティー(父ヘニーヒューズ)とともにサリオスに並びかけようとする場面もあった。しかし、武豊騎手も、陣営もそろって認めたように「相手が強かった」。

 ただし、差し馬勢の中ではもっとも早くスパートして、従来のレースレコード(17年ダノンプレミアムの1分33秒3)とわずか0秒1差だけ。タガノビューティーに差されそうな瞬間もあったが、持ちこたえて最後は1馬身4分の1振り切った。この内容は誇れる。サリオスがクラシック路線に行くとき、こちらはNHKマイルCの路線が濃厚だけに、大きなカベが取り除かれることになる。

 3着に突っ込んだグランレイ(父ルーラーシップ)は、後方2番手から外に回って強襲。展開が味方したのは確かだが、未勝利を快勝したばかり。1400mで勝ってきたが、距離はもっとあった方がいいだろう。これからの伸びしろは大きい。

 4着タガノビューティーは初芝での好走。ダートでも切れるが、シャープで大跳びのフットワークなので、同じヘニーヒューズ産駒のアジアエクスプレス(来年20年の新種牡馬)と同じように、芝での活躍も期待できる。一気に展望が広がった。

 ビアンフェ(父キズナ)は、前記の猛ペースを考えれば、7着に失速の1分33秒9(57秒2-36秒7)でも悲観することはない。パタッと止まったわけではなかった。次は距離の1600mもこなせるだろう。

 気負っていたうえ、まだ腰が甘いためか出負け気味で流れに乗れなかったレッドベルジュール(父ディープインパクト)、伸びそうでスパッと切れなかったラウダシオン(父リアルインパクト)、さらに最初から走法のリズムが悪かったペールエール(父ダイワメジャー)など、期待に応えられなかったグループはそろって道中スムーズではなかった。今回は残念だったが、まだ2歳戦であり、すでに勝ち上がっているのだから慌てることはない。再鍛錬でこれから成長したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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