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【騎手のGIコース解説】坂井英光元騎手(大井) 騎手を引退した今、坂井瑠星騎手に伝えたいこと (後編)

  • 2019年12月23日(月) 18時02分
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▲矢作厩舎で研修中の坂井英光元騎手を直撃 (C)netkeiba.com


実際に騎乗経験のあるジョッキーに、コースの特徴や攻略方法を教えていただく「騎手のコース解説」企画。前編では坂井英光元騎手に、地方競馬の暮れの大一番、東京大賞典が行われる大井ダ2000mを解説いただきました。

後編の今回は、騎手を引退し厩舎開業に向けての日々をお聞きします。現在は息子・坂井瑠星騎手が所属する矢作芳人厩舎(JRA)で研修中。矢作厩舎で学んでいること、息子への思いなど、様々な本音も飛び出します。

(取材・文=不破由妃子)

※12/22(日)公開の前編はこちらから


「俺はそういうキャラじゃない」涙は見せないと思ったけど…


──11月15日の騎乗を最後に、24年半に及ぶジョッキー人生に幕を下ろされました。調教師としてセカンドキャリアをスタートさせたわけですが、転身についてはいつ頃から考えていらっしゃったんですか?

坂井 考え始めたのは4年くらい前ですかねぇ。ケガが続いたこともあって、成績が下がってきてね。でも、尻すぼみで辞めるのはどうしても悔しくて、「もうちょっと、もうちょっと」と続けていたんですけど、だんだん「あんまり引きずってもなぁ」と思うようになって。

 地方競馬の調教師試験は、2000勝すると一次試験免除なんですよ。だから、とりあえず2000勝はしておこうと思って、それが去年になったということです。そういう意味では、2000勝を区切りにしたところはありますね。

──11月14日に合格発表があって、翌日が最後の騎乗になったわけですが、それは合格発表以前から決めていたのですか?

坂井 合格発表の日を確認したら、ちょうど大井の最終日の前日で。免許は11月一杯まであったので、他場で月末まで乗ることもできたんですけど、自分としては大井を最後にしたかった。

──ということは、“不合格”となることは考えていなかった?

坂井 正直ね、試験のデキがめちゃくちゃよかったんですよ。実際、満点に近くてね。試験が終わって、いろんな人に「どうだった?」って聞かれましたけど、「今年は絶対に大丈夫。これで不合格だったら訴える!」とか言ってましたからね(笑)。それくらい自信があった。だから(最後の騎乗となる)15日には、あらかじめ家族も呼んでいました。

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▲11/15のラストライド (C)netkeiba.com


──瑠星騎手も栗東から駆け付けていましたね。その後、12月2日には引退式が行われました。やはり込み上げるものがあったのでは?

坂井 そうなんですよ。自分でもビックリしました。引退レースのときもそうだったんですけど、もう未練もなかったので、とくに感慨深さとかもなかったんです。でも、パドックでたくさんのファンが声を掛けてくれて、最後の直線もいつもとは明らかに違う声援の多さで…。さすがにグッときましたね。

 引退式のときも、最初は全然平気だったんですけど、その場に立ったらジーンときてしまって、「ヤバい…泣くかもしれない」と。でも、そこはグッと堪えました。俺はそういうキャラじゃないからね。泣いたりしたら、ジョッキー仲間に何を言われるかわからない(笑)。

──そっちの気持ちが勝ったんですね(笑)。でも、改めてファンという存在の大きさを実感されたのでは?

坂井 おっしゃる通りで、引退レース、引退式と、あのときほど感謝の気持ちが込み上げたことはありません。俺はすごく負けず嫌いだから、本当はこの終わり方が悔しくて悔しくて仕方がなかった。でも、最後にね、ファンのみなさんのおかげで「ジョッキーになってよかったな」って思えましたから。

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▲パドックに掲げられた横断幕 (C)netkeiba.com


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▲「ファンのみなさんのおかげで、ジョッキーになってよかったなって思えました」 (C)netkeiba.com


──最後にそう思えるなんて最高ですね。

坂井 そうですよね。本音を言えば、めちゃくちゃ悔しいんですよ。最後のほうは、なんかちょっと落ちぶれていたし…。正直、自分の幕切れとして、こういう形は嫌でしたね。

 みんなそうだと思いますけど、俺もすごく大きな夢を持ってジョッキーになった。でも、現実と夢はかけ離れていて…。まぁ冷静に考えたらね、これだけ(2028勝)勝たせてもらったし、頑張ったかなという気持ちもありますけど、今は「そのぶん調教師で結果を出したい」という気持ちが強いです。

──セカンドキャリアのスタートとして、JRAの矢作芳人厩舎を研修先に選んだのはなぜですか?

坂井 倅(瑠星騎手)もお世話になっているし、矢作先生のお父さまは大井で調教師(矢作和人元調教師)をされていたので、俺自身もずいぶんお世話になったんです。

 それに、自分の父親は元厩務員で、弟もそうなんですが、自分が調教師になったらスタッフを大切にしたいとずっと思っていて。「人を大切にする」といえば、矢作先生のスタイルですからね。

──競馬関係者が口を揃えるのは、矢作師は「スタッフの士気を高める調教師」。最高の研修先ですね。

坂井 はい。もちろん調教などにも興味はありますが、一番吸収したいのはそこです。

──しばらくは矢作厩舎で研修を続ける予定ですか?

坂井 いえ、1月の半ばに調教師免許の更新試験があって、それに合わせて大井に帰らないといけないので、そこまでお世話になろうと思っています。

 その後は北海道に行ったり、園田の新子(雅司調教師)のところに行ったり…。新子は同期なんですけど、園田ではずっとNo.1ですからね。そこでもいろいろ勉強させてもらおうかと。

──開業の予定などは決まっているんですか?

坂井 それがね、空きがなくて1年半くらい開業できないんですよ。順番待ちですね。そのぶん、こうやっていろいろ勉強できますけどね。

──ジョッキーで叶えられなかった夢を調教師で…とのことですが、具体的な目標はありますか?

坂井 JRAの馬を負かせるような馬を大井から出したい、それが一番です。自分は交流重賞を勝てなかったし、JRAの騎手試験も3回落ちていますからね。悔しい思いをしてきたぶん、もう負けたくない。それこそ、東京大賞典を勝つような馬をね、自分の手で育ててみたいと思っています。

──最後になりますが、12月14日に瑠星騎手がJRA通算100勝を達成しました。坂井さんの目には、“ジョッキー・坂井瑠星”はどう映っていますか?

坂井 まだ俺の20分の1だからねぇ(笑)。ただひとつ、アイツのいいところは、情熱を持って競馬に向かっていること。それだけでいいんじゃないですかね。

 あとはやっぱり、俺の影響で競馬の世界に入ったわけだから、騎手を辞めるときに「騎手になってよかった」と思えるようなジョッキー人生を送ってほしい。そのためにも、今の情熱をずっと忘れないでいてほしいですね。

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▲瑠星騎手へ願う事…「今の情熱をずっと忘れないでいてほしい」 (C)netkeiba.com


(了)

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