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有馬記念を前にして

  • 2019年12月18日(水) 18時00分

オグリキャップの引退から約30年、いま改めて思うこと


 今年の有馬記念は、いつにもまして極端なノーザンファーム生産馬一色のメンバー構成になりそうだ。現時点で16頭中12頭がノーザン生産馬。残り4頭キセキ(下河辺牧場)、クロコスミア(小島牧場)、スカーレットカラー(ノースヒルズ)、スティッフェリオ(社台ファーム)が非ノーザン、という勢力図である。

 登録は他に3頭(ヴァイスブリッツ=岡田スタッド、ウインブライト=コスモヴューファーム、クレッシェンドラヴ=木村秀則牧場)いるが、これらのうち2頭を加え16頭フルゲートになったとしても、16頭中12頭がノーザンファーム生産馬。実に4分の3をひとつの牧場が占めることになる。

 そもそもが、今年のノーザンファーム生産馬の平地G1競走における成績は、まさしく圧倒的としか表現できないような凄まじいものだ。フェブラリーSで始まった今年の平地G1は、続く高松宮記念と続けて「落とした」ものの、大阪杯以降、宝塚記念までの一連の春のG1シリーズで取りこぼしたのは日本ダービー(ロジャーバローズ)のみ。

 夏のローカルを挟んで秋になっても、緒戦のスプリンターズSこそタワーオブロンドンに勝たれてしまったが、秋華賞以降、先週の朝日杯FSまで、ノーザンファーム生産馬は破竹の9連勝を続けている。おそらく有馬記念も、事前の人気から考えてノーザンファームの「どれか」が制する可能性が極めて高い。

 まだ有馬記念、ホープフルSとふたつ残しているとはいえ、実に年間24レースある平地G1競走のうち、ノーザンファームは現時点ですでに18を制しており、どうかすれば残る2レースもノーザン生産馬に持って行かれてしまいそうな気配だ。

 これが平成から令和に年号が変わった現在の姿である。今を去る約30年前の、昭和から平成に変わった時代のことが思い出されるが、1989年(平成元年)の有馬記念は、オグリキャップ、イナリワン、スーパークリークの3強が激突した年で、勝ったのはイナリワンであった。

 2着にスーパークリーク、3着にはサクラホクトオーが入り、1番人気のオグリキャップは5着に敗退していた。競馬が最も盛り上がっていた時代で、中でもオグリキャップ人気は凄まじい勢いがあった。猫も杓子も「オグリ、オグリ」と熱い視線を送り、間違いなくこの時代の競馬ブームを支えた象徴であった。

 そして、これら3強たちが、いずれも日高産馬であったことにも、隔世の感がある。オグリキャップは周知の通り、三石(現・新ひだか町)の稲葉牧場で生まれているし、イナリワンは門別(現・日高町)の山本実儀牧場、スーパークリークも同じ門別の柏台牧場の生産馬だ。

 これら「平成3強」と称された馬たちのうち、スーパークリークだけは中央デビュー馬だが、オグリキャップとイナリワンは、それぞれ笠松、大井でデビューしたマル地の馬だったことも興味深い。今と違って、中央と地方との垣根はひじょうに高く、とりわけオグリキャップは、中央入りしたものの登録がないばかりに皐月賞、日本ダービーには出走できなかった。そうしたことも人気をより過熱させる大きな原動力になった。

 そのオグリキャップが、翌年の1990年(平成2年)の有馬記念において、武豊騎手を背に、見事にラストランを1着で飾ったことは今でも語り草になっている。

 中山競馬場は、オグリのラストランを一目見ようと大変な騒ぎになったという。多くの女性ファンが見守る中、オグリキャップはファンの期待に応え、「奇跡の復活劇」を演じ、最後の最後まで競馬ファンを大いに湧かしてくれた。

生産地便り

引退レースとなった有馬記念で奇跡の復活V


 翌年1月には、3ヶ所(中山、京都、笠松)の競馬場を巡回する形で大々的に引退式が行なわれた。偶然、1月13日の京都競馬場での引退式を間近で見る機会に恵まれたが、後にも先にも、京都競馬場のスタンドにこれほどの数の人々が詰めかけた場面は見たことがない。場内のあちこちから「オグリー」と絶叫するファンの声援が飛び交い、文字通り黒山の人だかりで殺気さえ漂うほどであった。

生産地便り

場内のあちらこちらから歓声が飛んだ


 これが約30年前の出来事である。年配者の私にとっては「ほんの少し前の出来事」のようにも感じてしまうが、やはり30年はいかにも長く、すっかり競馬世界における勢力地図が書き換えられてしまったことを感じずにはいられない。

生産地便り

オグリの引退から約30年…


 ともあれ、ノーザンファームの勢いを阻止するにはどうしたら良いのか。来年あたりはノーザンの平地G1完全制覇などという偉業すら現実のものになってしまうかもしれない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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